45トール視点
「リュリュは今どこかな?」
「調べますか?」
「いや、いいよ」
クミンに返事をしてからリュリュのことを思い出す。
ノヴァが連れて来た赤い髪の女の子。
最初は可愛い子だなぁって思って次に表情がくるくる変わってもっと色んな表情が見たくなった。
その内手元に置いておきたいと思うようになったのに母さんたちが余計なことをしてしまったらしく慌てて逃げ出してしまった。
「トール様お客様がいらっしゃいました」
「僕に? 父さんたちじゃなくて?」
「向こうはそう言っています」
今しがたやって来た使用人が僕に来客だと告げる。
僕は帰って来てからは親戚の人たちが騒がしくなっているからって大人しくしているようにと言われてるからリュリュと祭りに出かけた時以外は家で大人しくしている。
「一応父さんたちに連絡しといて。相手は名乗った?」
「はい、あの、それが……」
今までハキハキと答えていたのでいきなりいいよどむ姿を不審に思い声を掛けて来た使用人の顔をまじまじと見つめる。
黒髪の30代ぐらいの大人しい男。まだこちらに戻って来てからの日が浅いため使用人の名前までは全員覚え切れてないが、この男は何度か見たことがある。
「トール様が聞いてらしているのにどうして答えないの?」
クミンもまごつく男に不審に思ったのか器用に片眉だけはね上げて問うた。
「それが、他の大陸からきた勇者だと……」
勇者?
その言葉にクミンと思わず顔を見合せる。
「勇者を名乗っていいのは正式に認めらた者だけだったよね」
「はい、どこの国に現れるのかは時代によって違いますが、国と教会に認められる必要があります。それ以外の方が勇者を名乗る場合は重罪です」
クミンの言葉にそうだよねと相槌を打ちながらどうしようか考える。
母さんがこの国の祭司の一族の出だから繋ぎを取って欲しいのなら僕ではなく母さんのところに行くだろう。
だが、相手は僕を指名していると言う。
「どうなさいますか?」
「シルシェを呼んで」
リュリュには言ってなかったけどシルシェとノヴァとクミンの三人は護衛も兼任してくれている。
クミンがシルシェを呼びに行ったのを横目で見ながら面倒だなと思う。
ノヴァの方が感情や思ったことがすぐに出てしまうためあまり向いてないような気はするが、海外での慣れない生活に昔から付き合ってくれている。
もう家族のような存在だ。そんな兄のような彼に向いてないから辞めてなんて言えない。
だが、人に会う時に護衛を付けないなんてあり得ないのでいつも通りにクミンと、今回は相手が偽物の可能性もあるが勇者と名乗っている以上警戒する必要がある。
今回はシルシェに着いて来てもらおう。ノヴァは今度父さんたちにたノンて何かしらの仕事を振ってもらおう。
「どこに案内したの?」
「南向きの庭が見える部屋に」
「案内して」
「……かしこまりました」
クミンがシルシェを連れて戻って来たので名前も覚えていない使用人に声を掛けて移動する。
シルシェには既にクミンが説明してくれてあるだろうから僕から改めて説明する必要はないだろう。
「こちらです」
しばらく黙って使用人の後ろを歩いているとようやく部屋に着いたのか使用人は軽く頭を下げ中に居る人たちに声を掛け扉を開いた。
中に入ると男女数人。金に茶色にとカラフルな頭の色をした人たちがいた。
ここにリュリュの赤い頭が加わったらさらにカラフルなことになりそうだ。
「お待たせしました」
「いえ」
ちらりと彼らの顔を見る。
皆整った顔立ちをしている。特に代表なのか僕に返事をした男性は中性的な見た目をしている。
とりあえず彼らの前に座るとクミンがお茶を出してくれた。
後ろでは多分シルシェが睨みをきかせてくれているのか先ほどより空気がピリッとしたものになった。
とりあえず父さんたちはまだ来て居ないみたいだ。
まあ、忙しいから仕方ないのかもしれないが、不審者かもしれない奴らと僕を会わせるのに使用人たちにも何も言わなかったのは少々思うところはある。
「すみません僕は体が弱くてあまり長くは話せないのですが」
「構いません。無理を言ったのはこちらなので」
ラノスと名乗った青年にアマンダ、セルジオ、モンスパル、カナリア。この場には居ないがクロッチェという名前の仲間が居るそうだ。
クロッチェは別の国に行っているとか。
そんなことを話す彼らをお茶を飲みながらゆっくりと観察する。
カナリアという少女だけ幼い。
聞けば少々不思議な生まれのために自分探しの旅と言えばいいのか分からないが、彼らに着いて行けば何か分かるのではと育ての親に言われて着いて来たんだとか。
「ナーダさんは怒ると怖いんですけど、とってもいい人なんですよ」
カナリアという少女はニコニコしながら言うのでこちらもにこやかに微笑んでいた。
「こんにちは。うちの息子の友達かしら?」
「母さん」
