一緒に帰ろう
「陽太がいなくなった」
俺が両親にそう報告してから数時間が経った。
父さんは近所中を探し回り、母さんはあちこちに電話をかける。けれど、何の成果も挙げられず、二人はぐったりとしていた。
「警察に連絡した方がいい」
そんな風に両親が話しているのを聞いた俺は、家を飛び出した。父さんと母さんでも無理だったのに、警察なんかに陽太が見つけられるとは思えなかった。
だって、陽太はすごく人見知りだから。知らない人が大勢で押し寄せてきたりしたら、怖がって物陰に隠れてしまうに決まってる。
だから陽太を見つけられるのは、家族である俺しかいないんだ。
俺は近所の山へ向かう。直感に従って崖の下を見ると……いた!
「……陽太」
近づいて声をかけたが返事はない。もしかして怒ってるのか? 最後に会った時はケンカ別れしちゃったもんな。仕方なく俺は「ごめん。兄ちゃんが悪かったよ」と謝った。
「早く家に戻ろう。父さんと母さんが心配してるぞ」
「……動けないの」
陽太は小さな声を出した。無理もないか、こんなに折れ曲がった足じゃ。俺は陽太をおぶり、山道を下って家まで帰ることにした。
「僕がどこにいるか、よく分かったね」
「他の奴らには理解できないことが俺には分かるんだよ。第六感ってやつ? まあ、今回はそんなのなくても余裕だったけど」
背中に感じる陽太の重みに、俺は自然と笑顔になる。普段はいがみ合ってばかりだけど、やっぱりこいつがいないのを心のどこかでは寂しいと思っていたんだろう。
陽太も同じことを考えていたのか、「お兄ちゃんが来てくれて嬉しかったよ」と言った。
「やっぱり家族は一緒にいないとね。離れ離れなんてもう嫌だよ」
ふふ、と陽太は笑った。
「お兄ちゃんと話してたら、何だか元気が出てきちゃった。さっきまで全然体に力が入らなかったのに不思議だね。やっぱり家族ってすごいなあ」
陽太の声が溌剌としてくる。俺の首に回された手にもギュッと力がこもっていた。そのあまりの強さに、息苦しさを覚える。
「よ……うた……。やっぱり……怒ってるのか……? ケンカして……俺がお前を……崖の下に、突き飛ばした、こと……」
「違うよ」
陽太は囁くように言った。背中越しの弟の体は冷たくて、心臓の音も伝わってこない。
「僕は一人が嫌なだけ。逝くなら家族揃ってがいいんだ。次はお父さんとお母さんを迎えに行こうね。……さあ、一緒に帰ろう?」
俺の意識は段々と遠くなっていった。