魔石を食べて、目指せ最強
世界は魔力に満ちている。
魔……つまりは人ならざる力。悪しき力。
元々は魔物が持つが故にそう呼ばれ、しかし何時しか人もその力を手にした。
魔なる者共の力を法る御業。故に魔法。
その魔法を手に入れる方法………それは、魔物の核である魔石を喰らうこと。
魔物を殺し、魔石を喰らう者達を人々は何時しか食人と呼ぶようになったという。
スオル王国西部グラフィアス領のとある村、近隣の森にて木々の間を駆け抜ける影。
「ギィ、ゲギョ! ギャゲ、!」
「ガギャギャ! ガギャギャ!」
キィキィと甲高い声で喚くのは薄汚い緑の肌をした醜い小人。
ゴブリンと呼ばれる魔物。人並みの知能を持つが馬鹿なので真似事がせいぜいの魔物。しかし独自の言語を操り群れで行動するのは厄介と言えよう。
「はぁ………はぁ………ああ、くそ………面倒くせえ」
報告では数匹だったのに数十匹は居た。
風切り音に木の上に跳ぶと矢が下を通り抜ける。道中拾っておいた石を咥え、魔力を纏わせ吹き出す。
【吹礫】
銃弾の如く直線で飛びゴブリン・アーチャーの頭蓋を砕き、後ろの木の幹にめり込む。が、一匹だけ。残りのゴブリン・アーチャーが弓を放ってくる。
枝の密集した木の上部に登る。葉や枝が矢の威力を落とし、狙いがそれたそれらの何本かを掴み取り腰につけていたコンパクトボウにつがえ矢を放つ。
「ギィ!?」「ギャギャ!!」
【潜伏】
別の木に飛び移り気配と姿を隠す。
先程までいた木が燃え上がる。酸っぱいような、焦げ臭いような匂い………雷!
ゴブリン・シャーマンを見つけ矢を放つ。喉に突き刺さった。頭目がやられ指揮系統が混乱したゴブリンの群れの中に突っ込み短剣で首を切り落とす。
血を履きながら迫ってきたゴブリン・シャーマンの頭を踏み潰す。喉を貫かれた程度で、直ぐには死なない。心臓を潰されたって暫くは動く。
ゴブリン・シャーマンの死体を持ってすぐに木の上に飛び移る。
「ギャギ! グギャギャ!」
「ギィ、ガガ!」
「ギャッギャァ!」
「追え!」「いや、逃げるぞ」「命令に従え!」「お前が命ずるな」………そんなことを話しているのだろうか………掴み合って喧嘩を始めるゴブリン達。
こいうところは本当に助かる。ゴブリン・シャーマンの胸をナイフで引き裂き、魔石を抜き取り口の中に放り込む。
「…………チッ、相性そこまで良くねえな」
だが、スカではない。残ったゴブリン・アーチャーに向けて【吹礫】を放つ。流石に攻撃されれば集まってきた。木を登ろうと集まってくるゴブリンに対して右手を振り下ろす。
【雷撃】
雷がゴブリン達を焼く。全滅させるほどの威力はなくとも、動けなくなった。
直ぐ様首を切り落とし、頭を砕き絶命させる。
「…………買い替え必要だな」
血と油で汚れ、欠けや歪みもできた剣を見て顔を顰める。
安い数打ちだから仕方ないが、金をためてもっと上等な県を買うべきだろう。
ゴブリン共が持っていた石斧や錆びたナイフを拾い、巣穴を目指す。
妊娠していたメスゴブリンや生まれたばかりの子供を殺し、性処理ように連れてこられた付近の村娘を抱えて村に戻る。村長からサインをもらい街に戻る。
「はい、依頼達成確認しました。こちら、報酬になります………魔石は課金しますか?」
「全部食ってきた。肉の換金で………あと、能力値記録の更新よろしくお願いします」
「承りました」
食人ギルドのカウンターにて、依頼達成の報酬を受け取りゴブリンの死体を換金する。その後銅貨20枚を払い能力値の確認を頼む。
「終わりましたよ、コーヤさん」
「どうも………」
『志筑 綱弥 Lv.16/30 種族・ヒューマン
【アビリティ】
『受動』
