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玲琴様のご実家は魔王の力の欠片を守ってる一族でもあるそうで、玲琴様も子供の頃に数回だけだが見たことがあり、とても綺麗だったとおっしゃられていた。
今度その力の欠片を見てみるかと聞かれたけどお断りした。
危ない物には近寄らない。これ鉄則。
「あれ、でも、こっちに来る前に魔王の封印が解けるとかで勇者がどうのこうのって言ってたけどあれはなんで」
「そうなの? うちにはまだそんな報告来てないけど……ちょっと確認してみるわね」
玲琴様はそう言ってほほえんでくださったけど、あたしってば余計なことを言ってしまったような。
まあ、でも、せっかく振り切って逃げてきたと思って忘れ掛けて来た頃に魔王の名前を聞いたのが悪かったのよ。うん。きっとそうだ。
というか、気になってもほっとけばよかった。せっかく玲琴様とお茶してたのに。
今日は玲琴様に買ってもらった服のお礼とトールのことをお願いをするつもりで来てもらってたのに。お礼を言ってからふと気になって聞くなんてどうかしていた。
「あ、勇者様がいるならリュリュちゃんは勇者様に会ったことある?」
「へ? いや、ないですけど何でですか?」
「会ったことあるんだったらお願いしたいことがあったんだけどないんだったら他の人に頼むから気にしないで」
「いや、そう言われると気になってくるんですが」
あたしにも関係ある話だったら嫌だし……ってあたしにはもう関係ないんだから聞く必要なかった。やっぱり聞くのは辞めよう。
「玲琴様」
「やっぱり? あのね」
止めようと思ったのに玲琴様の方が先に話し出してしまった。
どうしようかと悩んだのはちょっとだけだった。だって、気になったし。話してくれるって言うのなら聞いとこう。
「勇者がいるのなら魔王の力の欠片を勇者に預けておけば安心かなって思ったんだけよ」
「それ危なくないですか」
「そう?」
「そうですよ。魔王の手下が勇者から奪ってくとか考えたらこちらで保管してた方が安全じゃないですか」
「でも、それだと魔族がこちらに来ちゃうでしょ」
私にとってはそっちの方が嫌だという玲琴様にもやっとした。
どうしてもやっとしたんだろうと玲琴様のところから帰る道すがらよくよく考えてみたけれど、答えはすぐに分かった。あたしってば自分が育ったところを捨てたつもりだったのに捨てきれてなかったのね。
玲琴様だって自分たちが生まれ育った場所が魔族に襲われたりしたら傷付くだろうし。
それが分かってちょっとだけすっきりした。
結構薄情だと思っていたのに自分で思っていた以上に育ったところに思い入れがあったのね。まあ、でも勇者が来るまでは一生あの村で暮らすんだと思っていたから当然と言えば当然かもしれない。
そう思うとやっぱり勇者は嫌いだ。
大好きだったおじさんには会えなくなったし、熊には追いかけ回されるし、野宿はしなくちゃいけなかったし、勇者のせいでぼっちになってしまったり、魔族に遭遇するわ、髪も切らなくちゃいけなかったし、トールに会っておいしいご飯にいい寝床に、新しい服……って途中から勇者のことじゃなくてマハリタのことになってるし。
とりあえず勇者嫌いでトールたち大好きってことでいいか。
「おや、君は」
「烏梅様こんにちは」
今度は烏梅様に会った。玲琴様はあちらから来ることが多いからちょくちょく会うのだけれど、烏梅様は遠くから見かけることはあってもこんな風にお話するのはご挨拶以来だわ。
「玲琴と?」
「はい、お茶をいただきました」
そういえばここに来た頃に見た蝿ってどうなったのかしら? 烏梅様たちがどうにかしてくれたのかあれ以来そういった類いの人たちは一切見てない。
「そうか。玲琴はやや強引なところがあるから無理してないかい?」
「大丈夫です。いつもよくしていただいているので寧ろこちらの方が迷惑掛けているんじゃないかって心配になるぐらいよくしてもらってます」
主に金銭的に。服はかなりもらったし、ご飯も高級食材と呼ばれるような物がわりと頻繁に出てくるし、欲しいとお願いするとさっと出てくるのでありがたい通り越していたたまれなくなってくる。
「それは大丈夫。玲琴は娘が出来たと喜んでいるし、玲琴からの話を私も楽しみにしているんだよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言われるとちょっと恥ずかしい。あたし変なことしてないわよね?
「トールとは随分仲がいいようだね」
「いつも優しくしてもらってます」
何でここでトールの話? もしかしてさっさと出て行けってことなのかしら?
「あの、ご迷惑を掛けているのは重々承知していますが、まだこれからのこと考えてなくて」
「ああ、違う違う。本当に迷惑だなんて思ってないから。ただ、ほら、私たちはずっと会ってなかったからあの子のことをもっと知りたいんだ」
「はぁ」
自分でトールに聞けばいいのでは? と思って気の抜けた返事になってしまっていたが、よく考えたら気恥ずかしいのかなと思ったら烏梅様可愛いなオイ。
行商のおじさんが好みだと思っていたけど、あたしってば枯れ専だったのね。そういえばどっかの国境にいた屋台のおじさんにもホレそうになってたんだっけ。
ああ、あたしがもっと年取ってたら烏梅様みたいなおじ様絶対捕まえていたのに! どこかにいいおじ様は残ってないのかしら。
「それだったらあたしに聞くより本人と直接話してください。トールずっと寂しいって言ってましたから」
にこっと笑って伝えれば烏梅様は一瞬だけきょとんとした顔になったが、すぐに「いい案だ」と言ってくれたのでこの親子の溝が埋まるのは案外はやい気がする。
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