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あれからずっと走り続けてそろそろ体力が限界。
こんなに走ったの初めて。明日も生きてたら絶対筋肉痛だ。
こんな時までそんなことを考える余裕があると思うと笑けてきた。
魔族は何回か別の魔族に襲われ掛けたけどガーゴイルみたいな魔族を見たらさっとどこかに消えたのであの魔族がこいつらのリーダーなんじゃないかって思っている。
こいつさえ倒してしまえばあの魔族の群れはどうにかなるかもしれない。
ちらりと周りを見る。
段々と人気のない方へと移動してきたが、そうなるとあちこちに死体が転がっていてこんなことせずに薬草園に駆け込めばよかったと後悔しそうになるけど、自分で決めたことだし。
でも、頑張って逃げただけはある。
今いる場所は砦よりちょっと離れた場所。人気もなく岩場や木もあるから隠れるにはちょうどいい。
ここなら異能を使ったとしても大丈夫でしょ。
手持ちの種は砦の部屋の中に置き去りしてきたのでその辺の植物を魔族を中心に成長させまくる。
突然伸びたり生えてきた植物に魔族が動揺して逃げようとするが、魔族を絡め取るように伸びた植物たちのお陰で逃げられないみたいでギャーギャーうるさく騒いでる。
今のうちに魔族の死角になる場所から音を立てないようにそっと近寄る。
魔法とか使って来ませんようにと祈りながらも何とか後ろにくる。
魔族の後ろに出ると浄化の力を使ってみたものの生きたままは難しいのか、魔族の体の一部がただれたみたいになって悲鳴を上げて逃げようとしてる。
「でも、効果はあると……いっ」
どうしてやろうかと考えていたらいきなり足を掴まれ、そのまま投げ飛ばされて地面にしたたかに激突した。
「うっ……いったぁ……」
顎と右手首を思いっきり打った。ボキッて何か変な音したし、悶絶したいところだけど、魔族がどう出てくるか分からない以上もたもたしてられない。
急いでその場を離れると火球があっちこっち飛び始めた。
「うわわっ!」
やっばっ逆鱗に触れちゃったみたい? あっちこっちに火球が飛んでくるから逃げ込んだ岩場から出られないし、木が燃えたら火事になる。それに捕まえてるあいつも飛び出してくる。
余計なことなんてせずにさっさと仕留めてしまえばよかったかと後悔する。
でも、気になってたからどこかで試したかったし、これを逃すと魔族と戦う機会なんてなさそうって思ったからってのが大きいけどハイリスク過ぎた。何か手首もの凄い勢いでアザが出来てきたんだけど、これって折れてないわよね?
「ってマズい!」
逃げられちゃう。慌てて魔族を捕まえている木を成長させて太くより動きを制限する。
魔族も暴れてるけどこっちだってまけてられない。このまま圧死してから浄化しちゃおうか。それか苦しませず一思いに木で仕留めてしまった方がこの魔族にとってもいいかも。
新たに植物を生やす。蔓草でも勢いがよければ多分いけるはずだと思いながら貫ぬこうとするが硬くて弾かれた。
ガーゴイルって元々石像だっけ? じゃあ、無理か。
石像なら圧死するかも分からないけど、攻撃はされないはずだし動けないから動けないで浄化しやすくなるはずだ。
ガーゴイルの攻撃が届かないところまで移動してからもう一度死角からガーゴイルに向かって浄化の力を放つと今度はがっちがちに身動き出来なくなったからか断末魔を上げて消えていった。
「リュリュ?」
「えっ」
やった! と思って息を吐き掛けたところで後ろから声を掛けらると思わなかったためにずるりと足を滑らせて尻餅をついてしまった。
「なっ、誰?!」
どうしよう見られた。浄化の力にでたらめに成長した植物たち。
せっかく人が居ない方へと突っ走ってきたのに!!!!!!!!!!
ジルだった。
ミランダがあたしが魔族を引き付けたことを伝えて他に戦えそうな兵を連れて来てくれたんだとか。ありがたいけど今じゃないし、どうして来たんだと文句を言ってやりたかったけど疲れてたし、帰りは魔族との戦いながらだったから話なんてする暇なかった。
ていうか、あのガーゴイルみたいな魔族がボスだと思ってたのに全然魔族減ってないの何なの?
あいつボスじゃなかったの? じゃあ、何で他の魔族はあの魔族に追われてる時はどっか行ったんだろ?
ジルはジルで今は忙しいから何も聞かないって態度だったけど、豊穣の異能持ちだからとやけに兵を残して行ってくれた気がする。今あたしたちのそばに4人の兵士が立ってる。
この非常時に。
あと、寝巻きのまま行動してたから毛布も掛けてもらった。
「リュリュ大丈夫だった?」
「ア、ウン。ミランダアリガト」
ここは砦の中の薬草園。結界が張られているお陰で外の喧騒は分からないがあたしたちみたいに避難してきた人たちがいるからいつもみたいに静かではないんだけどね。
せっかく勇者たちから逃げられたのにあいつらに引き渡されちゃう。
もしくはどこかに監禁されるとか? あり得そうだ。こんな時じゃなくても豊穣の異能は助かるし、今は他の街とも分断されているから食糧だけでも増やせるなら喜ばれるだろうし。
顔色の悪いあたしをミランダが心配してくれてるみたいだけど、正直それどころじゃない。
どうしよう逃げる? この魔族の大群の中を? 無理でしょ流石に。
さっきのは一対一で向こうがあたしのことを小馬鹿にしていたからなんとかなったようなもんだ。それに走り回ったりして忘れていたけど風邪引いてたし、結局手首は骨折していたし、顎は打撲してアザになってる。
荷物も部屋に置き去りにしてる。今すぐは無理だ。
ああ、本当にどうなるのかしら。ジルと話したいけど魔族のせいであっちこっち走り回っているらしくて顔も見ない。
あの時ジルと一緒にいた兵の人に内緒にして欲しいとお願いしたんだけど、無視された。ここの偉い人も後で出てくるらしくて今から憂鬱。
熱が上がってきた気がするし、手当てをしてもらったけど、手首も痛い。
痛み止めも飲んだけど、あんまり効いてない気がする。風邪のせい?
「リュリュ寝る?」
「うーん」
熱と痛みのせいで考えはまとまらないし、走り回ったせいで気分も悪くなってきた。これは寝た方がいいかも。
「そうするまた後で起こして」
「うん、おやすみ」




