9勇者視点
旅の仲間が全員ではないが揃った。
今すぐに全員を集めることが出来ないのはリュリュ様も分かってくれるはず。
「はやく会いたいですわね」
「そうだな」
「なあ、聖女様ってやっぱり可愛いんだろ? どうだった?」
「ちょっと、不謹慎ですわよ!」
国保有の魔法使いのアマンダに答えていると狩人のクロッチェにそんなことを言われ思わず顔が歪んでしまう。
確かにリュリュ様はくりくりとした水色の瞳はキラキラと輝いて目を引く。ちょっと低めな鼻に小さくて可愛らしい唇、全体的に小さな顔に年相応に色付いた頬、一際目を引く腰まである紅茶色の髪は一度見たら忘れられない愛らしい少女だった。
下衆なことを言うクロッチェにはあんまり見せたくはない。というか、会わせていいのだろうか?
その上リュリュ様は見た目は可愛くて大人そうなのに、こちらの意見を撥ね付ける気の強さはなかなかで、かなり好感が持てた。
彼女が仲間を集めてからじゃないと怖くてどうしようもないと言うので、仲間を集めていたら彼女の元に戻るのにかなりの時間が経ってしまった。待たせ過ぎてこちらのことを忘れられてないか心配になる。
前に王都の役人と行った時、注意事項として時間を開けると知らん顔をされるとあると聞いてたので、余計に心配になってきた。
やはり小まめに戻って来るべきだったか? いや、でも、リュリュ様は全員揃ってからって言ってたし、それに逐一戻って来るとなると全員集めるまで時間が余計に掛かって出発が遅れてしまう。
だったらリュリュ様を連れ出して……いや、それは彼女がもっとも嫌がるやり方だ。小さかった頃に神官だか役人だったか忘れたが、無理やり連れて行こうとしたらかなり嫌われてしまい幼い頃は役人というだけで逃げられていたらしい。
今でも役人との早く会話を終わらせたがっているので、彼女の役人嫌いは相当のようで、彼女に嫌われるのはかなり遠慮したい。
神官は村に近付こうとすると村人たちからも石が飛んで来たと報告をしてきたらしくそれからは訪れてないそうだが、仲間の神官を連れて来てよかったのだろうか?
神官のモンスパルには一人で村近くに待機してもらっていた方がいいような気がする。
「何物思いに耽ってんだ。勇者はムッツリなのか?」
「えっいや、ちがっ」
騎士のセルジオにからかわれたところでどっと笑いが起こったが、からかわれた本人は顔を赤くさせているので違うと言ったところで説得力がない。
「あ、ほらもうすぐ着くみたいですよ」
モンスパルが指差す先には確かに数ヶ月前に寄った彼女の村の入り口が見えた。モンスパルには村の外で待機してもらいたい旨を話して待機してもらってる。あんまり遅くなってモンスパルを待たせるといけないのでリュリュ様を早く連れて来なければ。
ようやく会えると思うと足が速くなるが、仲間たちは今度は何も言わずに着いてきてくれた。
「?」
前に村に来た時に感した長閑な空気はどこかに行ってしまったかのように暗い。
「あの」
フイッ
「なんだありゃ」
通り掛かった村人に声を掛けてもそそくさと目も合わさずに走り去ってしまった。
クロッチェがそそくさと去って行った村人の背中を見送りながら言うが、今来たばかりの俺たちが分かる訳もなくただ困惑するしかない。
「私たちが用があるのは聖女ですわ。村人のことは聖女に聞けばよろしくてよ。早く行きましょう」
「そうだな」
アマンダに返事をしてから前にディレイに教えてもらった彼女の家に向かう。
ようやく会える彼女はびっくりするだろうか? それとも仲間を全員集めたことを褒めてくれるだろうか? 逸る気持ちを抑えて彼女の家のドアをノックした。
「留守か?」
しばらく待ってみても返事がなく肩透かしを喰らった気分になった。
彼女は豊穣の力も持っている為、この村の果樹園や畑などに足繁く通っているからそちらかもしれないと移動してると前にリュリュ様といたミリーと呼ばれていた少女に出くわした。
「あ、ちょうどよかった」
「ごめんなさい! あたしたち何も知らないんです!!」
「へ?」
ミリーは俺たちを見るとそれだけ言って逃げ出してしまった。
一体どうしたんだと追いかけようとするが、途中で見失ってしまった。前に会った時は好意的だったのにいきなり何故。
「どうする?」
「何か変だよこの村」
「分からないが、普通ではないような気がする」
「まあ、勇者がその布被ってるから誰か分からいとかじゃありません? いい加減外したらどうです。お化けみたいですわよ」
「いや、これがないと……」
可愛い可愛いと寄って集って言われるのであんまり外したくはない。ああ、リュリュ様だけは俺の顔を見ても可愛いって言わなかったな。本当に俺と話をしたかっただけだと分かってあれは嬉しかった。
それからは村の中を歩き回ったが、みんな知らんぷりか逃げ出してしまって話しにならない。リュリュ様も見つからないしどうなってるんだ?
「おぉーい! 大変だ!」
「セルジオだわ。それとあれは?」
セルジオが誰か引っ張ってきてる。いつの間に離れていたんだと思ったが、引っ張ってきている人を見てそんなの頭から抜けた。あの服は確か役人の──
「ディレイ殿だ!」
これで村の人たちの態度が変わった理由が分かる! と喜んだのもつかの間俺たちの気分は一瞬で地の底に落とされた。
「今なんと……」
「だから言ったでしょ。リュリュ様は死にましたよ」
聞いた話を信じられなくてもう一度聞き直したがディレイ殿の返事は変わらなかった。
「なんで……」
「あなたが行ってしばらくして我々も用事が出来たのでこの村を出発してからしばらくして熊が出たらしくて、それに食われたらしいです。ああ、あの時村に残っていればこんなことには……」
「嘘だっ……」
「私だって嘘ならどれほどよかったことか……。彼女は見つかってませんし、熊を追いかけて行った連中が彼女の服の切れ端を持って帰ってきました。熊もまだ見つかっていません。私が知っていることはこれで全部ですよ。私だって出世が遠退いてしまって落ち込んでるんです。邪魔しないでくれませんか……」
「勇者……」
アマンダが声を掛けて来たが、それに返事をする余裕がない。
気付いた時にはディレイはいなくなってたし、いつの間にか宿に移っていた。
「モンスパルが神殿に連絡を取るって。何日かしたら戻ってくるからもうしばらくは待て……もし、聖女様が死んでたら予言が変わってくるそうだから」
「彼女は死んでない」
「その可能性も含めての連絡だ。今は辛いだろうけど」
「リュリュ様は死んでない!!」
「勇者?」
彼女は仲間を集めるのをこの村で待つと言ってくれたんだ。それなのに熊に食われて死ぬような方ではない。クロッチェが不思議そうな顔をしているがそれどころではない。
「行くぞ」
「行くぞってどこにだよ」
「もちろんリュリュ様を探しにだよ」
「いや、でも、神殿からの返事を待った方がいいって」
後ろでクロッチェとセルジオが騒いでいたがそんなの知らん。待っていてください。今あなたの勇者があなたを探しに行きます!
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