24 カナリア視点
「あのぉ……」
「……」
「勇者、答えてあげてくださいまし」
この人何か怖い。ナーダさんにこの人たちを例の遺跡に案内するように頼まれたから一緒に洞窟を進んでいるんだけど、全く喋らない。お仲間の皆さんが声を掛けてもロクな返事もしないけど、店に来たお客さんのことは聞いて来たから喋れないってことはないと思うけど、かなり気まずい。
部外者のあたしでもそう思うのならお仲間の皆さんもそう感じているはずだと隣のアマンダさんを見上げればにこりと微笑んでくれてその美しさに見とれてしまう。
アマンダさんはゼンターフィアっていう国の貴族で強力な異能の力を持っているらしい。こんなに綺麗で優しそうな人なのに怒らせたらダメだって軽薄そうなお兄さんが教えてくれた。
アマンダさんは緩やかな金色の髪をポニーテールにして赤いリボンで纏めてあるけど、その髪型がアマンダさんに似合っていてお人形さんみたいだと思ったのは内緒。だって目だってエメラルドのようなキラキラして綺麗だし、肌は毛穴一つない白くて綺麗な肌。手足だって長いから動かなければ本当に等身大の人形にしか見えないと思うの。
軽薄そうなお兄さんはクロッチェって名前で狩りを生業にして生計を立ててたらしい。こういった場では役に立たないが、外の森では大活躍するんだぜと教えてくれた。一応帰りは町まで送ってってくれるって言ってるからそこで活躍は無理でも狩人としての腕は見せてもらえるかも?
クロッチェさんは男の人なんだけど焦げ茶色の髪を少し長めにしてそれを後ろで縛ってる。クロッチェさんが歩く度に後頭部を見れば、それがぴょこぴょこ動いていて可愛い。青い瞳はいつも楽しそうにキラキラしてるけど、アマンダさんの近くにいる時は不機嫌そうに揺れていてこの二人は仲が悪いみたい。
後の二人はセルジオさんとモンスパルさん。セルジオさんがゼンターフィアの騎士様でモンスパルさんは神官様なんだとか。神官様とか始めて見たって言ったらモンスパルさんびっくりした顔をしてたけど変なことなのかな?
あたしがナーダさんに遺跡から連れ出されたのが15年前だけど、その時は赤ちゃんだったし、言葉を覚えたのもかなり遅かったからまだまだ色んなことをお勉強中でナーダさんに毎日呆れられてる。
でも、ナーダさんは何だかんだと言っても結局はあたしに手を差し伸べてくれるいい人。いつかお父さんと呼びたいけど呼んだら怒るかな? それともいつもみたいに呆れた顔して頭撫でてくれるかな?
「フフッ」
「あ、と」
「楽しい?」
「はい」
ナーダさんのこと考えてたらいつの間にか顔が緩んでたのをアマンダさんに見られて笑われてしまった。恥ずかしい。
ちらりと勇者様を再び見るが、やっぱり顔は見えない。クロッチェさんが言うには綺麗な顔をしていると言っていたから気になってはいるんだけど、あのフードひっぺがしちゃ駄目かな?
