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「おい、こっち薬足りないぞ!」
「ちょっと待って今作ってるんだから!」
「あんたこっち押さえて!」
「いてぇ……」
伝令役の人に連れてかれた場所はまるで戦場だった。
この街にある砦の中、兵士たちと医師やらここで働いてるらしい兵士たちとは違う服。多分使用人とかかな? みんな同じ服だし。
その人たちがバタバタとあわただしく走り回ったり何かを指示したりしている。
あたしたちは治療に当たっている人たちの指示に従って薬をすりつぶし包帯を巻き他にも細々とした手伝いを言い付けられて休憩する間もなく働き続けている。
これでまだ朝になってないとかあり得なさ過ぎる。
朝になって再び魔族が来るならばさらに怪我人は増えるだろうし、この砦も狙われる可能性だってある。
その辺から聞こえてくる怒鳴り声や呻き声を無視して寝て起きたらここから逃げ出す方が安全なんじゃ?
でもどこに逃げる? 他の地域だってここみたいに襲われてる可能性だってある。そうなったらどこに逃げたって同じだ。
まだ兵が守ってくれるっていうこの砦の方がマシな気がする。
「ヘレンこっちできたわ!」
「そこ置いて新しい包帯持ってきて!」
濃紺の髪を短く肩口辺りでばっさりと切った女性に声を掛けるとすぐに次の指示が飛んでくる。
あたしはこの女性ヘレンって名前なんだけど、そのヘレン付きって言ってもいいくらいこの人から指示が飛んでくるのよ。ちょっとぐらい休憩させて欲しいわ。
あたしと一緒に来ていた人たちもそれぞれ専属みたいになっていてみんなへとへとになってる。
1人だけ涼しい顔してるのはミランダぐらい。どこかでちゃっかり休憩でもしてるんじゃないの? その場所後であたしにも教えて欲しいわ。
「包帯持ってきました」
「あ、じゃあ、薬草取ってきて。場所は……そこの兵! 名前は?」
「ジルベスターであります!」
「あ、うん。ジルね。ジル、この子薬草園まで案内してくれる? んで、あんたはここに書いてある薬草分かる? これ取ってきて」
ヘレンが渡してきた紙には分かりやすくイラスト付き。
いくつか見たことない薬草もあったけど村で育てていた薬草もあったので頷いてジルの後に着いて行く。
薬草園に着いたら先ずは薬草の状態を確認して適当なこと言ってジルには戻ってもらうか離れていてもらおう。
ジルの持つランプの明かりを見失わないように歩いてく。ついでに気になってたことを聞こう。
「あの、すみません。あたしこの街に来たばっかりなんですけど」
「ああ、それは災難でしたね。俺らも普段は酔っぱらいの相手ばっかりしてたからこんなことになるなんて思ってもみなくてね、何もかも後手後手になってる。もし無事に生き残れたら上に鍛え直しさせられるんじゃないかな」
「そ、そうなんですね……」
そこまでは知りたくはなかったけど、あの伝令役の人がわざわざ危険をおかして避難所まで来た理由も分かった。
その後薬草園に到着するまでずっとジルの愚痴を聞かされ続けていた。
あんたの恋人なんて知らないし、愚痴を言ってるつもりなんだろうけど、あたしにはノロケにしか聞こえない。
あたしだって恋人の1人や2人は欲しいわよ。でも、こうやって移動し続けている限り無理じゃない?!
王道の仲間とか居ないんだから。どこかに落ち着いて暮らせる場所があればいいんだけど。
あるかな?
「でも、今はこの街の復興と魔族だな」
「ですね。あのあたし避難所に居て移動も夜だったから街の様子余り分からなかったんですが、そんなに酷いんですか?」
「ああ……本当はこんなこと言うべきじゃないんだろうがな。あいつら徹底的に潰すつもりなのかあっちこっちやられてる」
「そんな……あの、他の地域もここと同じように襲われてるんですか?」
「さあな。奴らが現れた時に援軍は頼みに行ってるがそいつが戻って来るまでに時間が掛かる」
この街には移動系の異能を持った兵は運悪く居ないらしくて移動は馬で行ったらしい。
その兵が途中で襲われてなかったら2、3日中には現れるだろうとのこと。
それは普通なら早いのだろうけど、今の状況じゃ早いのか遅いのかあたしには判断がつかない。
「薬草園はここを真っ直ぐ行けばいい。帰りは分かるか?」
「はい。大丈夫です」
ジルに返事をしてランプを受け取る。ジルはどうするんだ? と思ったけど夜目はきくらしい。
「じゃあ、気をつけろよ」
「ええ」
兵が守ってくれるんじゃなかったの? と思ったけど、異能使う時にどうやって誤魔化すか悩んでいたから居ないのなら居ないで都合がいい。
さっさと薬草園に行って戻ろう。




