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第9話 灼熱の虫とり

 皮膚一枚、焼けていないことに疑問を抱きつつ安堵し、とりあえず虫あみを手にする。その動作を隙と見たか紅蓮蝶が羽ばたき炎が迫る。


「少し熱くなりそうだね。一応防いでおきますかっ!」


 はじめて動いたミーナがとった行動は──。


 ピンクの水筒の蓋をあけて、下から上に俺と蝶の間を遮るようにした豪快な一振り。カーテンのように広がった水は、一切の熱を通さないベールとなり、ついでのように俺に降り注ぐ。


「ぶはっ! つめたっ!」

「ビリーくん! 今だよ、捕まえて!」


 目を閉じてしまっていたので分からなかったが、俺と同じように水を浴びたと思われる紅蓮蝶は、その身を削がれたように人の頭ほどのサイズとなっていた。


 ただ水を掛けるだけでそうなるものなのかという疑問は隅に追いやって、子供の頃以来のチョウチョ捕りをした。




 逃さないように網の部分を折り畳んだ虫あみは地面に置いておく。まだいるもう1匹が顕現したからだ。


「じゃあビリーくんの初体験も終わったことだし、こっちで済ませちゃうね!」


 こちらを見たミーナは満足そうにそう言い、水筒から水の柱を伸ばしてくるりとその場で1回転してみせた。


 彼女の持つ水の柱は鞭のようにしなり、いともたやすく紅蓮蝶を水平に両断してみせた。




「一体なにが、どうなっているんだ?」


 俺からしたら言われたままに半裸のまま網を振るい、ミーナの手によってクエストが終わりを告げるのを見ていただけだった。


「まぁー、紅蓮蝶ってあんなじゃない? 小さな本体を鉄さえも溶かすとはいえ炎で大きく見せてるだけだからねぇー。水にはとっても弱いんだよー」


 喋り方が戦いの前のそれに戻っている。今ここに危機はないことをそれで確信する。つまり本当にこれで完了。


 しかしそれでも、ただの水でどうにかなるわけがない。あり得ないほどよく冷えていることや、水筒の容量ではとても収まらない水量。天に向かい伸びたあの水柱は。


「それも魔道具ってことか」


 答えの核心ではあると思い口にする。


 きっとまた俺の言いたいことは筒抜けなんだろうけど、それには応えず、ミーナはリュックからひとつの籠を取り出して虫あみの紅蓮蝶を移している。


 不思議なことに籠は燃えることなくミーナの両手の中に収まっている。それもきっと魔道具なんだろう。


「さあ、お店に帰ろっかー」


 ひと仕事終えたミーナが言う。あどけない少女の可愛い笑顔で。




 夕暮れの街道を2人のシルエットが馬車に揺られている。


 帰りの道中で、御者を俺に譲ったミーナは籠の中のチョウチョをニコニコと眺めながら語ってくれた。


「水筒は魔道具で、人間が使うなら冷たい水がたくさん出てくるだけのものだよー。けど私たちのような獣人とか魔力を少し使える人が使うと、とても冷たい水も出せるし、一度にたくさん出す事も出来るのー。使い方に慣れたならちょっとした武器にも出来るかもねー」

「最後のあの攻撃はどう見てもちょっとしたではないけど。だけれどあの舞いは、綺麗だった」


 正直にそう言ってしまった。1回転しただけのそれだけなら舞いなんて呼べないものも、あの瞬間のそれは俺の心を掴んだ。


「んふふ、ありがとぉー。蝶もダリルに持って帰ることが出来てよかったねぇー。ギルドにはこっちので我慢してもらおっかー」


 両断された死骸はそれでもまだ淡い燐光を宿したままで、それが紅蓮蝶のものであることを明らかとしている。


「あの丘にはいつもあいつが出てくるのか?」


 ふと気になったことをきいてみる。


「んーん。今回ので魔力溜まりは解消されたからまだしばらくは、2,3年は出てこないとおもうよ」

「そっか」


 ラタンの街では雑用や害獣の駆除なんかを俺たちはしていた。そうして街の人を守ることに働きがいなんてのを感じていたみんななら、今回のこれは褒めてくれるだろうかとか思った。


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