【察知】【反響定位】【闇目Lv.3】【毒耐性Lv.2】
『能動』
【潜伏2/6】【探知4/8】【疾走5/9】【縮地3/3】
『戦闘』
【吹礫3/10】【火炎球4/5】【毒牙3/6】【咆哮2/2】【打撃強化5/9】【雷撃0/1】 』
「………こんなもんか」
レベルは一週間前と変わらない。 火炎球の使用回数が増えたのが少々の変化。帰ったら筋トレさせられそうだ。
「じゃあ、俺はこれで」
「はい。またのご利用お待ちしております」
ギルドから帰り、街を出て40分ほど走った村。その村のハズレのあばら家。入ると同時に剣が飛んできた。
「………………」
何時ものこと。剣で弾き、追撃に備え………
「ぐげ!?」
横を風が通り過ぎ、慌てて振り返ろうとした瞬間脇腹に蹴りがめり込む。地面を転がり、立ち上がりながら石を加え礫を放つ。
が、いない。頭上の気配を【察知】するも遅く、顔を上げた瞬間踏み潰される。
「ご………っ………!」
鼻が折れ、血が吹き出す。痛みに蹲りそうになった腹を踏みつけられた。
「なんだぁ………!? ちいっとも強くなってねえじゃねえか!!」
そう叫び、舌打ちしながら綱弥を蹴り飛ばす老人。皺の刻まれた相貌を不快げに歪めている。
「俺ぁ強くなれつったよな? 言ったはずだ。なのにこの体たらく………舐めてんのか? 舐めてんだな! おら立て! 大した成果も残せてねえならせめて飯までにやれることやれ!!」
「!!」
立てと言いながら立つのを待つ気がない老人に向かい【火炎球】を放つ。【吹礫】より遅いが範囲は広い。直前で暴発させ視界を炎で覆う。
炎の中から気配を【探知】し攻撃を【察知】。炎から飛び出してきたナイフが頬と耳を切り裂く痛みを無視して【打撃強化】を使用した拳を放つ。
分厚いゴムに包まれた岩でも叩いたような感触。慌てて腕を引き戻そうとしたが、掴まれる。
引き寄せられ肘が頬を打つ。意識が飛びそうになるのを堪え、折れた歯を吹き出す。
ただの息で飛ばした歯は当たるはずもなく、腹を殴られた。
昼飯の残りが逆流する。
視界が明滅する。地面がひっくり返る。音が遠ざかる。痛みが…………迫る!!
「ぎ!!」
【縮地】を使い距離を取る。だが自分程度の【縮地】など、老人はすの敏捷で軽く上回る。距離を取るのが重要。すぐさま【火炎球】を2発放つ。
右側が弾けると同時に右腕でガード。折れるんじゃないかと思うほどの衝撃が走る。
【毒牙】を【吹礫】で吐き出す。
「ああ? ちっ!」
毒の効かない自分に何をと訝しんだ老人はしかしすぐに狙いを察する。狙ったのは牛、彼の財産。死なせるわけにも行かず横を通り抜けた歯の欠片に振り向き弾く。その背に最後の【火炎球】をゼロ距離で叩きつけた。
「づううう!!」
熱が肌を焼く。瞼は閉じたが、それでもきつい。
「火力の調整もできねえのか!!」
「────!!」
罵声が飛び膝が顎を砕く。
途切れゆく意識の中見えたのは無傷の老人だった。
「それでまた大怪我してるのか。怪物退治より師匠につけられた傷が重症ってのはなんともなぁ」
村の医療施設………というのも烏滸がましい、老いた治療師の家。
神官の起こす神聖術とは違う魔力を通して行う治療。体の中からいじられるような感覚が相変わらずなれない。
「ほれ、治療終わったぞ」
ポーションも使い傷一つなく治癒された。
これで明日も問題なくギルドでクエストを受けられる。
「儂からも言ってやろうか?」
「いったところで無駄だよ。それに、痛くて苦しいけど師匠が居なけりゃ俺はとっくに野垂れ死んでる……転移者でもない、ただの漂流者だからな。強くなるのが恩返しになるなら、最強だって目指すさ。それに、師匠は死ぬならそれまでって考えだけど本気で殺しには来てないしな」
