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まあ、俺は落ちまくったけど

 茶色と金の美しい毛並みを持ったトラ猫。

 元の世界でもこの世界でもまあまあ見かける普通の猫のようだ、角さえなければ。


「え、じゃああの人は?」


 と、見るからに神様っぽい見た目をした四つ目の青年について尋ねる佳乃子。あんな如何にもな神性が神でないというのなら、神の使い、とか?


「あの人はヤマダタロウさん。種族は盤駒族(ピース)。どっかの並行世界の日本出身で、見た目は若々しいがボケて徘徊してる」

「ボケて徘徊してる!?」

「…………飯はまだかの?」


 因みに元々は暇を持て余した老夫婦がVRMMOをプレイし、しかしタロウさんだけ異世界に転移し、妻と離れ離れになってしまった結果病んでしまったというとても悲しい過去を持ってたりする。


「タロウさん、今飯を作るんで少し待っててください」

「おおタクト君や。気が利くねえ……」


 因みにタクトはタロウさんの義理の息子らしい。


「こんな良い夫をおいて、彼奴は逝っちまった。もう俺等を気にしなくて良いんだがねえ」

「好きでやってるので。また週末会いに行きますよ」

「そうかそうか。悪いねえ………ところで、ハナコを知らんか?」

「ハナコさんは見てませんね」


 お義父さんとも、お義母さんとも言わない。否定も受け入れもしない。それがコーヤが考えた接し方だ。


「何処行っちまったんだろうね………」

「さあ。一先ず、家に戻ってきてください」

「トラキチは………」

「こいつはトラキチじゃありませんよ」

「我が名はトラサン。友が名付けてくれた名である」


 猫が普通に喋った。さっき聞こえた声だった。

 タロウは空を飛びながら帰っていった。帰れるのかな?

 威圧感が消えたということは、あの気配はやはりタロウさんのものではあったのだろう。


「一人で返して、大丈夫?」

「まあ、タロウさんを害せる奴なんてこの国にはいないし」

「そ、そうなんだ。強いんだねタロウさん」


 少なくとも自分のやっていたゲームにああいった種族はいなかった。多分、別のゲームだろう。


「タロウさんは『両面宿儺』という種族らしい」

「リョーメンスクナ? 少名毘古那なら知ってるけど」

「なにそれ知らん」

「ま、元が何であれ私にとっては等しく人さ」


 と、トラサンがコーヤの肩に乗る。スリッと額を頬に擦り付ける姿に佳乃子ははわわ、と羨ましそう。見た目はとてもかわいい猫ちゃんなので、女の子の佳乃子にはドストライクだ。


「はじめましてだね、異界の子よ。彼奴の匂いが強いね」

「え!?」


 と、その言葉に己の腕の匂いを嗅ぐ佳乃子。


「『盤象快楽(ばんしょうけらく)』の事だよ。君達は、あいつの魔法みたいなものだからね」


 そのへんを詳しく聞いた時、コーヤは安堵したそうだ。盤駒族(ピース)としてこの世界に現れていたら、命を常に他人に握られることになっていたのだから。


「それ聞いて私は安堵できないんだけど」

「まあ、より強い存在に命が脅かされるなんて常だ。生物は、そんな当たり前を忘れているけどね」


 もちろん私も、と笑うトラサン。常に死ぬかもと思い生きていける生き物など、神にもいないようだ。要するに気にするだけ無駄と言いたいのだろう。


「まあ、強さが一律で最終的に武装さえすれば制圧できる世界の出身には分かりにくいかもしれないが、核爆弾だっけ? それが打たれたら消し飛ぶだろう?」


 でも誰も撃たれると思って生活はしていない。そんな事を常に心配していれば、生活なんてままならないからだ。


「結局何時もと変わらないって言いたいわけ……ですか? それでも、ギロチンを前にするのと首をかけておくのは違うでしょう」

「良い例えだ。語彙のある相手他の会話は好きだよ、私は。まあ、慣れてくれ」

「それはつまり、ここで暮らすのに問題はないってことか、トラサン」


 と、コーヤが尋ねる。慣れるほど此処にいていいという意味ならば、そういう事になるのだろうが。


「タロウ程度に腰が引ける相手を警戒して追い出したりしないよ。この地を乱さないと約束するなら、好きに生きると良い」


 コーヤはタロウを害せる者はこの国に居ないと言っていた。そのタロウを程度呼ばわりするとは、本当に強いらしい、と佳乃子は改めてトラサンを見る。やはり可愛い。


「じゃあ地上に戻りなさい。出口はあっち………そっちは危険だから近づくんじゃんないよ」

「あっちは?」

「本当の神域。一定以上の強さがないと存在が溶かされるから、近づくなよ」


 ここは土地神の住処ではあるが、玄関口ですらないらしい。本当の神の領域はあの穴の奥から。

 神の許可があっても常人では1日として持たないらしい。


「ああ、そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()。そっちの処理も任せたよ」

「………………………」

「神として神託を与えよう。君が託された夢を叶える為に相応しい試練が、まもなく訪れる」






「面倒な予感しかしねえなあ」

「私の、せい?」

「いや『盤象快楽(ばんしょうけらく)』のせいだろ」


 この世界にゲームが混じるのは全てその魔女のせいなのだ。トラサンの発言からして、混じってきたのは佳乃子の世界の何かだろう。


「NPCとかモンスターなら、どうなるの?」

「設定に沿った人格が与えられる」


 それも全部『盤象快楽(ばんしょうけらく)』の魔法によるもの。つくづく規格外の存在なのだろう。高位の土地神も殺せる『到達者』と言っていたが………。


「『到達者』って?」

「世界の法則を追加したり、自分の法則を押し付ける領域に至った奴等だ。竜神と同等の存在」

「竜神?」

「土地神として崇められる竜は数いれど、竜神を名乗れる神は12体をちょうどいい、この世界の常識とともに俺が教えてやろう」


 そう言いながら、コーヤは一つの建物の前で足を止める。訪れたのは、大きな建物。人が出入りしている。


「国が管理する国営図書館。だいたいの歴史、伝承はここで調べられる。授業してやるよ」


 そういえば色々教えてくれるという約束だった。この世界について学んでおいて、そんは無いはず。ひょっとしたら帰る方法だって見つかるかも。


「お願いします」

「おう。授業中ば俺の事を先生と呼んでいいぞ」


 なんてな、と笑うコーヤの姿に、佳乃子は無意識に微笑んだ。




「身分証をご提示ください」


 営業スマイルを浮かべる受付に、コーヤはフッと笑い、振り返り叫んだ。


「………食人(しょくにん)登録しに行くぞ!」


 どうやら、身分証なくして入ることは不可能なようだ。そして、そのショクニンとやらが手っ取り早く身分証を確保出来るらしい。


「まあ『転移者』や『漂流者』を支援する制度は大概どの国にもあるが、諸々手続きとか必要で最低一ヶ月はかかるからな。その点食人(しょくにん)審査ならある程度の実力と精神鑑定試験を超えたら最速1日………まあ、俺は落ちまくったけど」

「落ちたんだ…………」

「まあ盤駒族(ピース)なら強さは問題ない。佳乃子も大丈夫だろ、うん。きっと、多分…………」

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