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プロローグ

 乙女ゲームの人気No.1攻略対象に転生してしまった。もう一度言おう、俺は乙女ゲームの人気No.1攻略対象に転生してしまった!


 そう、つまり人生勝ち組。可愛い女の子たちとのキャッキャうふふな生活がこの俺を待っていると言っても過言ではない……!この最高の状況に気づいたのは今朝のことだった。




 目が覚めて、ベッドから降りようとしたが降りられなかった。正確に言えばベッドが俺の想像よりデカかった。寝ぼけているのかと思い、目を思いっきり擦って辺りを見回す。


 そこは確かに俺の部屋だった。でも俺の部屋ではない。漫画やら小説やらが乱雑に放置され足の踏み場もなかった狭い部屋が一変。紺色の壁に綺麗な金の模様がいくつも施されただだっ広い部屋に俺はいる。


 煌びやかな装飾に目が眩む。夢でも見ているのかと思い頬をつねろうとしたら、肌よりも先に髪に手が触れた。


 __綺麗な金髪。光に透けて輝くようなその髪はとても長く、腰まで伸びている。


 身に纏っている寝巻きらしきものは、シルクのような手触りでこれにもまた金色の糸で綺麗な刺繍が至る所に施されていた。


……こんなのまるで王子様じゃないか。これから部活の朝練に行こうと思っていたのに、どうしたらいいんだ。時間守らないと顧問にどやされる。遅れた理由が妄想に耽っていたからだなんて事がバレたらグラウンド10周は免れられない。


 とりあえず俺は、幻覚を見ている可能性も考慮して学校へ行くための支度を始めることにした。


 広い部屋に備え付けられている鏡の元へ歩いていく。アンティーク調なその鏡を見て、衝撃を受けた。


 金髪碧眼。筋肉質な体に、180は優にあるであろう身長。どこからどう見ても女子が憧れるあの王子様。そんな奴が鏡の中に居た。


 俺はこいつを見たことがある。……ゲームの中で。


 モテたい、その一心で俺は色んなことをやった。その中で女心を知るために乙女ゲームをしたことがある。難しすぎて最初は誰とも結ばれないエンドを迎え落ち込んだが、意地でなんとかそのゲームの人気No.1だったキャラクター、ユーリ王国の第二王子リーヴァス・ユーリファのみ完全攻略した。


 そしてそいつが今鏡に映った俺、というわけだ。にしても何度見ても綺麗な顔だ。特にキレ目がかっこいい、大人な感じで。自分で見ていて惚れ惚れする。もしこれが夢だったら目が覚めたとき、ショックで死にたくなりそうなくらい格好良い顔してるわ…………。


 怖くなった俺は現実かどうか確認するために両頬を叩いた。パシっという鈍い音と共に確かな痛みが手と頬に伝わった。


 夢じゃない。現実だ。何はともあれ俺は転生したんだ。乙女ゲームの攻略対象に。



 __興奮冷めやらぬまま、俺は乙女ゲームの舞台となる貴族学園の入学式に参加している。


 何とも運がいいことに、俺は物語がちょうど始まる時期に記憶を取り戻すことに成功した。これであの超絶可愛いゲームのヒロインと恋を始めることができるってわけだ。それも嬉しいが、さっき廊下を歩いたときの令嬢たちのあの反応も良かった。



「見て!リーヴァス様よ!!」

「あぁ、なんと麗しいお方なの!」

「頭脳明晰で、剣術も馬術だって、何だってできる完璧なお方なのよ!」



 みんな口を揃えて俺のことをかっこいいだの結婚したいだの言っていた。正直悪い気はしない。いや、もう最高だ。上がる口角を必死に抑え、入学式の挨拶とかいう長話に耳を傾ける。異世界でもこれからは逃れられないのか。


 


 __式も終わり、教室に戻るために廊下を歩く俺の心は浮かれまくりだ。これから、可愛いヒロインとあの曲がり角でぶつかる。互いに人がやって来ている事に気づかず体当たりしてしまい、小柄なヒロインは俺とぶつかって尻もちをついて転んでしまう。そんなヒロインに手を差し出すところからリーヴァスルートは始まる。


 この曲がり角に、ヒロインは必ず現れるはず……



 ドンっ



「いった……!?」



 鈍い音が辺りに響いて、次に聞こえてきたのはヒロインではなく俺の唸り声。何が起きたのかと思い瞑っていた目を開けると、俺の上に馬乗りになったヒロインがそこにいた。


 __は?体格もいいし、ちょっと押されたくらいじゃびくともしない俺の体をこのヒロインは押し倒したって言うのか?どんな馬鹿力だよ。


 ……それよりこの状況、かなりクるものがある。俺のちょうど腹の上くらいに、小柄で華奢で、いい匂いがするゲームのヒロインが乗っかっている。ゲームとは違って肌とか太腿の感触とかがリアルに伝わってきて……、思春期真っ只中の男子高校生には少し刺激が強いというか、できれば早く降りて欲しいというか……



「あ、ごめんなさい!!」

「え、あ、俺のほうこそゴメンナサイ。」



 先に口を開いたのはヒロインの方で、慌てる俺とは対照的に彼女は落ち着いた様子で話を続ける。



「ぶつかっちゃったのは謝ります。でも……」



「私、可愛いから許してくれますよね?」



 ……は?語尾にハートマークがつきそうなほど甘ったるくてわざとらしい言葉。顔を近づけてそう言ってきたヒロインは自信満々な様子だ。


 普通に考えて頭のおかしい人だし、変な展開だ。もし乙女ゲームにこんな行動を取る選択肢が現れても誰も選んだりしないだろう。


 ただ、俺は覚えている。あの乙女ゲームにはこんな感じの狂った選択肢がちらほらあった。確かこの場合は、「彼を押し倒す♡」っていう選択肢があったはずだ。まぁ、良いよな。俺も選んだ事あるし。可愛い女の子に押し倒されて嬉しくない男はいないからな。


 __いやいや、やっていいことと悪い事がある!!と、当事者になって初めて俺があの時選んだヒロインの行動が狂っている事に気づく。



「許してもらえませんか?」



 俺の胸板に手を置いて、あざとい表情で謝ってくるヒロイン。こんな頭のおかしい奴を許すわけ



「許す。全然いいよ。」



 許すに決まってる。だってこんなに可愛いんだから。





 俺はこの後ヒロインに手を差し出されそれに捕まって起き上がった。思えば本当にここからこの頭のおかしい物語は始まったんだと思う。


 俺が初めてプレイした乙女ゲームのシナリオ通りに動く、とち狂った言動をするヒロインにこれから心底悩ませられる事をこの時の俺はまだ知らない。

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