「普通はそれでも逃げるには十分だがなあ」
「逃げる場所なんてねえし………それに、何時か12世界を回って、黒雲海の向こうをみたいから。それには強が必要だろ?」
その言葉に肩をすくめる治療師。12世界ならともかく、黒雲海の向こう側など御伽話の類いだ。
志筑 綱弥はここではない世界で生まれた。
日本と呼ばれる平穏な国で、勇者召喚だの異世界転移だのは書物やアニメから知識として得たが、じゃあ体験しろと言われてもふざけんなとしか言いようがない。
ある日気づけば夜の森。毒の牙を持った狼に襲われ、腕を骨が見えるほど噛まれ石でなんとか頭を叩き砕くも死にかけたところを偏屈な老人に拾われた。
性格が糞だから家庭を持てず、晩年になり異世界人を弟子として育てようなどと考えた変わり者。
(まあ助かったけどさ…………)
この世界の異世界人は大きく分けて2種類。
深界と呼ばれる12世界を覆う膜の向こう側にあるとされる『界層』を通ってきた転移者。召喚や偶発的な事故で現れ、深界の上位存在に力を与えられたり、深界を通ることにより膨大なエネルギーを得てこの世界に降り立つ存在。所謂チート持ちという奴だ。なんの苦労もせずに力を得るなんて羨ましいことだ。まあこの世界の上流階級は割とそんな感じだけど。
もう一つは完全偶発性の、先の転移者達が通った『穴』に落ちた者達や、世界同士が近づき世界を覆う膜が触れ合った主観に渡ってきた者達。
深界の力に触れず来たためなんの特集能力も持たない。綱弥はこちら側だ。
強くなるためにはひたすら鍛え、魔石を食らう必要がある。
(…………要するに経験値だよな)
この世界におけるレベルとは強さの段階のようなもの。上がらなくても筋力や体術、知恵などは鍛えられるが一つの節目を超えると一気に変化する。
その変化も頭打ちがある。それが限界レベル………ただし、これは壁だ。これを超えた者は爆発的に成長する。
「ゲームで例えるならキャラの限界突破ってやつか?」
毒草たっぷりの師匠特性クソマズシチューを食いながら呟く綱弥。龍と蟻のLv.1は当然天と地ほどの差があるが、壁を超えたLv.30と限界レベルがまだまだ先のLv.30では同じ種族でもかなりの差が生まれるらしい。
まあ限界レベルが高いやつほど一つのレベルで上がる強さの段階が高いから一様にとは言えないが………。
だから強くなるにはひたすら魔石を食って、限界を超えるしかない。超え方も人それぞれ。誰かを守るために限界を超える英雄的な行動を行う奴も居れば、自分第一で仲間から見捨てられ一人になるまで超えられない奴もいる。
ただただ成すべきことがあるから終わりたくないと限界を越える者だって当然いる。
「お前はどれだ? 誰かのために命を捨てる馬鹿か? 自分しか考えねえクズが? 信念なんて似合わねえもんを持ち合わせた間抜けか?」
「さあ………わからん」
「ちっ………」
ここでなにか明確な答えを出していたら今度は食器が飛んできたことだろう。
「明日から毒を強くするからな、種類も変える」
「……………」
そのうえで次の日も食人としての仕事をさせられるんだよなぁ、と綱弥は空を見上げる。
虫の毒、魚の毒、鉱毒、獣の毒、植物の毒……色々試されてアビリティに【毒耐性】が発現したし、毒作成の技術も学ばされた。今の戦闘スタイルは何方かといえば斥候や暗殺者だろう。
いや、斥候だ。鍵開け、罠解除なんかも学んでるし………。
ゲロゲロ吐いて腹も下して、朝飯で栄養を補い魔物退治。
遺跡を根城にしたゴブリン、家畜を己の毒で侵して保存する毒牙狼、山を穴だらけにしていずれ崩壊させる城蟻………。
