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辻馬車はどうにもならないので諦めて使えそうな物だけいただいてきた。
一瞬あたしの方が盗賊みたいと頭をかすめたが気にしないようにする。
馬は鞍がなくて裸馬になんか乗ったことがなく、どうしようもなかったから怪我の有無だけ確認して解放した。
盗賊に襲われてから数日は追いかけてくるんじゃないかってびくびくしていたが、何もなかったからこれ以上怯えていても仕方ないと切り替えてはたと気付いた。
「そっか、厄介な物盗賊に押し付けて来たからもう教会に行く必要がないんだ!」
これで行商のおじさんのところにまっすぐ行ける!!
一直線でおじさんの住んでいる辺りまで数ヶ月掛かるけど、今まで散々旅をしていたんだもの数ヶ月ぐらいが何さ。
知らない内に手に入れていた危ないブツもなくなったからかこのところぐっすり眠れていて寝覚めもいい。
そういえばこの大陸に戻って来た辺りから魔族だの勇者だの噂を耳にする機会が増えた。
割りと危ない状況か? と思ってもあまり噂が集まってこないので何とも言えない。
行商のおじさんに聞いたら多少は何か分かるかもしれない。
ついでに勇者たちの情報を集めて奴らが居るってところに近付かないようにしよう。
あれ? でも、奴らは別の大陸に居るんだっけ? 魔王ってどこに封印されてるんだろ?
まあ、あたしみたいに勇者だの聖女だの知らなかった人間が魔王が封印されている場所も分かる訳ないか。
勇者だの魔王だののことは考えても仕方ないので一回忘れておじさんのことだけを考えよう。
◇◇◇◇◇◇
おじさんのところに一直線に向かっている途中に何だかんだあんまり観光はしてないなと気づいた。
気付いたら変なことに巻き込まれてるし、ここいらでパーッと観光でもしていいんじゃない? と欲望がむくむくと沸いてくる。
今さらだけどゆっくり観光でもしたい。
おいしいご馳走に温泉、疲れた体にエステもいいわね。
この世界にエステがあるかは知らないけどせめて温泉だけでもと探して温泉街へとたどり着いた。
「おおー!」
日本の温泉街とは違うけどいかにも保養地みたいな場所でいい。
宿は温泉から近い場所にした。温泉に入るからカツラもなし。
髪は短いけど女物の服を着てても何も言われないし問題なし。
温泉は大衆浴場みたいな場所が街中にいくつもあって好きな場所に行ってもいいみたい。
貴族が入るような場所は料金もお高いがサービスもいいらしいのでそっちにした。
貴族御用達だけあって中には石像だとかあってちょっと尻込みしちゃいそうけど広くていい! アメニティも使いたい放題だ。
しかも時間帯がよかったのか人も少なくてゆっくり入れそう。
先に入っていた人たちに会釈をしてからゆっくりと湯船に浸かる。
あたしが入ったのは露天風呂。外の景色も眺められて最高だ。
外からは見えないように結界が張ってあるとかここの従業員が言っていた。
「この後はご馳走食べてゆっくりしようかな。あ、でもお土産とかも見たいわね」
おじさんには何がいいかな? 定番そうな木彫りやお酒? 奥さんにはストールとか伝統的な民族衣装とかもいいかな? でも、着なかったら邪魔よね。
「ん?」
そんなことを考えながら湯船に浸かっていると何だか騒がしい。
一緒に入っていた人たちも慌てている。
「あの、何かあったんですか?」
「えっ、えぇ……魔族が攻めて来たみたいなの」
「えっ?!」
「だから避難しないと」
近くにいた人に聞いてみたらそんな返事が返ってきてびっくりしてる。
彼女たちも混乱しているみたいで慌てて服を着るとどこかへと走って行った。
「そんな……」
魔王の力のカケラは盗賊に渡して関係なくなったと思ってたのに!!!!
それとも聖女って奴は魔族にバレてしまうものなの?
それだったら今までにもっと出くわしているはずだ。それなのに村を出てから魔族に出くわしたのは一回だけ。
それならば──
「ここにあのカケラがある?」
慌てて服を着て外に出ると空には魔族の大群。
地上は魔族から逃げ惑う人々に何とかして迎え撃とうとするこの街の警備兵らしき人たち、その警備兵の半数は逃げ惑う人々の誘導をする兵と別れていた。
「すみません何がどうなってるんですか?!」
「危ないから避難していて!!」
誘導している兵に尋ねても避難しろしか言わない。
というか、ここに来たばかりだからどこに避難したらいいか分からないんだけど……。
あの調子じゃ誰に聞いても同じよね。
宿に戻って避難所の場所を聞こうかな。そういえばどうしてあの魔族たちは攻撃してこないんだろ? 仲間を待ってるとか?




