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もっと下の階層に潜れたらなあ

 スオル王国首都スオル。

 地下に無限の資源たるダンジョンが存在し、食人(しょくにん)の餌場であり修行場であり稼ぎの場。

 綱弥はそこで魔物を狩っていた。成長限界(レベルマックス)間近。壁にぶち当たり、魔法やスキルを増やしたり剣術道場や格闘技道場に通い技術を学んではや2年。23歳。

 綱弥は少年としか思えぬ容姿のままだった。魔石捕食による老化の遅延化。別段珍しくもない。


「頭打ちのまま5年、珍しくもねえけどさ…………」

「キィヤアアア!!」


 後ろから飛びかかってきた魔物の攻撃を回避し、蹴り飛ばす。壁に激突した魔物に無数の棘を放つも素早い動きで回避される。


「初期階層で苦戦してるってのは、師匠にぶん殴られそうだな!」


 髪の長い猿のような魔物、ヘアーエイプ。

 毛を伸ばし操る【操毛】というスキルを持つ。綱弥には適正がなく、覚えられなかった。なお、育毛剤の材料としてそこそこの値段で取引される。


「シャアア!」


 腕の動きに合わせ髪が伸び槍のように襲ってくる。剣で斬ろうとするも、硬い……。

 数本しか斬れず、刃毀れした剣に髪が絡みつく。手首までし絡みつき、壁に叩きつけられる。

 叩きつけた獲物の首に髪を巻き付け締め上げるヘアーエイプ。綱弥は炎を発し髪の毛を燃やす。


「ギャ!?」

「燃えたのが意外か? クソザル」


 魔力を帯びたものは変化しにくい。生前魔力が高かった死体は何時までも残ってなんなら動き出すし、剣は錆びず折れず曲がらず、魔法で出した水は傷みにくい。

 ただし魔力同士が干渉すれば話は別だ。魔力を帯びた微生物は肉を腐らせ魔法の酸は鉄を溶かす。ただしこれは対処に宿る魔力に近しいか上回る場合。

 このヘアーエイプは魔力が高い。自身の髪を燃やそうとする魔物や食人とも戦ったが、燃やされたことなどなかったのだろう。


「魔力量だけは高いんだよ俺は」


 未だ壁は超えられずとも、魔石採取の依頼は受けず手にした魔石は全て喰らってきた。

 壁にぶつかろうとそれだけすれば魔力は上がる。


【装炎】


「キャアアアア!!?」


 炎を纏った蹴りに腹を焼かれるヘアーエイプ。数メートル吹き飛ばされるも、直ぐに体制を立て直す。咄嗟に増毛してクッション代わりにしたらしい。

 とはいえ、無限に毛を増やせるわけでもない。攻撃手段として使っておいて込められた魔力もあの程度………。

 魔力量はこちらが上。押し切る!


「らあああ!!」

「キ、キィ! キャイアアアアアア!!」


 硬質化した髪の鎧を纏うヘアーエイプ。だが、硬質化しようと髪は髪。炎に焼かれて………


「あれ?」


 焼け、ない? いや、焼けているが表層だけ。

 ぴっちり張り付いた髪の毛は隙間に空気がなくて置くまで焼けない。


「キィ!」

「と!」


 こんな事、今までなかった。魔力が強いだけではない………つまり、上物!


「魔石寄越せ!」


『発頸』


「ゴア!?」


 格闘技道場で習った格闘技術。魔力も使用せずとも魔石の捕食で強化された食人(しょくにん)が放つ格闘技の威力は魔物の命に届きうる。

 内臓が傷付いたのか血を吐き蹲るヘアーエイプ。硬質化した毛が解ける。頭蓋を踏みつけ脳ごと潰す。体がビクビク痙攣し、やがて動かなくなった。

 胸に手を突っ込み魔石を抜き取る。

 噛み砕くが、やはりスキルにも魔法にも目覚めず魔力と身体能力がちょっと上がった。このレベルの相手を食ったにしては少ない。成長限界ではこんなものだ。直にLv.30でなれる強さにも終わりが訪れる。


