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第15話 もう狼の声は聞こえない その2

 オオカミ頭の魔獣は姿勢を低く、まるで四つ足のように突進してその大きな口で噛みついてきた。


 迎え撃つことも考えたがやはり魔獣。噛みつきに合わせ、両腕でも掴みかかろうとする動作に大きく横飛びで避ける。


 肩で息をしている。痛手はないがすでに命の危機であると警鐘が鳴っている。


 なぜ、通じない! 豚を惨殺せしめたあの武器を、それと同じ事を可能とする武器を俺は手に入れたはずなのに!


 騙されたか⁉︎ いや、ダリルと行ったあの渓谷での出来事は間違いなく、ダリルはそれを魔剣によるものだと!


 俺のこの剣はこいつにあれと同じ結果をもたらすと!


 またオオカミ頭が俺を喰うために構えている。今度はその長い腕を大きく広げて。


 今度こそ躱すことは叶わないだろう。


 焦りが俺の思考を埋め尽くす。


 ダリルはなんて言っていた? この剣は魔剣。オオカミ頭を仕留めさせてやると。


 違う、そこじゃない。


 もっと大事なこと。そうダリルとの紅蓮蝶の時のこと。


 美味しい水。ダリルのサンドイッチ。冷たい水。似合わない猫のぬいぐるみ⁉︎


 違う! ダリルはどうやって紅蓮蝶を仕留めた⁉︎


 分からない。虫あみの振り方? そんなばかな!


 焦りが邪魔をする。さっきまでの落ち着きはあれは嘘だったのか? 何かを掴んだ気がして勘違いしていただけだ!


 紅蓮蝶なんてこいつとは違うのに!




 もう時間がない。黒い暴風のごとく迫り来る魔獣の攻撃を躱すことはできない。


 思考は巡る、取り留めもなく。


 光が。光の粒が視界を彩る。


 死がそこまで迫っている。


 記憶の奔流に咲き乱れる花たち。あの丘の。一輪のひまわり。


「いつかまたここで、ピクニックしようねー」


 なぜ、この窮地にそんなことが頭をよぎったのか。記憶にない女の子と交わした約束。胸が苦しくなるほどに愛おしい笑顔が、ひまわりが揺れた。交わした約束を守りたい。そのためには生きて──。


 剣がほのかに桃色に光り、苦し紛れに振り上げた軌跡は苦もなくその首をはねとばし、勢いづいて迫り躱せないその巨躯はベールのようなものに阻まれはじかれて左後方へと通り過ぎて行った。




 夢うつつ、命の危機を脱した俺はその場に両膝をつき、涙を流していた。仲間の仇を討てたのだ。


 膝の上に横にして持った剣からは既に桃色の輝きは失われている。俺はなぜだか分からないまま、剣を抱えて泣き続けていた。


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