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第59話『星の墓場』

 このまま倒れていては私の命が危ない。コンクリートに固定された右腕を無理やり引きはがす。ぼろ屑のようになっていた右腕は、あっけなく千切れた。

 『分神』はもう使えないかもしれない。産まれてから15年間使い続けていた愛用の右腕は、完全に壊されてしまった。


 千切った先から血が噴き出ているので、緋衣の死体に引っ付いている布の残骸を剥ぎ取り、止血をする。

 止血をしてどうするのだろうか。生きる希望など、もはや無い気がするが。


「・・・・・・二人の死体、埋めよ」

 戦闘を続けることは不可能だ。普通の『分神』も使えず右腕もない状態では、蹂躙されるだけだろう。

 やれることもやりたいことも、そこまで多くない。ならば、せめて友達を弔おう。姫ちゃんと心の死体を安らかに眠らせてあげるべきだ。

 T都を歩く。幽鬼のようにふらりふらりとした足取りで彷徨う。


(姫ちゃん──凪音さん──煙託さん・・・・・・金庫坐さん――)

 皆との思い出を数える。

 確かに存在した、幸せの記憶を。

 思考も身体の感覚もぼやけてきた。私は死ぬのだろうか?


(まあ、別に、もう死んでも――)


「止まりななさい」

 正面から大きな声が聞こえた。

 見ると、300Mほど先の道の中央で、凛としたお姉さんが弓を構えていた。

 顔に痛々しい大きな生傷を負っているが、それでも美人だという事が遠くからでもわかる。


「『13星座』射手座、毛利当奈。ボロボロに弱っている所悪いけれど、貴女を自由にさせておくわけにはいかないの。動いたらそれを敵対行為とみなし、貴女への対応を捕縛から殺害に代えさせてもらうわ」

「・・・・・・はは」

 ばかばかしい。私は生きるつもりなど毛頭ないと言うのに、そんな脅しをかけてくるとは。


「いやーお互い大変ですよね。こんなボロボロになって、何のゆかりも因縁もないのに戦い続けなきゃいけないなんて」


 それが私の望んだ世界だったはずだった。修羅場をくぐりぬけるときに生まれる友情の為に、私は戦っていたはずだった。


 その戦場で、私は全ての仲間を失った。


「じゃーまあ。一発やりますか」

 左手で金槌を構える。思えば、分身ではない自分自身が金槌を握るのは本当に久しぶりだ。


 走り出す。腕がない分、身体が軽い。


「・・・・・・『光陰矢のごとし(テル・アローズ)』」

 弓に光が集まる。光は丸くなり、細く伸び、矢のような形を成した。


(光――高速、回避不可――矢の形状―右撃ち、構え方)

 私は彼女の攻撃をどう避けるか、避けたとしてどう攻めるか。そのことに夢中だった。


 だから、直前まで《《それ》》に気付かなかった。

 毛利の頭上に、弓に集まっている光とはまったく違う色の光の塊が落ちてきていることに気付くことができなかった。


 彼女が弦をはなし、私を撃とうとした瞬間、彼女の身体は光の塊に押しつぶされ消し飛ぶ。


 さらに1フレーム後、大地が光り、跳ね、砕け、巨大な穴が開いた。


 そして私が、加速に耐えきれずに次の一歩を踏み出した瞬間、とてつもない轟音がT都に響いた。

 世界がそのものが墜ちたような音だった。


 そして音と同時に現れた爆風が、私に襲い掛かる。


「うおっお、お、お。っうわ!」

 転んでしまった。強い風のせいで目が開けられない。


「い、一体何が――」

 風がやみ、私は目を開ける。

「ええ・・・・・・嘘でしょ?」



 空から、さっきの光の塊が無数に落ちてきていた。何千、何万の光が、まるで雨のようにT都に降り注いでいる。

 美しい光だ。その光一つ一つが恐ろしき力を持っているとわかっていてもなお美しい。



「そういえば、今日は超大型の流星群が流れると聞きましたけれど――いやおかしいでしょう。流星群がこんな惨事を引き起こすなら、天体ショーみたいな扱われ方をしてませんって」

 そうだ。流星群が大地に届くことは無い。全て大気圏で燃えて消滅する。仮にまかり間違って落ちてくるとしても、こんな異常な力も持っていないはずだし、こんな異常な数も落ちてくるわけがない。

 こんな魔法みたいな異常が起きるわけが――魔法?


「・・・・・・そっか、これ世界ちゃんの魔法か」

 単純な考察の末に、辿りついた答えだった。

 以前英雄省から助け出した少女。危険極まりない能力を持ち、場合によっては戦局を変え尽すほどの兵器になりうると言う少女。


 能力名は『星に願いを』と言っていたはずだ。

 もし、流れ星を巨大化させ、操り、大地に落とす能力があるとするなら、あまりに当たり前の名前ではなかろうか。


 変態殺人鬼がどこで何をしていたかというのもこれで説明がつく。この能力は恐ろしい力を持つ分、自分の身を守ることが非常に難しい。

 誰か強力な護衛が必要だったはずだ。


 そして、魔王軍がなぜこんな大規模な戦争を決行したかという謎にも説明がつく。

 目障りな英雄省を、味方ごと一網打尽にするため。


 英雄省と中央政府、行政機関を潰してさえしまえば、もはやこの国に魔王軍の敵はいない。この国の民衆と土地をすべて魔王軍が握ることができる。

 それを想えば戦力の6割を失うことなど、微々たるとは言わずとも許容できる被害でしかないのだろう。


「結局、私達なんてその程度の価値って事か」

 そんなもんだろう。私もそう思う。

 友達でもなんでもない人の命なんて、私も心底どうでもいい。


 体から力が抜けてしまう。これほど膨大な暴力の前に、小細工や抵抗は無意味だろう。

「私の物語もこれで終わりですか――まあ、なんやかんやで楽しかったですよ。本当」

 裏切られたり、失ったり、傷ついたりしてきた数か月だったけど、生まれて初めて友達ができた。青春をやることができた。


 どれだけ多くの人の人生の壊し、終わらせた、罪深い幸せだったのだとしても。

 ――確かに幸せな青春がそこにあった。


「ばいばい。さようなら」

 誰に言うでもない独り言。

 誰かを求めた私の、一つの結末だった。


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