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「ここか!」
「おやめください!! 勝手なことをされても困ります!」
「うるさい! ワシを誰だと思ってる! 烏梅の兄だぞっ!」
「存じ上げておりますが……」
「……なんだ。誰もおらぬではないか」
タンスの中からこんにちは。騒がしい音が近付いて来たから慌てて隠れたんだけど隠れて正解だったみたいで太ったおじさんがギャーギャー騒いでいる。
あたしを探してたみたいだったけど、こんな迷惑なおじさん知り合いにいないわ。あたしが知ってるおじさんはみんな優しい人ばっかりよ! 屋敷の人も困ってるじゃない! さっさと帰りなさいよ!!
「ここに異国の小娘がいると聞いて来たのだがどこに隠した」
「異国のですか?」
「そうだ」
蠅に着いて来たのはクミンさんじゃないみたい。知らない人の声にみんなが関わってないと分かって安心する。というか、あたしを探して何する気? 返答によっては容赦しないわよ。
「あのガキが帰って来た時に連れて来たと聞いた」
「……もしやガキとはトール様のことですか?」
あ、トールがガキ呼ばわりされて使用人? の人から冷たい空気が漂い出した。いいぞもっとやっちまえ! ついでにこの部屋から追い出してください。物音立てずにじっとしてるの地味に辛いんで。
「当たり前だろ。あんな見た目でガキと呼んでもらえるだけありがたいと思え! あんな出来損ないにワシがガキと呼んでやったんだありがたく思え!!」
何その言い方! ムカついたけど、今出て行って余計なことをしたくない。あたしに出来ることはここで息を潜めて後日トールの両親にチクってやることだけだ。
今すぐぶん殴ってやりたいけど我慢だ。
「たくっ烏梅は使用人もロクに躾が出来ないのか! ワシが直々に躾してやろうか」
殴るのにちょうどいいものって持ってなかったかしら? テディベアの中身を漁ってみたが手頃なのはあのキラキラ光る石ぐらいか。これを投げてあのうるさい蠅の頭にヒットさせ……ハッいや、あたし何考えてんの! いくらあの蠅がうるさすぎるからったっていくらなんでも殺人はダメよ……うん。ダメなのよ。
「どうかなされましたか。母屋の方まで騒ぎが聞こえて来ましたけれど」
あ、クミンさんが戻って来た。こんな時に戻って来なくてもいいのに。
「なんだお前は」
「トール様の付き人でございますが」
「そうかお前があの出来損ないの」
やっぱり◯そうか。
「出来損ない? わたくしあなたみたいな低能に仕えた覚えはありませんが」
「なっ」
クミンさんて意外と毒舌だったのね。初めて知ったわ。
このままこのうるさい蠅を追い払っちゃってください!!
「ワシを誰だと思ってる! 烏梅の兄だぞ! お前をこのまま解雇することだって出来るんだぞ!!」
「何か勘違いされてるようですが、わたくしを雇ってくださってるのは烏梅様であってあなたではありません。さあ、あなたたち何をしてるのこの勘違い男を外に追い出しなさい」
「まだ言うか!」
「それはこちらの台詞です。トール様が帰って来る時にこのような振る舞いを続けるのであれば出入り禁止を言い渡されているはずですが違いましたか?」
「そ、それは……」
「言い訳は無用です」
しばらくするとシーンとなったのでクミンさんが勝ったみたい。もう行ったかな?
それでもしばらく待ってみてから外に出る。タンスの中は空気が籠って息苦しかったけど、外に出られてホッとする。
「大丈夫でしたか?」
「クミンさん、ええ隠れてましたから」
びっくりした。クミンさんも蠅を追い出すのに一緒に着いて行ったと思ってたからまさかいるとは思わなかった。
「それならいいんですけど、申し訳ございませんでしたわ。わたくし共の不手際であのような騒ぎをお聞かせしてしまい」
「クミンさんのせいじゃないですし、むしろクミンさんが来てくれなかったらあたしがあいつを殴っているところだったんでとってもありがたかったです。それより、お腹空きました」
「そう、ですわね。では、夕飯をお持ちしますので少々お待ちくださいませ」
クミンさんが頭を下げる必要はない。だから気にして欲しくなくて話題を変えればホッとしたような顔をしてくれたのでよかった。
夕飯の時に灯りと共に持って来てくれた食事に豪華過ぎると腰を抜かしかけたのはまた別の話。
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