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この間領主様と話し合ってあたしがここにいることを伏せるのなら協力をすることを約束した。
あと、この街の領主様は女性で最初に魔族に襲撃した時にあたしに子どもを渡してきた人だった。
この街の領主のタクランさんは今年21歳になったばっかりでお父様が亡くなられてすぐに魔族の襲撃にあったのに毎日鎧を着て剣を振り魔族と戦っている。何か見ていると応援したくなる人だ。
「すまないねリュリュ」
「いいえ」
「貴族の保養地としてそれなりに食糧はあるんだけど、いつまでこの襲撃があるか分からないし、近隣の村から補給も受けられないんじゃすぐに食糧が尽きてしまうところだったから」
「いいえあたしは植物しか育てられませんが」
金髪碧眼で肌の色は白く頬はバラ色。見た目だけで言うなら等身大のお人形のような人なのに剣を振り回して戦って口調も服装も男装な麗人って感じで推せる。
領主様のあたしに与えられた部屋の一室で優雅にお茶を飲んでいるけど、今も鎧姿でこの後また外に行くらしい。なんとも勇敢な方だ。
「でも、こんな辛い日も後少しだ」
「何か手立てがあるんですか?」
「いや、他の地でも魔族に襲われているのならば陛下の耳にも入っているはずだ。そうなれば各地に救援が来る。我々はそれまで持ちこたえればいい」
なるほど人頼みって訳か。
それまでにもたなかったらどうするつもりなんだろ?
「もしかしたら勇者に救援してもらえるかもしれない。それまで」
「ぶっ」
「どうした? 具合が悪いのか?」
「……いえ」
ここで勇者が出てくるとは思わなかったからですよ。
「……あの、勇者は来ますかね?」
「当たり前だろ」
タクランさんの瞳はどこまでも澄んでいてそこに疑いは一切見えない。
「勇者は人類の希望であり光だ。魔族との戦いにおいて必ずや先陣を切って戦ってくれるであろう」
「ソウデスカ」
凄い熱心な信者みたいだ。
勇者から逃げてきたことは黙っておいた方がいいだろう。
「そろそろ行こう」
「もうですか?」
タクランさんが来てからまだ30分も経ってない。
「ああ、勇者が来るまではここを守るのは私だ。それまでは私が先陣を切って戦わねばならない。リュリュには怪我の治療もあるだろうが、その力を我が領民のために奮ってくれ」
「分かりました」
タクランさんにはもう一度あたしのことをしっかりと口止めして見送った。
片手が使えないとかなり不便なのでタクランさんに侍女を付けてもらったけど、着替えとかぐらいしか頼みことがないので普段は侍女の仕事に戻ってもらっている。
今日も屋敷の温室で植物を育てる予定なので部屋の片付けだけお願いしてそそくさと部屋を出た。
というか田舎暮らしだったし、旅に出てからはほぼ1人だったし、クミンさんみたいにあれこれと話し掛けてくれる訳でもなく仕事ですって感じで対応されるから息が詰まって仕方ないのよね。
どうしたものか。ここに少ししか滞在しないのならいいんだけど、どれだけここにいることになるか分からない以上は仲良くしておいた方がいいよね? そう思いながら温室に向かうために歩いているあたしの後ろを歩いているジルをちらりと窺うがジルは無言でついてきている。
領主の館には避難してきた人も少なからずいる。
あたしも最初はその人たちと同じようにと言ったけど、やはり豊穣の異能があるためにいい部屋を与えられ護衛としてジルがついてきた。
いつもみたいにおちゃらけてとは言わないけど、話し掛けても相づち以上の返事がないのはないで凄い気まずい。
これどうしたらいいの? 異能のこと黙っていたあたしが悪いの?
誰か教えてよ!!
もしかしたら勇者も来るかもしれないんだっけ。もう何も考えられそうにないんだけど、とりあえずタクランさんが戻って来たらもう一度念押ししておかなくちゃ。




