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今でも夢に見るんだぞ

 食人(しょくにん)ギルドというらしい。職人ではなかった。

 というか、今更だけど日本語が通じるらしい。


「『転移者』だから。この世界に来た時点で言葉が通じる。俺は後天的。そういう魔術を使いながら、頑張って覚えた」


 『漂流者』は本当にいろいろ大変なようだ。でも何故食べる人と書くのだろうか?


「ついたぞ」

「ここが………」


 盾と剣の意匠が施された看板。ファンタジーなどで良くみる冒険者ギルドの看板といえば解りやすいか、そんな見た目だった。

 ウエスタンドアがキィ、と鳴くように軋み、コーヤは中に入っていく。


「うわぁ……」


 何故音が聞こえなかったのかと思うほど、騒がしい。真っ昼間から酒を飲む者、カードで何やら賭け事をして叫ぶ者、腕相撲、ナンパ、昼飯、地図を広げて何やら会議など、ザワザワガヤガヤと喧しい。


「……………?」


 なんか、人形みたいに可愛い女の子がこちらを見ている。瞬き一つせず、ピクリとも動かない。まるで本物の人形のように動かない。


「……………」


 後ろを振り向く。誰もいない。やっぱり、私が見られてる? と自分を指差す佳乃子。反応はない。手を振ってみる。


「何してる佳乃子、行くぞ」

「あ、うん………」


 コーヤの言葉に慌てて後を追いかける。チラリと少女を見ると、固まったまま。ひょっとして本当に人形だったりするのだろうか?


「ようこそシヅキ様。依頼の受諾ですか? ステイタスの確認ですか?」

「この子の登録を頼む」

「この子は?」

「『転移者』。盤駒族(ピース)


 瞬間、騒がしいギルド内が静まり返る。ギルド中の視線が佳乃子に注がれる。思わずコーヤの背に隠れる佳乃子。

 『大魔王』と名乗り暴れていた盤駒族(ピース)もいたと言っていた。ユーリアの態度からして、割と最近の話。


「へっへっへっ。作り物の顔か、どうりで可愛いわけだ」

「だかよぉ、そんな奴とつるむのはやめておいたほうがいいぜえ?」

「俺達が安全な異世界生活の仕方を教えてやるよ」


 と、どう見ても破落戸にしか見えない男達がやってくる。自分がこちらでどれだけ強いのかは知らないが、強かったとしても喧嘩もしたことない女子高生が恐ろしい姿をした男達を前に怖がらない訳が無い。


「俺とつるむのはやめたほうが良いとは、どういう了見だ?」

「そりゃお前………!」

「あ!!」


 破落戸がコーヤの腕をつかみ、思わず声をあげる佳乃子。まさか、殴られる!?


「お前頭おかしいんだよ! この子にまで迷惑かけるんじゃないだろうな!?」

「………………は?」

「誰の頭がおかしいって? 迷惑かけたのは謝ったろ。あの時の俺は異世界人らしく、レベルがそのまま強さだと思い込んでたんだよ」

「だからって『俺が死にかけるだけならあんたらとならこの先に迎える』って腕ちぎれかけたまま言われるこっちの気持ちにもなれ!」

「今でも夢に見るんだぞ!?」

「『こっちこいよ〜』って闇の中に俺達を引きずり込むお前がな!」

「え? え……? えぇ〜?」


 何故かコーヤが叱られていて、コーヤといえばその話なら謝っただろと煩そうにしている。


「お前あれだろ! 盤駒族(ピース)がだいたい持ってるアイテムボックス狙ってんだろ!?」

「そこに大量の食材や回復薬を入れれば、ダンジョン深層に挑めると思ってんだろ!?」

「? 佳乃子の同意もなく危険な目に合わせるわけ無いだろ」

「「「俺達は同意なく合わされましたが!?」」」

「それは反省している。また酒を奢ろう」


 と、本気で落ち込むコーヤ。本当に反省しているらしい。それはそれとして、コーヤの過去が気になる。


「コーヤさん、実力は申し分ないのに精神鑑定試験で落ちまくったんですよね。まああの人達に関しては注意書きを見ても誘ったのが悪いんですけど」


 『注意・人格に難あり。適正階層を守らせましょう』と書かれた紙を見せる受付嬢。彼等はよくいる自分の強さを勘違いした若造かと思い、親切心で現実を教えようとしたら自分の力が足りないのを解ったうえで危険に飛び込む異端者だった。


「自分が異端だと理解してないから落ちるんですよ。何が原因か判れば精神鑑定試験なんて簡単に突破出来るのに」

「簡単に突破して良いものなんですか?」

「あれは周りを危険にさらしはしても、危険なタイプじゃありませんしね。それに、仮に人殺しが大好きでも、管理できるなら我々は構いませんよ」


 そもそも食人(しょくにん)なんてものは、危険に飛び込む者は、その時点で人として真っ当ではないのだ。

 ギルドの精神鑑定試験の本質は自分が異端であることを自覚しながら、それをどれだけ世間に隠せるかを調べるためのものなのだ。


「もちろん、名声が欲しい、食うに困ってどうせ死ぬなら稼ごうとして死にたい、なんて方も大歓迎ですよ? 世間からのイメージさえ守れるなら、貴賤はありません」


 ニコリと素敵な笑顔でとんでもないことを言う受付嬢。この世界は、少なくともライトノベルで読んだようなおきれいな物語だけではないのだろうと理解した。


 いや、でも追放系だとギルドがブラックなのも多いような気もする。


「『転移者』の方々は我々のような在り方をツイホー系などと呼んでる物語があるようですが、ご安心を。我々はきちんと観察し、評価します。それでも正当な評価がもらえないなら才能ないか、隠してるか、仲間のピンチに覚醒しないくせに自分が不利益被ると怒りで覚醒する自己中野郎なので面倒は見ません」


 これ言っとかないと後でうるさいんですよね、と笑う受付嬢。過去にも追放系だ〜! と叫ぶ転移者が多かったらしい。


 そういう奴に限って役に立たないか、本当に自己中で新たな仲間に愛想をつかされて孤独にモンスターへと挑み死ぬらしい。

 ギルドの評価に偽りなしということだろう。


「不安だわ。私、精神鑑定試験突破できるかしら…………」

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