父さんじゃないの? と首を傾げていたら父さんは忙しいから来れないといい、僕にしか聞こえないように声を落として「向こうが勇者と名乗るのなら私が来た方がいいと思って」となんとも頼もしいことを言ってくれた。
「いえ、俺たちは勇者です」
「へぇ」
値踏みする母さんの顔は獲物を狙う猛獣のようだ。
味方だからいいけど、これが自称勇者たちは怯えるかもしれないと彼らを見るもあまり興味がなさそうな顔をしていておやっと思った。
「勇者といえばリュリュちゃんも言っていたわね」
「っ!!」
「「?」」
母さんの言葉にカナリア以外の勇者たちが立ち上がった。
「どうかしましたか?」
「あの、その名をどちらで」
「え? 僕の友達ですが?」
「それって赤毛の女の子でしたの? それとも違う方なのかしら?」
「どうしてですか?」
見ず知らずの人のために、しかも大事なリュリュのことを話さなくてはならないのかと少々ムッとしながら尋ねると横須賀から母さんが僕の前を手で遮った。
「トールちょっと待ってなさい」
「でも、母さん!」
「この子が理解してないみたいだから詳しく話してくださる?」
その後彼らが語った話によると神託が下り聖女と勇者が魔王の封印のし直しの旅に旅立つはずが聖女が逃げて行方を探りつつ魔王の封印が解けていないか確認中。
その聖女の名がリュリュ。
「母さんは知ってたの?」
「何となく? でも、聖女が1人で行動する訳がないし訳ありかなって思ってお兄様のところに連れて行ったらやっぱりって感じだったの」
「リュリュ様はこちらに滞在しているのですか!?」
「……2ヶ月ぐらい前に旅に出ると」
「私はお兄様が魔王の力のカケラを渡したからそれを浄化したから旅に出たのかと思って引き止めなかったの。あなたたちの話が本当だとしたら引き止めておけばよかったわね」
この人たちと母さんの話に何だかくらくらしてきた。
リュリュが聖女で豊穣の異能持ち。
そういえばクミンに植物の種をねだっていたって聞いた覚えがあるし、花が好きだと言っていたのは豊穣の異能を持っていたからなのかと今なら納得できそうだ。
「それで僕のところに来たのはリュリュのため?」
話が終わったのならそろそろお引き取りを願いたい。今夜は熱が出てしまいそうな予感がする。
そう思うのに彼らは中々動かない。
「いえ、そうではなく。実はご子息にお願いがあって来ました」
「……すみません。この子疲れたみたいでその話は別の日に改めて」
「いえ、俺たちはご子息に旅に同行していただきたく」
母さんに向かって勇者が頭を下げた。
「彼の持つ癒しとの異能を是非とも」
「無理よ。この子は体が弱くて旅なんかさせられない。それにね、この子は療養から帰ってきたばかりでようやく家族としての時間を持つことができるようになったの」
「しかし、魔王が復活しそうな今魔族の動きは活発になってきています! 彼の力は我々に大いに役に立ちます」
「そうよモンスパルの言う通りこれはやらなければならないことよ!」
「それに彼が仲間に入るのは神託にありました」
「……あなたたちがそんな態度だったからリュリュちゃんは逃げちゃったんじゃない?」
「なっ……」
顔を真っ赤にして怒りに震える神官のモンスパルの姿に母さんは敵にしたくはないなと思わされる。
「……改めてまた来ます」
「そう。勇者様のお帰りよ。お見送りをしてあげて」
「はい」
クミンとシルシェが動き扉を開けた。
彼らの姿が消えるのを待ってから母さんに声を掛けた。
「そうねぇ。多分諦めないだろうからしばらくはあなたたちで対処してちょうだい」
「……はい」
クミンとシルシェも彼らの態度が気に食わなかったのかかなり嫌そうな顔をしている。
「勝手に話進めちゃったけどトールはあの人たちに着いて行きたかった?」
「それよりもリュリュの話の方が気になった」
「リュリュちゃんにも事情があったんだと思うわ」
「それは分かってる。豊穣だけでもかなり凄いことだけど浄化まで」
この国には豊穣の異能を持つ人は居ない。
だが、居る国では王族と同じように暮らすのが当たり前だという。
それなのにリュリュはその特権を捨ててまでここまできた。
「リュリュちゃんに会いたい?」
「それは……うん」
「彼らと一緒に行く?」
「反対なんじゃ?」
「反対よ。でもトールが行きたいのなら止めない。さっきのは彼らが一方的過ぎたからついカチンと来ちゃって」
ペロリと舌を出す母さんにもう年だから可愛くないよと言いそうになるが我慢する。
「僕はリュリュと一緒にいたいから行く」
「わかった。勇者になんか負けないでね」
「彼らに返事を」
「あら、もう少し待たせてやりましょ。あなた気付いてないみたいだけど顔が赤いわ。寝なさい」
そういえばくらくらしていたんだった。
今にも出て行きそうだったクミンが戻って来て熱を測ってくれてシルシェに抱え上げられた。
「医者の手配をして参ります」
「お願いね。私は旦那様に話をしてくるから」
「では、トール様戻りますよ」
「うん」




