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宿から荷物取ってくる

 2メートル以上。3メートルに近い巨女を前に固まる佳乃子。

 角の形からして、牛? それとも鬼だろうか?


「リリアナは女牛人族(カローヴァ)鬼族(オーガ)のハーフだからな。牛鬼ってやつだ」

「オ、オーガ? え、それって………」

「因みに、少なくともこの世界のオーガは親交種と呼ばれる知性体で、リリアナの両親も恋愛結婚だ」


 盤駒族(ピース)、というか転移者の多くははオーガとのハーフと聞くと、そういう想像をするので慣れたものでリリアナは気にした様子はない。


「コウちゃんと同じ転移者なんですってね。親元から離れて大変でしょう? よかったら、ここで暮らしていいからね?」

「あ、はい…………」

「まだ小さいのに。寂しくない?」

「いえ、その…………ま、まだ実感が沸かなくて」

「そう……………」


 約束通り寂しいと言わない佳乃子にふぅ、と安堵するコーヤ達。そんなに悪い人には見えないけど、と首を傾げる佳乃子。


「ユーリアちゃん。部屋に案内してあげて。コウちゃんの部屋も、まだ空いてたわよね」

「は? おい、勝手に──」

「この子はコウちゃんが連れてきたんでしょ?」


 だからちゃんと面倒見なさい、と目が語る。どのみち縛らくは様子は見に来る予定だったし、子供の相手と数日開ける時に事前にリリアナに言わないと行けないのは手間だが宿代の節約になると思えば良いか。


「宿から荷物取ってくる」

「え!? コウ兄此処に戻ってくるの?」

「やったー!」

「一緒に寝よ!」

「本読んで!」

食人(しょくにん)の話聞かせて!」

「ええい、後にしろガキども!」


 子供に目茶苦茶懐かれている。本人は鬱陶しそうにしてるが、乱暴はしてない。後300歳以上のリッケも混じってる。


「あ、そうだ佳乃子。明日、土地神に会いに行くぞ」

「土地神?」

「こっちにはいるんだよ、そういうの。間違っても戦うなんて思うなよ?」

「思わないわよ」


 自分をなんだと思っているんだ、と少しムスッとする佳乃子。


盤駒族(ピース)ゲーム感覚で命を奪うやつが多いんだ。後、ボス倒せば帰れるだろと思いこんで土地神や竜に挑んで殺される奴ら」

「殺されるんだ」

「土地神を殺すやつもいないでも無いが、万人に一人。文字通りの万が一だな。土地神にもよるが、ラスボスと判断するレベルの土地神となると普通に強すぎるし」


 しかし、なるほど。だからユーリアは心配そうな顔をしていたのか。たしか、『大魔王』を名乗っていたのだったか?


「その『大魔王』はどうなったの?」

「土地神の怒りに触れて巨大樹に変えられた。毎週生え変わる枝を、今も切られているそうだ」


 因みに痛みも感じるらしいぞ、と付け足すコーヤの言葉に顔を青くする佳乃子。ここの土地神とは別らしいが、それでも土地神というのが如何に恐ろしいか理解した。


 『大魔王』などと恥ずかしげもなく名乗り暴れるのだ。同じゲームかはともかく、そのプレイヤーは間違いなくレベルカンストした上位プレイヤーだったはず。


「ま、身の程をわきまえて行動すりゃ住みやすい世界だぜ。このスコーピオはな」

「スコーピオ?」

「詳しくは後で話してやる。リッケ、手伝え」

「人使いが荒いなぁ」


 と、文句は言いつつも付いていくリッケ。見た目は十歳だが、引っ越しの役に立つのだろうか? まあ役に立つのだろうな、面倒見のいい彼が連れて行くぐらいだし。





「戻った」

「おお………」


 皮鎧とか砥石が浮いてる。これも魔法だろうか? リッケが得意げということは、彼女の魔法なのだろう。


「私はエルフ。魔力種族(マジックトライブ)魔術師(ウィザードリィ)だからね。これは魔術だよ」

「何が違うの?」

「魔法はガソリンに直接火をつけて燃やすのに対して、魔術は………ライターなんかに入れて火を出すみたいなもんだ。そこも後でな」

「ええ、そうね。コウちゃんが荷物おいてきたら、ご飯にしましょうか」


 リリアナの言葉にコーヤとリッケは2階へ向かう。そこに彼の部屋があるのだろう。






「いただきます」

「「「いただきます!!」」」

「いただきます」

「い、いただきます」


 異世界にもあるらしい食前の言葉。コーヤか、或いは他の転移者が流行らせたのだろうか?


 そんな事を考えながら食事を口に含む。少し硬いパンを噛みちぎると、小麦の匂いが広がる。

 スープを飲めば、温かな熱を感じ汁に溶け込んだ野菜や肉の味が広がり、肉を食えば香辛料の匂いが鼻を抜ける。

 嘘偽りなく本物の感触。機械では再現できない──いずれ出来るかもしれないが──感触が、ここが現実であると思い知らせてくる。





「リリアナさん、良い人そうだったけど」


 どうして警戒させるようなことを言ったのだろう、布団を敷いているユーリアに尋ねる。


「あ〜………母さんは、女牛人族(カローヴァ)って種族なんだけど、その種族の特性が厄介というか」

「?」

「母性というか、庇護欲というか………そういうのがね、強すぎるの。えっと、お乳が栄養満点で抗体もあって、貴族の乳母に雇われることが多いんだけど、甘やかしすぎちゃって」


 それはもうデロッデロに甘やかしすぎて、その貴族の子息が何時までも乳母離れ出来ないし20代になっても乳を吸おうとするしなんなら雇い主の夫婦揃って赤ちゃんプレイの赤ちゃん役になってたこともあるとか。


「子供の基準が曖昧で、甘えてくるなら年上でも全然気にしない別名『ダメ人間製造種族』。特に母さんはハーフだから生殖能力が低くて、その分他の子供に愛を向けて………後、自分より小さいものは全部子供に見えるみたいで…………」


 鬼族(父親)譲りの体格に女牛人族(母親)譲りの愛の深さが嫌な形にマッチした。コーヤは『愛は深いぞ、底なし沼だからな』と言っていたとか。


「だから、弱々しい姿を見せたら全力で甘やかして来ますから気を付けて。想像できますか? 白い髭の生えたおじいさんや普段頼りがいのあるお姉さんが、年下の女性に甘える姿が! しかも、私達のお母さん!」

「…………」


 見たことあるんだなぁ、その姿を。


「兄さんにまで手を出そうとするし! 本当にあの人は見境がなくて! あんなのもう一種の女淫魔(サキュバス)!!」

「え、コーヤさんも?」

「まあ、兄さんは逆に母さんを抱き締めて頭撫でてあげてたけど」


 遠い目をするユーリア。それらそれで嫌な光景だったのだろう。というか、この子ひょっとして………。


「まあ、とにかく気をつけてくださいね。弱いところを見せたら、とても甘やかして溺れさせちゃうので。それもいいと思うなら良いですけど、出来れば子供達の目の届かない所で」


 エルフは不死者(イモータル)とか言う存在で、見た目は操れるらしいが、この子は多分本当に子供なのだろうな、と思った。でも歳の割には大人びてるタイプに違いないとも。

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