91シルシェ視点
「どうするんですか?! トール様だけじゃなくてノヴァまで見失ってしまったではありませんか」
「ちょっと黙っててください」
怒り狂うクミンを宥めすかそうとするが頭に血が昇ったクミンはこちらの話を聞かずにぼかすかと殴ってくる。
力は手加減してくれているみたいだが、同じ場所を何度も叩いてくるからそれなりに痛い。
「追いかけますよ」
「どうやってですか?! 私は崖なんて降りれませんよ!」
「ええ、ですから迂回して」
迷いの森と呼ばれている場所だから見つけられるかは不明だが、このままノヴァを見捨てるよりはマシだ。
それを分かっているからか今度はクミンも文句を言わずに着いて来ている。
「離れるなよ」
「分かっています」
その割には周囲の方を気にし過ぎだ。
トール様が見つからない今はクミンの気持ちも分からなくはないが、ノヴァの安否も心配だ。
あの高さなら落ちたら助からないだろうが、あいつは運がいいから怪我ぐらいしかしてないだろうがこの森は何が起こるか分からない。
しばらく前からこちらの後を着けて来る気配がある。それが魔獣なのか人なのかは分からないが接触してくる様子もないので放っておいているが、危害を加えて来るつもりならこちら側から始末してしまえばいい。
「シルシェあの辺りから崖下に行けない?」
答えるよりも先に異臭とジューと何かが焼ける音にまさかと思いクミンを見れば右腕からどす黒い色をした汁が滴り落ちていた。
「それは……あまり異能は使うな」
「トール様も居ませんのにノヴァまで失う訳にはいきませんもの。大丈夫誰も見ていません」
そういう問題じゃないと言いたいが確かにノヴァは心配だ。仕方なくこちらを見張る気配に気を配る。
「行きましょう」
そのままクミンの作業を見守ってるといつの間にか毒で溶けた地面が坂になっている。
「大丈夫か?」
クミンの異能は勇者一行どころか俺たちに比べると少ない。まあ、一般的な異能持ちぐらいだと思えばいいが、クミンの異能の特性を考えるとあまり使わせ続けるのもどうかと思う。
「少し疲れましたけど、まだ平気です」
「それなら行こう」
本当に無理ならばクミンは無理せずに言う奴だから本当に平気なのだろう。最後に後ろを振り返ってから坂を駆けおりた。




