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第28話『攻略完了!バンドマンとのドキドキデートとその結末』

「英雄省の奴なんてやっぱカスですね。周りの迷惑も考えずに暴れまくるなんて最低じゃあないですか」

「カッハハ! そりゃあねえだろ!」


 私にしては珍しい、客観的で冷静な意見は存外凪音さんには受けたようだ。

 さっきまでは絶望的な顔をしながら昔話を語っていたのに、笑っている。


「無辜の善人たちにとっては死んでいる方が安眠できるわ。・・・・・モッキンバードくれ」

 凪音さんはまだ少しはにかみながら、新しいカクテルを注文した。


「私たちの中に、顔も知らない他人の為に死んだほうがいいほど価値のない人間なんて、変態ペドコンしかいませんよ。私もシンデレラ追加で」

「お前、悟のやつには雑な扱いなのな」

「凪音さんもよくあんな人の頼み聞きますね。姫ちゃんと一緒に女の子を攫ったって話には驚かされましたよ」

「そりゃあお前、あいつの実力わかってんのかよ。純粋な武力だけで言えば魔王軍最強に近いんだぜ? そんなの放っておいたら私達の仕事が二倍に増えるっつーの。適当なガキ攫うほうが楽勝だ」

「女の子が可哀想とは思いません?」

「お前は思うのかよ」

「思いますけど?」

 凪音さんはゲラゲラと哄笑した。


「絶対嘘だ。お前みたいなやつがだれかに可哀想とか思うわけねえ」

 私は大げさに肩をすくめた。


「そんなことありませんよ? 例えばこの前だって――」


 私たちは下らないことを語り合った。

 初恋の相手とその結末、初めて人を殺した時の感覚、ラーメンは何味が嗜好か、中学生の時のテスト勉強、タケノコかキノコか。

 下品な話も、甘酸っぱい話も、オチの無い話も、あるいは珍しくどんでん返しのある話も。色々な話を語り合った。


 ふと、私は聞いた。

「あの・・・・・・歌、聴けます?」

「歌? 今も流れてるじゃねえか」

「違います。凪音さんの歌が聞きたいんです」

 凪音さんは少し面を食らっているように私を見つめた。何かを私の顔から読んだのか、凪音さんは立ち上がった。


「・・・・・・わかったよ。しゃーねーなそんな目で見られたら断れねえだろうがよ」

「歌ってくれるんですね!」

「曲はマッドベリーの曲でいいだろ? 一番歌えるし――。バーテンダー。マイクくれ」

 雑に呼び捨てにされたバーテンダーさんは、顔色一つ変えることなくすぐにマイクを出してくれた。


「メロディはスマホに入ってるし――あ、ああーマイクテステス。――じゃあ行くぞ。マッドベリーで、リアルドリームワールド」


 電撃がほとばしるようなメロディが部屋に流れる。

 目をつぶった凪音さんが口にマイクを近づけ、目と、口を開けた。


「私達の未来、夢幻だとしても――それでも信じたい、現実を――切り開かれるのは絶望ばかり――それでも、それでも――」


 花火が破裂しているかのように激しい爆弾のような音調とスッと耳で聞き取れる、透き通っている凪音さんの美声。

 サビに入る。


「世界は絶望ばかりだとしても――私達の未来は――希望は! 夢は! 現実だと!」


 凪音さんは目から雫を垂らしていた。歌を歌うことはやめない。

 泣いていることに気付いていないのか、それとも気づいている上で無視をしているのか。


 なぜ泣いているかを分析することは私に難しいが、それでも一つ言えることがあるとするなら――凪音さんにとって、この曲と、この曲を一緒に作ったバンド仲間は、宝物なのだろう。


 私もいつか宝物になりたい。


 クライマックス。凪音さんによって作られていた激情のダムが、決壊する。


「世界へ告ぐ! 無為も無意味も無駄も無価値も、夢幻みたいな私達の現実に!」

 凪音さんが、咆える。


「そんな言葉は、ない!」




 最高の音楽を聴いた後の話は、ゆっくりと終わって行った。

 カクテルを飲んで、適当に話をした後、解散しただけだ。


 それでも最後の会話ははっきりと覚えている。

 家に戻り、リビングルームで休んでいるときの話だ。


「今日のデート、どうでした? 楽しめました?」

「あ? 0点だよ、ばーか。選ぶ店は無難だし、相槌も一々癇に障る」

「そうですか・・・・・・やっぱ煙託さんのようにはいきませんね」

「・・・・・・でもまあ、悪いとこばっかじゃなかったかもな。無難ってのはある意味で王道だし、お前から出してくる話題はそれなりに面白い話題多かったよ。相槌がカスなのはカスだけど」

「褒めてくれて幸いです。いやー大変だったんでしたよ? 凪音さんとのデートの為に給料のほとんど――」

「・・・・・・その凪音さんってのやめろ」

「え?」

「心でいい。さんも付けんな。妙に堅苦しい言葉使いもやめろ」

「え? 良いんですか?」

「くどい。凪音さんなんて敬語で呼ばれるのは嫌いなんだよ。――親とか昔のこと思い出しちまう」

「でも――いや、わかった。心」

「なんか人の気持ちを知ったロボットみたいだな」

「ところで・・・・・・私はあなたと友達になれたのでしょうか・・・・・・?」


 酔った人間のことだ。もしかしたら素面だったら違う言葉を吐いていたかもしれない。

 もうその言葉を聞きただすつもりもない。

 ただ、心は確かに言ったのだ。言ってくれたのだ。


「あん? なにいってんだ。あれだけ喋って友達じゃないならなんだってんだよ」

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