「もっと下の階層に潜れたらなあ」

「なら私達とパーティー組めばいいのに」


 と、不意に声をかけられる。振り向くと4人の男女混在パーティーがいた。


「やだね、お前無理矢理魔石食わせるじゃん」

「私としては心配してあげてるんだけどな〜。ほら、君の例外にも当てはまると思うよ?」


 そう笑うのは人形のような………といかまんま動く人形の人形族(クークラ)の少女アイラ。ケラケラと嗜虐的な笑みを浮かべている。

 綱弥をよくパーティーに誘ってくる。最初はダンジョンで出会い、そのまま会話するようになって、1年目ぐらいからだったか。


『アイラ、無理に誘うのは良くない』


 こちらは機人族(ミカニ)の男性であるMP-369、他種族言語でマッピー・ミロク。完全なロボット、人形族(クークラ)のような人型など様々だがミロクはロボット型だ。綱弥は一度方に乗せてもらった。楽しかった。


「お気持はわかります。心配ですからね」


 見た目初老の翼人族(フテラ)であるツァール・ロロが微笑ましい、というような顔をする。翼はとてもフワフワで、綱弥に友好の証として羽ペンをくれた。


「僕としても欲しいよ、君。ソロで5年間も中層手前に来れる子って少ないからね」


 リーダーである人間族(ヒューム)のレグム。

 見た目は20代ほどだが、間違いなく綱弥の師匠より強い。というか強すぎて強いことしかわからない。


「というか嫌なら止めるから、本当の理由を話して」

「は、嘘なの?」


 レグムの言葉にアイラがギロリと綱弥を睨む。綱弥は目を逸らした。


「ウソジャナイヨ?」

「目ぇみて言えコラー!!」


 こうやは にげだした!

 しかし まわりこまれてしまった!


「……だってあんたら、最強目指してないじゃん」

「…………そうだね。才能を言い訳に、諦めたよ。壁を超えるのは、生半可な力じゃ足りないからね」

「最強を目指す俺と冒険するなら、その人達も最強目指してねえと。それか凄く強いけど俺が壁超えるために何かをするのを黙ってみてくれる人」


 そういう意味ではレグムだけなら別に仲間になっても良いのだが、と視線を向けるとニッコリ笑みを返された。


「それって、あんたが死にかけてもほうっておけっていうの?」

「それが俺の成長に必要なことなら。まあ、童貞捨てて成長限界を超えた奴も居るらしいけど」

「ど……っ!?」

『コーヤは試したのですか?』

「ああ、娼館で高い金払って………無意味だったけどな。そのくせ高い、次の成長限界まで二度と行くか」


 ミロクは次も行くのか、と思った。でもそこは個人の自由なので口にしない。


「ふ〜ん…………ふ〜〜〜ん」


 アイラは面白くなさそうだ。


「ほらほら、そろそろ開放してあげよう。僕達は先に進むし、彼も依頼があるからね」


 レグムの言葉に綱弥はヘアーエイプの死体を掴むと歩き始めた。あれが今回の依頼なのだろう。


『アイラはどうして彼に関わるんだい?』

「だって……彼奴の夢は、彼奴のものじゃないんだもの」


 師との約束。それが今の綱弥が生きる理由。そこに綱弥本人の意志があったとしても、他の人間が抱く目標に比べれば希薄だろう。

 この世界でたった一人自分を世話してくれたという男の夢を叶えるために生きている。何だそれは、まるで()()のようではないか。

 人形から成った生粋の人形族(クークラ)であるアイラは、その生き方が気に食わない。


「彼奴は困ってる人見かけたら助けに行って子供には優しくして………それだけでいいのに人の夢まで追う」


 街中で何度も見かけた彼が人助けする様子。自分の買った菓子を渡して子供をあやし、浮浪者に身を落とした者に働き口を探してやり、人から物を盗む輩を追いかけ取り返す。

 毎日潜らず、週に一度は世話になっている孤児院の子供達の面倒を見て食人(しょくにん)を目指す子にただで勉強会を開く。

 最強だけを目指すなら不要な事だ。きっとそれが彼の素なのだろう。自分も助けられた。


「生きたいように生きられず縛られるなら、人形と同じじゃない」

「そうかなぁ………」


 と、レグムは口を挟む。


「お世話になった人の夢を叶えてあげたいと思うのだって、その人の生き方だと思うけどね………まあ、でもそうだね…………なら彼が本心から最強を目指した時は、受け入れてあげなさい」

「…………………」

「それにしてもそんなに人を助けるのか。今も何処かで人を助けてたりしてね」





「…………女の子?」


 綱弥はダンジョンの帰路で、気絶した女の子を発見していた。


「………取り敢えず地上まで連れてくか」

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