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さて、ここであたしの前世について説明しよう。
あたしは前世ではこことは違う世界に生まれて多分アラサーかアラフォーだったと思う。そのぐらいの時に亡くなったみたいで死因はぼんやりしてるけど、事故ではなかったと思う。そんな記憶ないから多分風邪かなんか拗らせて死んだんじゃないかな。
結婚はしていたような気もするけどイマイチ覚えてない。
趣味はゲームや漫画で結構なオタクだったと思う。あと、裁縫も得意でコスプレの衣装も作ってたし、一時期レース編みにハマっていた時期もあった。
その中で一番好きだったのが漫画だ。特にファンタジーが好きだった。部屋にはキャラグッズとかいっぱいあったし、休みの日はゲームのイベントに出掛けることもあったし結構楽しい人生だったと思ってる。
仕事はブラックでもなくて人間関係も割りと良かったと思う。
恋人はいなかったけど、自分的には充実した毎日を送ってたと思う。
「なのに今世はあんまりじゃないの!!」
確かに確かにゲームは好きだった。RPGも好んでやっていたけど、いざ自分がそれをリアルにやれと言われたらNOだ。
だって痛いの嫌だし、しかも七人でとか死にに行けと言ってるようなもんじゃないの。ふざけ過ぎてる!! 現実でそんなことしようとするのは無謀でしかない!!
しかも一回も戦ったことのない人間にだ。あたしがそんな旅に出れる訳ないじゃないか!
もし、神様がいるのならば胸ぐら掴んでふざけんなと力の限り罵ってやりたい。なんなら今すぐにでもだ。
「ふざけんなーーー!!」
ちくしょうあの熊いつまでも追いかけてくんじゃねえよ! あんまりにもしつこいからつい今までのことだけじゃなく、前世のことまで回想しちゃったじゃないの!!
熊に襲われるのを偽装しようとしたのが悪かったのか道が悪かったのか村から出てのんきに歩いてたところばったりと出くわしてしまったのだ。
そこから始まる命懸けの追いかけっこ。負けた瞬間死だなんて嫌過ぎる。
「ふざけんなーーー!!」
もう一回叫んだところで後ろを振り向けばやっぱり恐ろしい顔をした熊がついてくる。
異能を使って木とか生やしてるけど、そんなのものともしないあの熊なんなの? そろそろ息切れてきてかなりつらいんだけど。
足元に木を生やしてそのまま木の上に登るか? いや、足を止めたらあっという間にやられる。あいつはそんな顔をしてる。
喰われてたまるかともつれそうになる足を必死に動かす。
こんな時助けてくれる人がいたら秒で惚れる自信があるけど、悲しいかな今日は外出禁止出されてるし、熊退治に出向いた男たちは全く別の方角を今頃のんきに歩いてるのかと思うと涙が出てくる。
この際ラノスでもいい助けてくれと叫ぶが、あいつはしばらく前に仲間探しの旅に出させたのだったと思い出すのはもっと後。
「あっ」
ここにいないラノスを胸中で罵っていると木の根っこに引っかかって体勢を大きく崩してしまった。
ヤバい転ぶ。転んだら熊に追い付かれて喰われる。
「そんな最後嫌ー!!」
手近にあった木を掴んで体勢を立て直し、走って走って逃げる。もう走れないと思っても力の限りに走った。
ゼーハーゼーハー言いながらも熊をようやく振り切った頃には夕暮れ時で髪やら服やら色んな物がぐちゃぐちゃでかなり酷い格好になってしまった。
しかもどこをどう走って来たのかも分からなくて、どっちに行って良いのかすら分からない。完璧に迷った。
「ほ、方位、磁石とか、地図、あれば、よかった、わ」
方位磁石はこの世界にあるのか分かんないし、地図はあったとしても迷っている今役に立つのか分からない。が、言わずにいられない。
「と、というか、まず水よね」
水は用意してなかったからどっかで川をみつけなければ。
もうちょっと息を整えたかったが、そんなことをしてればあっという間に夜になってしまう。
そうなったら身動き出来なくなるから果汁の多い植物でも植えようかな? あー、でも、この辺に生えてるやつじゃないと変に思われちゃうからなんかあったかな?
ちょうどよさげな種持ってたかなと思ったけど、段々面倒くさくなってきちゃって、諦めて疲れた体に鞭打ってゆっくりと水のありそうなところを探すことにした。
ついでに薪も探して、寝床は……木の上でいいか。また熊に追いかけられたらたまったもんじゃないし。寝心地悪くたって背に腹は変えられない。
あ、そういや、偽装の為に持って来たリボン使わなかったな。まあ、でも実際に熊に追いかけられて服破けちゃったし……うん。結果オーライってことで問題ない。問題ない。ぐすん。
「これ着替えないと」
幸い荷物は落っことしてないから着替えは無事そうだけど、着ている服は汗とかでドロドロだし、木に引っかかってあちこちボロボロでもう着られそうにない。これはさすがに捨てないと駄目だな。
ていうか、誰かに会ったらなんて言い訳したらいいのか迷うレベルの見苦しい姿になってると思う。
あ、どっかで切ったのか血も滲んでるし最悪。
「……さすがにこんな時間に山にいる人間なんていないか」
あたしだって熊に追いかけられなきゃ今頃と思ったけど、隣村まで結構距離あったからどっちみち野宿だったわ。
大して変わらないやと、やけっぱちになって水場を探してるとベリーが群生してるところを発見した。やった!
「果物にも水分あるし、お腹空いてきたし……ちょっとだけ」
ベリーの茨で動物避けになんないかなとちょこっと考えたんだけど、前世知識で熊とかの毛皮ではそんなものものともしないと嫌なことを思い出した。
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