退治しながら魔石を喰い、レベルも頭打ち。後は技量をひたすら上げる日々。そんな日々を3年ほど続け………
師匠の方が限界になった。
「魔石を多く取り込んだ者は寿命も伸びる………後天的に不死者になった連中もいるぐらいだ………儂はなれなかったがな」
「そっか………」
それでも100年以上生きているらしいから、綱弥の世界に比べれば長生きだが。
「儂は最強になりたかった………最強になれば何もかも手に入ると思っていたからな」
金も、女も、権力も………そして、自由も。
誰に蔑まれることもなく、誰に奪われることもない存在になりたかった。だが現実は甘くなく、騙され、奪われ、蔑まれ、結局勉強の少し強い老食人にしかなれなかった。
「………お前は別に最強なんて目指さなくていい。儂のようにはなるな」
「え、言われなくてもあんたみたいな糞爺にはなりたくないしなれないと思うけど?」
「ぶっ殺すぞ糞餓鬼ゃあ!!」
「ぎゃあ! 全然元気じゃねえか!!」
死にかけの老人に一方的にボコボコにされた。本当に死ぬのかこいつと突っ込みたくなるほど元気だ。
殴り疲れた師匠は脾臓の酒樽を取り出す。綱弥も魔石を取り込みまくったおかげで体の成長が緩やかになっているが年齢的には成人しているので問題ない。
朝まで飲み明かす。
師の大袈裟な武勇伝からくだらない失敗を聞き、自分のこれまでの冒険や元の世界での話をして…………朝には、眠るように亡くなった。
死体に火を焚べ、魔力のせいで燃えにくい死体を懸命に燃やす。
半日以上かけて漸く灰になった遺灰を壺に詰め、生前の約束通り川に流す。
「…………………」
師はこの村の最後の住人。皆引っ越すか、死んだ。
この村のじきに植物に覆われるだろう。師から最後に渡された魔石をポケットから取り出す。
元の世界に変える方法は不明。この数千年で時代を無視して侍だの22世紀のVRゲームキャラクターだのが現れても、元の世界に帰還したものは居ない。力のない漂流者は簡単に死ぬし、力持ってるぜひゃっほーな馬鹿はこの世界の強者にぶっ殺されてる。どちらにも当てはまらず長生きした連中も結局は帰還方法を見つけられずに死ぬ。
まあ12世界同士の行き来なら出来るが……。
「12世界を渡るにはめっちゃ金がいるけどな………」
この12世界は世界の膜の中に12の人が住める世界が存在する。一応沿っているらしいがほぼほぼ平らな世界が12。その下に存在する黒雲海の下にも世界があるとされるから正確には13の世界が存在し、界洋を渡る船で行き出来る。あとは上位の竜種の背に乗るか………。
身元が不確かな自分は高級な仕事には付きにくく、竜の背に乗るのだって強がいる。結局は稼げるように強くならなくてはならないのだ…………。
師の形見である魔石を噛み砕く。相性は微妙だが、強力な魔石のためアビリティは増えた感覚がする。
「魔石を食べて、目指せ最強!」
結局こんな世界で幸福を得るには力がいるのだ。ならば今日も魔石を食らう。
志筑綱弥 21歳
本作の主人公。チート特典を持ってないので魔石を食べて自己強化を図る。現在レベルの頭打ち。
12世界のそれぞれの名に疑問を持ったことはあるが数年経って気にするのをやめた。元の世界に変えることも半ば諦めている。
師匠
綱弥曰く「ヘドロを煮詰めたクソみたいな性格」。子供相手に容赦なく暴力を振るうが彼が居なければ野垂れ死んでいたのできちんと感謝してる。
ああはなりたくないけど尊敬はしてる。一応死なないようにはしてくれたけど、死んだら死んだでそうかで済ませてた。
ゴブリン
別に人間を孕ませることは出来ないがオットセイとペンギンのように正処理に利用する事がある。シャーマンがボーナス経験値