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困った。
こいつら全く隙がない。
あの街の魔族は全部浄化できたらしくこっそりと逃げ出そうと何度も試みてるんだけど、全然隙がないし、今まであたしがサボってた分だって言ってあちこち連れてかれて浄化浄化って毎日くたくたで逃げ出す暇もない。宿に着いてベッドに倒れ込んだらもう朝ってどういうこと? って毎回思っている。
もしかしたらあたしが逃げ出さないようにってわざとやってるんじゃないかって疑っている。
「それはあなたが今まで逃げ回ってたからでしょう。あたくしたちのせいにしないでくださる」
いちいち突っ掛かってくるのがアマンダとセルジオだったかいう強そうな人。あの人は強そうな見た目に騎士だって言われて納得しそうになったけど、その割には村に来ていた奴らの護衛よりも口調が悪い。
その代わりかは知らないけど神官の人は常に敬語。あと、もう1人いるらしい。その内合流するらしいけど、あたしには関係ないや。
だってあたしはあいつらと行動させられる時はトールたちの方にぴったりくっついてる。時たまアマンダがあたしに喧嘩を売ってくる以外は基本的に無視。
特に勇者は見ただけで嫌になるので視界に入らないようにしているけど、日に何度もこっちに来るから本当に嫌!
「いっそのこと毒でも盛ってやろうかしら」
「怖いこと言うなよ!」
「あれ? ノヴァいつからいたの?」
気づかなかったわよと伝えると呆れたような顔されたけど本当に気づかなかったんだって。
「まあ、いいけど。勇者毒殺するなら俺らの居ないとこでやってくれよ」
「大丈夫。多分まだしない」
目の前に毒草があったから思ったことを言っちゃっただけだよ。今はどこかの街の食糧が足りないからって仕事をさせられている。
「それよりどうしたの?」
「ああ……ここの土地痩せてて畑には向いてないんじゃないか?」
「平気よ」
元々この街は土地が痩せているので他のところから食糧なんだのを買ったり売ったりしていた商売の街らしいけど豊穣ならそんなこと関係ない。
あたしがサボってたからと言われてどこもかしこも薬やなんやらが足りないからと豊穣の異能を使いまくっているのも疲れてる理由の一つなんだけど、こっちは畑仕事は元々やってたからかそんなに苦ではないのよねぇ。
ノヴァには適当に畝を作ってもらって種を蒔けばあっという間に収穫できるぐらいにまで成長する植物たち。
「さ、収穫頼んだ」
「いや、おかしいだろ」
「おかしくない。豊穣ってこんなものよ」
「めちゃくちゃだな」
「そうね。だから色んなところが欲しがるのよ」
豊穣や浄化なんて力がなければ今も村で暮らせられたのよねぇ。
ああ、村のことを思い出したら行商のおじさんに会いたくなった。
魔族に襲撃されなければ会えたのに。というか、あの街に行かなければどこかで立ち往生していたとしても勇者一行に会わなくて済んだんじゃないの?
選択し直せるのならあそこで観光したいって呑気に考えていたあたしをひっぱたいて別のルートでおじさんに会いに行ったのに!
そういえばジルにもタクランさんにも録に挨拶出来なかったし、もう行くこともないだろうからジルと仲直りも出来ないのかな?
「いや、これが終わったら絶対に会いに行く!」
「誰に?」
「あ、トールどうしたの?」
「うん。豊穣って凄いなって見てたんだけど僕も収穫してみたくなったんだけど」
「けど?」
「リュリュの一人言? なんか力いっぱい宣言してるから気になって来たんだ」
「あら、やだ。声に出しちゃってた?」
うっかりおじさんへの愛がほとばしっちゃった。
「で、誰に?」
あらやだと笑っていたらまた聞いてくる。聞かなかったことにしてくれないのか。
「昔お世話になったおじさんによ」
「そういや、リュリュは親とかはいいのか?」
あたしが旅をしている理由はとっくに嘘だってバレてるので親もちゃんといることは話してある。だが、ノヴァ今はそれは聞きたくなかった。
「別にいいよ。あっちは年中仲良しだからあたしが入る間もないの」
ノヴァに返事をしてから近くにあったカゴを取る。
「トールあっちで果物の収穫でもしよう」
「え、でも……」
「薬草ならノヴァが頑張っくれるって。それに、果物の皮や種が薬としても使えるのよ。沢山取らなくちゃ」
「それなら」
「お二人共頑張ってねー」
二人と喋っていたら勇者がこっちに来るのが見えたので慌ててトールの背中を押して移動する。その間にノヴァが勇者の足止めをしてくれているのが見えた。
ノヴァありがとう。あんたの努力は忘れない。




