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場所は聞かれたらまずい内容もあるのでとラノスが泊まっている村で唯一の宿屋に移した。
部屋が一番高い部屋じゃないのは好感が持てたけど、お茶も出さないのはちょっと。
いつぞやミリーが運んでいた花がいい匂いをさせ窓際に飾られてるけど、ちょっと枯れそうになってる。こいつは嫌いだけど花には罪はないし、目の前で枯れてしまうのはちょっと気になるのでラノスに断ってから異能を使って花を元気にさせた。
異能を使う時に出る緑色の光があたしの手と花を包み、元気になっていく姿を見るのはいつ見ても嬉しい。こんな光景を見られるのはあたしだけの特権だ。
それにしてもこいつをどうやって説得するか考えよう。
どこにも行かない理由を聞かれたらこの村がどれだけ好きかと行商に来るおじさんのことがどれだけ好きか延々と語ってやろうと身構えたが、ラノスはちょっと困ったような顔をしただけだった。おじさんへの愛は一時間ぐらい余裕で語れるのに残念だわ。
おじさんが勇者だったらホイホイ着いて行くけど、紅顔の美少年? 美青年? どっちでもいいけど、誘われても嬉しくない。
「とりあえず、あたしが持ってる異能は豊穣よ。聖女なんかじゃないわ」
「……まずは説明させてください」
ラノスの説明によると一年程前に魔王の復活が予言された。
それを証明するかのようにラノスが勇者の剣に選ばれ、今は一緒に魔王を倒す旅に出る仲間を探してるとのこと。
それを聞いて思ったのは勇者自ら探してるのか、ゲームだったら疑問に思わなかったけど、こいつ国側の人間と一緒に来たってことはだ、国の兵とか軍団で戦いに行け。
そういうことを延々と語ってもう一回行かないと答えた。
「いえ、行ってもらわないと困ります」
「いや、あたし豊穣の異能しかないし、あたしが居なくなったらこの村の人たち困るのだから嫌です無理ですごめんなさい帰ってください」
今や村の収入の大半はあたしの異能と前世の知識があってこそだ。あたしが生まれるまでは不作続きで若い人だけじゃなくて年寄りも他に移ろうかって相談していたと聞いた。
それなのに、こいつ一人が来ただけでみんな手のひら返しやがって!!
それならみんなのことほっといてどっか別のところに逃げ出しても問題ない? ……そうよこいつがまだしつこいようならそれもアリだわ!
「まず豊穣の異能のアリュ様が」
「リュリュよ。間違えないでちょうだい」
「失礼しました。それでリュリュ様を聖女と呼ぶ理由ですが」
「その話長い? 長いんだったら何か紙に適当にまとめてきてくんない?」
「……」
何となく名前で呼ばれたくはなかったけど、それよりも名前を間違われる方が我慢が出来なかった。
「いえ、それはできません」
「あっそ」
しまった。アリュじゃないので失礼しますと言って帰ればよかったのにあたしの馬鹿。
キリッとした顔で言われたが、こちとりゃ十年近くも王都の役人追い返してんだ。あんたの顔なんかで靡く訳がない。
「実はリュリュ様には豊穣の異能以外にも浄化の力を持っていたのです」
「それは嘘でしょ」
そんな話聞いたことないし、本当に持っていたら気づくはずだ。気付くわよね?
「いえ、本当なんです。リュリュ様はいつも王都に行くことを断られてますよね」
「そうね」
「その度に異能を使うように指示されてますよね」
「ああ、そういえば」
断る度に何か石と金属が混じったような、よく分からない板を出して来てそれに異能を使えと言われて、毎回お花を咲かせていたっけな。
あ、あれってまさか。
「あれってまさかあたしの異能知られてるの?」
「そうです」
嫌な予感に恐る恐る聞けばあっさりと言われてショックを受ける。
あたしはただ大人しく言うこときくのが癪だったからお花を咲かせてただけで、それだけでも分かるって知ってたらやんなかったわよ。あ……ラノベでそういう設定の水晶だとかあったわ。
うわっ何でそんな大事な設定忘れてたのよあたしの馬鹿!! 王都でしか異能の検査出来ないんだと思ってたのに。
ていうか、どうして能力が2つあったことに気付かなかったの!? 使わなかったから? 使わなかったからなの? 誰かそこんとこ詳しく教えてよ!
「といっても浄化の力を自身で発露させるのは難しいらしく、神官に能力を開花させてもらわないといけないみたいです」
「そうなの?」
手を開いたり閉じたりしながら本当に使えるかどうか試そうと試みるが、よく分かんない。神官に会うことが必要って言うけど、何で神官連れて来なかったのよ!?
あたしはただの村娘だから神官が来ない理由が全くもって分からないけど、非効率的じゃない!?
というか、浄化の能力も異能? 何なの? 異能だっていうのならば、そんな異能ってあったのかと初めて知ったわ。
王都まで行けば異能について詳しく分かるかもしれないけど、散々拒否しまくっといて今さら行きたいと思うのはなんか違うような。
私自分の異能って一個だけだと思っていたのに二個持ってたのね。
ディレイに異能に関する資料とか頼んでみる? 王都に行った方がはやいって言われそうだな。
ってこんなこと考えてる場合じゃなかった。
「あたしが行かなかったら?」
「世界が滅びます」
「そう」
魔王を倒すのはあんたの役目なのにあたしがいないと困るってどういうことよ。勇者だけでも十分じゃん!? ってことを言いたかったけど、ラノスと話してるととても疲れてきた。
「行ってくれますか!?」
「行かない」
「どうして!」
「どうしてって言われてもねぇ。行きたくないものは行きたくない訳で、それはどうしようもないもの。だからこの話しはおしまい。帰らせてもらうわね」
「出来るだけリュリュ様に合わせた旅程にするのでどうか」
いや、あたし今帰るって言ったじゃん!!
しかし、ラノスもかなり必死なのか頭を下げて頼み込んできた。形のいいラノスのつむじを睨み付けながら考える。
この顔ぶん殴ったら気が済むかな? いや、村のラノス信者に殺されるかも。
「……魔王とやらが討伐されたら王都に行かなくてよくなる?」
「それはディレイ殿に聞いてみないことにはなんとも……」
使えないな。舌打ちしたいのをぐっと堪えてまだ考えている振りをする。
どう言われても心に響かないし、王都の連中はあたしとこいつとあと何人いるか分からない人間だけに危険に晒されろと言うのに、どうしてこいつは大人しく従っているのだろう?
やっばり勇者とも呼ばれるような人は正義感も特別強いのかな? あたしには無理だわ。
「ところで旅に出る人数は? 何人集まったの?」
「リュリュ様が最初であと五人程です」
無理。よし、逃げよう。
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