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「帰って来てしまった……」
生まれた国ではないけど、もう戻ってくることはないだろうと思って出た大陸は思った以上に早く戻って来てしまった。
前回使った港は理由は知らないが封鎖されているとかで使えなくなっていたので今回は違う港。
あの国に戻るには今回の港はかなり遠かったから行商のおじさんに会いに行くには旅費が高くなりそうだけどこればっかりは仕方ないよね。
ついでにカナリアさんのお店に行きたかったけどそれは旅費とか時間を考えると無理そうよね。
「というかこんな危ない物だったのなら渡しちゃいけないわよね」
一個は向こうが入れてた訳だからそれに限っては巻き込またんじゃないかとも思うけど、先に2つ手に入れてたのはあたしだからなんとも言えない気持ちになる。
一番近い教会はどこだろ?
魔王の力のカケラなんて危ない物を預けるのなら小さな教会じゃダメよね。
でも、大き過ぎてもあたしだと気付かれる可能がある。
こっそりと置いて行けたらいいんだけど、あたしのことだうっかりやらかしかねない。
そこそこの規模で人の出入りが多くてあたしの顔とか覚えられないようなところがいい。
なので色々と調べて候補は4つに絞った。
まず1つ目のメルディーナ教会。
それなりに栄えた街にあるので人の出入りも多くて紛れ込みやすい。
2つ目クルシュナー教会。
この国の王都にあるので大きくてかなりの人が出入りするんだとか。
3つ目シェリスター教会。
観光地にあるそうなのでここも人で賑わっているんだとか。
4つ目ダッタラス教会。
この国にある教会じゃ三番目の規模の教会でお忍びで貴族とかが来るらしい。
とりあえず2つ目と4つ目は辞めておこう。
1か3だけど観光地かぁ。
散々迷った結果メルディーナ教会にした。
観光地は気になったものの無難な方がいいと思ったから。
だから今はメルディーナ教会に行くための旅をしているところ。
あたしが今いる場所からは直通の辻馬車はなかったから途中までは歩きでメルディーナ教会に行くための辻馬車があるクロフェスタという街に向かっている。
そこまでは大変だけど、辻馬車に乗れたら多少はゆっくり出来るはずだ。
◇◇◇◇◇◇
「おい、早くしろ!!」
「やめてください!!」
「くそがっ」
どうしてこんなことになっているのでしょうか。
メルディーナ教会へ行くためにクロフェスタという街まで来たのはよかった。
メルディーナ教会行きの辻馬車もすんなりと見つかり、それに乗り込んだらすぐに出発だったためにラッキーって喜んでいたのがいけなかったのか旅の疲れを癒すためにクロフェスタで一泊するべきだったのかと自分の運のなさに嘆くしかない。
あたしが乗っていた辻馬車は横転している。
それを取り囲むのはかなりガラの悪そうな中年から青年期の男性ばかり。
彼らの手には剣だの棍棒だの振り回されたら危なさそうな物が握られている。
頼りになりそうだった御者の姿は全く見えない。
逃げたのかそれとも殺されたか、あんまり考えたくはないけどこいつらの仲間だったか。
今は一緒に乗って人たちと後ろ手で縛られて一ヶ所に集められてしまったとこ。
「金目の物はこれだけか? 足りねえなぁ」
「こいつらどうします」
頭領らしきおっさんに声を掛ける下っぱらしき青年。
その言葉に怯える同乗者たち。
あたしの他に乗っていたのは商人らしきおじさんと農夫婦みたいな男女とその子どもの女の子。女の子は横転した時にどこかにぶつかったのかぐったりしている。
早く手当てしてあげたいけど今の状況じゃこいつらやっつけて逃げ出すのも出来るかどうか。
あたしの荷物は幸いただの鞄とぬいぐるみといくつかの着替えのみ。
ぬいぐるみはただのおもちゃだと思われたのか鼻で笑われて返されたから持っている。
異能を使って逃げようかとも思うけど、こいつらに顔を覚えられてしまう可能性もある。
「女はガキと……まあまあだな。連れてけ」
「いや!」
「何をするんだ!」
「あなた!!」
カツラは黒髪の短髪にしているからこのカツラを使わなければいいだけだ。
少々もったいない気はするがこのままこいつらに殺されるよりはいいだろ。凹凸が足りないせいか短髪の髪型のお陰でこいつらはあたしのこと完全に弱そうなガキとしか思って……あ、ダメじゃん。
うっかりしてた。豊穣の異能なんか使ったらあたしが狙われる。もしかしたらこの人たちも全員殺されるかもしれないし、どこかの国と取り引きの材料となってしまうかも。
逃げ出した身だからひっそりと暮らしたいからそういった面倒ごとは避けたい。
だけど、この人たちが危ない目に合うのも見逃せないのよ。
そりゃ戦えないけどせめて何か……。
「あ、そうだ! すみません!!」
これでダメならなるようにしかならない。一か八かでやってやろうじゃないの!!
「うるせえ! 黙ってろ」
「嫌です! 僕は死にたくない! この宝玉をあげますから助けてください!!」
ぬいぐるみからうまく出したつもりがぽろりと落ちてしまった。
しかし、それでも不思議な光を放つそれは盗賊たちの視線を釘付けにするには充分だった。
「これは洞窟で見つけて高く売れそうだったから持ってたんです! 他にもあるらしくて」
「……おい」
「な、何でしょうか」
食いついたの? 表情はあまり分からないがこれに食いついてくれなきゃ終わりのような気がする。
盗賊に押し付けてあたしはハッピーライフを過ごすのよ。
「どこでこれを見つけた?」
「ええと旅をしている時に偶然寄った洞窟で」
「なるほど。他にあるってのは場所は知っているのか?」
「いえ、でも僕たちを解放してくれるなら僕が手に入れたのを全部渡します」
「……全部でいくつ持っている?」
「4つです」
「嘘じゃねえよな」
「殺されるかもしれない状況で嘘なんかつきません」
同乗者の人たちがあたしたちのやり取りを固唾を飲んで見守っている。
盗賊たちは顔を見合せどうするんだと相談している。さっきあたしの鞄を漁った奴が変な顔してるけど余計なこと言うなよ!
渡してぐさりとかされたくはないけど、どうなるかドキドキだわ。
「先に出せ」
「嫌です。出した途端に殺されたくはありません」
「チッ外してやれ」
とりあえずは大丈夫そう。
盗賊の1人が縄をほどいてくれた。同乗者の人たちはホッとしたような顔をしてちらちらとこちらに視線をくれていたが、盗賊たちに睨まれたらあっさりと行ってしまった。
あたしも彼らと一緒に行きたかったけど交渉を持ち掛けたのはあたしだからこればっかりは仕方ないよね。
「出せ」
「その前に殺さないと約束してください」
「……ああ、わかったよ!」
やった!
これで殺されなくて済む。
鞄を漁る振りをして残りの宝玉も取り出した。
「おおっ!」
盗賊たちは宝玉に目を輝かせている。
宝玉を渡すのは怖かったけど渡したらあっという間に盗賊たちは姿を消してしまった。
残されたのは横転した辻馬車とあたし。
どうすんのこれ?




