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ラノスのとこから疲れたと言い張って家に逃げ帰ってきた。そして、自分の部屋を見渡してどれを持って逃げるか考える。
とりあえず着替えとお金は必要だからと大きめの鞄を用意して、それに入れる。旅をしてると食料がいるけど、植生の物ならあたしの能力で何とでもなるからいらないから楽だなー。
必要かなっと思って台所から大きめのナイフを持ってきてそれも入れる。
お肉ばかりは狩りでとるしかない。幸い今世は田舎暮らし。何度か鶏なら捌いたことがあるのでそれも何とかなりそう。……多分。
あ、そうだ鍋も一個拝借しておこう。あと何が必要かな?
「まな板はいるかしら? 大きくて固い葉っぱがあればいいから必要ないかな? ……あ、薬!」
薬草とか必要よね。薬草図鑑でも持ってって適当なところで異能使って売れば路銀も貯まって一石二鳥だ!
そうと決まればお父さんの全く使ってない書斎に入って埃まみれの棚から薬草図鑑を一冊拝借する。結構古そうだけど本の内容がカビる訳でもないから問題ないでしょ! 辞書二冊分くらいの分厚い本でかなり重たいのが難点だけどこれしかここにないから我慢しよう。
これがあればこの辺りに生えてないような薬草だって分かるはずだわ!
ついでに何かあった時用の植物の種を部屋の引き出しから取り出して鞄に投げ入れる。
「大体こんなもんかしら?」
他にも何か必要な物ってあったっけな? 考えてみたが、思い浮かばなかった。
すぐにでも出て行きたいが、話を聞いた直後だと奴らに警戒されてるかもしれないし、ラノスがどれだけ動けるのか分からないので、奴が村にいる今すぐ出るのは得策ではない。
今逃げたところであっという間に捕まってしまう気がする。
「どうやってラノスを村から追い出すかよね」
それから馬があればいいが、この村には農作業の馬が数頭いるけど、あれは足が遅い。それならば行商のおじさんの馬を奪う? いや、愛すべきおじさんの馬を奪うなんてことあたしには出来ない。出来る訳ない。
おじさんが馬が居なくなったことに気付いた時に悲しそうな顔をさせるなんてことは絶対にしたくないしさせたくない。
それにおじさんの馬を盗んで万が一おじさんがあたしを逃がすために協力したと冤罪をかけられでもしたら自分のことを許せなくなりそうだ。
うん。出るのはおじさんがいない日に決定。
「あとはラノスかディレイたちの馬だけど論外よね」
ラノスは村にいてもらったら困るから馬で出て行ってもらうのは当然として、ディレイたちの馬を奪ってやりたい気持ちはある。あるけどあいつらは役人だから奪ったら今後お尋ね者として追われるだろう。それは嫌。
「歩きになるのかぁ」
近くの山には行くからそれなりに体力はある方だと思う。思うけどそれが連日続くとなると大変よねぇ。荷物もあるし、少し荷物減らそうかしら?
どこかで馬が手に入ればいいんだけど。
あと野宿はしたことないから寝袋が欲しい。けど今世の世界にはそんな物はない。作るか? いや、面倒くさい。毛布を持って行くのはちょっと邪魔な気もするけど、まあ、いいや持ってこ。
一通り必要そうな物を集めて一旦ベッドの下に隠す。家族に見つかったら面倒臭いし。
「これでよし」
あとはラノスをどうにかするかだ。やっばり仲間が居ないのは不安だから何人か集まってからもう一回出直せとでも言おう。
他に良い案がないか考えてみたけど、特に思い浮かばなかった為にそれでいいわ。
ディレイたちはラノスに付き合ってまだ村に逗留してるっぽいけど、今回はあたしを王都に連れて行こうとしている訳ではないのでいつもよりやる気がなさそうにぼんやりとしてる。帰れよ。
問題は護衛騎士のケニスぐらいだけど、あの二人はラノスが旅の仲間を集めに行く時はついて行くのかしら? ついて行くのならあいつらが居なくなってから何日かしたらあたしも出立するんだけどどうなのかしら?
昔からここに来る役人はしつこい人とやる気のない人に分かれててディレイはどちらかと言えばしつこいんだけど、今までは村に逗留まではしなかったからどうしたらいいのか困る。
探りを入れに行きたいけど、今までそんなこと聞こうともしなかった人間がそんなこと聞きに行けば警戒されてしまうだろうし。困ったな。
とりあえずラノスは追い出すのは決定で、あの二人はどうしよう。どっかに呼び出して閉じ込める? 古くなった小屋とか村にあったかしら?
荷物はあとでどっか別のところに隠しておかなくっちゃ。鞄パンパンになってるから持ち出す時に誰かに見られたら困るもの。
◇◇◇◇◇◇
あれから二週間。待ちに待った出発の日。
ここまでが長かった。
ラノスには一晩じっくりと悩んだんだけどと切り出して、人数を揃えてから出直せと村から追い出したものの、ディレイとケニスがなかなか村から出て行かず、さらにちょうど良さげな小屋とかも見つからないまま時間だけが過ぎて行き、焦りそうになるのを堪え、普通に見えるように暮らすのに神経をすり減らしてヘトヘトになりながらもあいつらが出ていくのを待った。
何で一緒に行かねえんだよとキレそうになったけど、我慢に我慢を重ねてディレイたちを見送ったのが四日程前になる。
昨日出ていこうと思ったけどタイミング悪く昨日山に熊が出たとかて村の外には出てはいけないと言われてしまったから我慢したんだ。
本当は今日も外出禁止なんだけど、村の男たちが昨日より山奥に見に行くって言ってたからチャンスだ。
もしかしたら熊が出たのはタイミングが良かったのかもしれないし。ほら、村から出て熊に喰われてしまったとか思われて捜索は早々に諦めてもらえたり?
だったらどっかに古くなったリボンでも落としとこうかしら? あ、泥とか付けたらもっとそれっぽくなるかも。
ウキウキしながら荷物を隠していた村外れの木の根元にあった空洞に手を伸ばしてこそこそと男たちが行った方角とは別の方に足を向ける。
「いざ、冒険の旅に出発!」
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