表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/431

3

「リュリュ! リュリュ!!」

「またか……」


 ミリーが声を弾ませながらこっちに向かって来るのが見えた。ディレイが連れて来たあのあたしのことを聖女と言って付きまとってくる男。風の噂でラノスと聞いた。


 ついでにディレイの護衛騎士はケニスというらしい。初めて知ったよ。いや、聞いたけど忘れちゃった? まあ、どっちでもいいや。


 ラノスと呼ばれる人が来るようになってから今日で一週間。


 その間、彼はフードは一度も外さなかったのにいつの間にか、村中の人からアイドル扱いされるようになっていた。どんな術を使ったんだとドン引きするしかない。


 ミリーもラノスの術にハマった一人で、ラノスの話をするだけで、ほっぺたが薔薇色に輝くのは見ていてちょっと怖い。何で顔を隠してる奴に顔を赤らめるのか全く分かんないからミリーが気持ち悪くなったとしか思えない。ごめんよ。


 そんな態度を取ってるし、あたしは奴が来たら走って逃げるので、いつの間にかラノスの話を聞かずに断る人でなし扱いされるようになってしまった。誠に遺憾である。 


 ディレイたちだけの時までだったら、いつものかみたいな感じでしばらくしたら止めに来てくれる時もあったのに、この変わりようときたらあり得ない。


 田舎のアイドルってなんか本当に怖いんですけど。むしろ何か催眠術的な何かにでも掛かっているのだろうか? それとも新手の宗教? みんなのこと殴ったら元に戻るかな?


「ちょっと聞いてんの!?」

「聞いてない」 


 あたしが遠くに意識を飛ばしている間に横に来ていたミリーにがっくんがっくん揺さぶられながら返事をすれば、汚物を見るような目で見られたけどあたし悪くない。


 ついでに気持ち悪くなってきたからやめて欲しい。吐いてもいいなら続けてもいいわよ。


 ていうか、ずっとここにいたいって言ってるのにそれでもしつこく来る方が悪いんじゃん! あたし悪くない。とっとと帰れこの○○野郎!!


「んもう! で、どうしたの? 下らない用だったらあたし行くわよ。今日は果樹園の収穫が待ってんのよ」


 これ以上揺さぶられたくなくなったので、ミリーに話を振れば、案の定ラノスが来てるとのこと。うん、下らない用だったわ。


「じゃあ、あたし行くからミリー、あたしの変わりに話聞いといてくんない?」

「駄目よ! あたしリュリュ呼んで来るって言っちゃったのよ! はやく行って」

「いやよ。あ、そうだ! あたしの変わりにミリーが話を聞いたら? ラノスだっけ? あの人ともっと話出来ると思うんだけど、確か前にラノスともっと話したいって言ってたじゃん」

「うっ……いや、でも……」

「お近づきになりたいんでしょ」

「あのー」

「「!!」」

「すみません遅かったので……」


 悪魔の囁きを吹き込んでいたところに声を掛けられてミリーと一緒に飛び上がりそうな程驚いた。


 振り返れば奴がいた。というか、噂してた相手がいつの間にかすぐそこにいたら誰だってびっくりするからやめてほしい。っていうか不審者丸出しな格好なのになんで気付かなかったのよあたしの馬鹿!


 こいつも気配消して来ないでよね!!


 ばっくれようとしていた手前バツが悪いが、聞きたくない話をされたくはないのでミリーに頼むわよと耳打ちして逃げる。


「あたし用事あるから話はミリーにしといて!!」


 ついて来るなと言う意味を込めて叫んだつもりだったんだけど、なんでか後ろにぴったりとついて来てる。彼は背後霊かストーカーなんだろうか? やだ怖い。


 背後霊ならお祓いだろうけど、生憎こいつは生身の人間だ。ならばこの国の法律でストーカーから身を守ってくるような法律はあっただろうか? いや、あったとしてもこいつも国側の人間っぽいからあたしを法律で守ってくれなさそう。


 それにあたしずっと王都に行かないって言ってるから立場弱そう。チッ使えない法律め。やっぱりとんずら一択だ!


「あたし用があるんだけど」

「聞きました。話しはその用事が終わってからでもいいので」

「嫌です。無理です。えっと、そうね、あと三十年くらいは余裕で予定空かないんで、ミリーに伝えておいてください。じゃあ、そういうことでさようなら」


 そう言っているのにも関わらず、この男ずっと着いてくる。いや、本当怖いから憑いて来ないでよ! 祓い落とすわよ!!


 こうなったら本当にどっか秘境とかで生活を考えようかな? そっちの方がいい……いや、でも、まだ若いんだからそんな隠遁生活は早すぎる! あたしだって素敵な恋愛ぐらいしたいんだから!!


「いえ、この話しは誰にでも出来る訳ではなくて聖女様に直接しなければならないので」

「あのね、そもそもあたしは聖女なんかじゃないの! ただの豊穣の異能を持ってるだけの村娘になだけでしょ! それなのに毎日毎日鬱陶しいのよ!!」


 足を止めて振り返ってラノスを睨んでついに言ってやった。しかしラノスの反応はイマイチっぽい? 顔も見えないので、ラノスがどんな表情をしているかも分かんないからなんとも言えないけど。  


「それに、人と話す時はフードぐらい取ったらどうなの!? 失礼だと思わないの!?」

「すみません。あまり顔を知られたくなかったのですが、聖女様に対して失礼ならば取ります」


 そう言ってラノスがフードを外すと天使かなんかですか? と聞きたくなるような美貌の好青年。多分16か17歳ぐらい? こいつに女装させたらたちまち悪い人間に拐われそうとかは考えない。考えたら女として負ける。あ、涙出てきた。


 柔らかそうな白金の髪にアメジストのようにキラキラした瞳。目鼻立ちがはっきりしているが、たれ目のおかげでキツくは見えないのもポイントが高い。


 何にも知らない田舎の小娘ならばコロッとラノスの見た目に騙されてホイホイ付いて行きそうだ。もしかして村のみんなどっかでこいつの顔を見てるってこと? えっ、何であたしだけ知らなかったの? 


 こいつが人拐いだったらかなりの被害が出そうな顔をしてるだろうなと見惚れそうになる己を叱咤して油断は禁物だとキッと睨んだ。


「あたしはどこにも行かないからね」


 説明をさせてくださいという男に(かなりしつこかった)ついに折れて話しだけなら聞くけど行かない旨だけはきっぱりはっきり伝えておく。

 


ブクマ、評価、いいねありがとうございます(。・x・)ゞ♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