……駄目なんだろうな。だってああやって隠したがってるものを無理やりひっぺがすのはよくない。うん。我慢だ。
うずうずする手を何度か宥めつつ今度は騎士のセルジオさんに目を向けた。
セルジオさんは皆さんより年上だと言っていたけど、年齢を聞けば30だと言う。まだそんなに年だとは思わないだって、ナーダさんよりは若いんだからそこまでは気にしなくてもいいんじゃない? って思うけどセルジオさんは結構気にしているみたいですぐに年齢のことを持ち出される。あ、ナーダさんは34歳だよ。
鋼色のツンツンした短い髪に琥珀色の鋭い瞳、日に焼けた肌の下の筋肉はがっしりしていて強そう。
最後の一人、モンスパルさんは最後尾を静かに着いて来る。
モンスパルさんは銀色の綺麗な髪を腰ぐらいまで伸ばしててアメジストの瞳は常に優しそうに微笑んでいる。最初に見た時は女の人かと思ってたけど、モンスパルさんが男の人だって聞いてびっくりした。
しかも、あたしが勘違いしてたのにそれを笑って許してくれる優しさもあって物語に出てくる王子様というのはこういう人を言うのだと思った。神官様だけどね。
「あ、もうすぐみたいです」
皆さんの見た目や肩書きにそわそわしていると遺跡の入口近くにたどり着いた。前に来た時に目印に中に生えていた木を折って挿してあったからすぐに分かった。
それに皆さんも気付いたらしく木を見て不思議そうな顔をするかと思ったのに、緊張したような顔になった。
「あ、の、あたしたちが来た時にはこうなってて、店に来た旅人の人はこんな風に雑草だらけになってるって言ってくれなかったからびっくりして」
「ええ、大丈夫よ」
アマンダさんがにっこり微笑んであたしのしどろもどろな話にも耳を傾けてくれる。
「あ、勇者お待ちなさい!」
「俺が着いてく」
勇者様がさっと中に入って行くからクロッチェさんが追いかけて行った。
は、速い……。二人共あっという間に姿が見えなくなっちゃった。
「あたくしたちも行きましょうか」
「は、はい……」
◇◇◇◇◇◇
やっぱりこんな地下深くの光の差さない場所に草木が生えているのはおかしいらしい。
「ここに豊穣の異能力者が来たのは間違いないですわね」
「そうだな問題はその能力者がいつ来たかだ」
「カナリアさん」
「は、はい」
「あなたのお店に来た旅人の特徴をもう一度おっしゃってくださる?」
「は、はい! あたしと同い年くらいの男の子でした。あ、あと髪は赤かったです!」
その言葉に皆さんはやっぱりかと顔をしかめた。
「あ、あのー……」
「何でもないですわカナリア。勇者!」
勇者様が口を開いた! けど、彼女? あのお客さんは男の子じゃ? そう思って聞いてみれば皆さんが探している方は男装をなさっているとか。
なるほどと納得して皆さんの移動の速さに驚く。
あたしがちんたら歩いてると時間が掛かると言われてあたしは今セルジオさんに背負われている。
確かにあたしが歩くより遥かに速いけど、かなりの速さだから揺れるし怖い。
セルジオさんに振り落とされないように必死に捕まっていたらあっという間に入口に着いてしまった。
「ええっ」
「町はどっちだ?」
「あ、あっちにあります」
数時間走り続けても息一つ乱れない底なしの体力に化け物と言葉が浮かびそうになる。
世界の平和を守る勇者ご一行なんだからこれくらい当たり前なんだろうけど、あっという間に変わっていく景色に目が回って気持ちが悪い。
「こっちです」
旅人さんが泊まった宿はこの町に二つある宿屋のどっちかだと思う。その途中でお店に寄ってっていいかと尋ねれば皆さんは快諾してくれた。
たった数日とは言えナーダさんとこんなに長い時間離れたのは初めてだからちょっと不思議な感じ。
「ナーダさんただいま! ……あれ?」
お店に入ると薄暗く誰もいない。先にナーダさんだけ帰ったんだから中にいるはずなのに奥でまた寝てるのかな?
そんなことを考えながら奥を見に行こうとしたら店のドアが開いた。
皆さんには外で待ってもらっているからお客さんかな? 帰って来たばっかりだし、皆さんを宿に案内しないといけないので、申し訳ないけど今日のところは帰ってもらおう。
「すみません今日は……ってナーダさんじゃないの! どこに行ってたのよ!」
「ああ、うん宿屋に行って来てた」
いつもの棚の陰から顔を出して休みですと伝えようとして見えた顔はよく見慣れてるが、ここ数日見なかった人の顔に安堵したがどうして外から? と疑問に思う。
「今から勇者様方を連れて宿に行くつもりだったんだけど」
ナーダさんが行っておいてくれたんだったらあのお客さんについても聞いてるんじゃないかって期待してるとナーダさんはバツが悪そうに頬を掻いている。
「もしかしてもう旅立っちゃってたの?」
「そうなんだ。それから」
そう言ってナーダさんが数枚の紙を差し出してくるが、あたしはまだ文字があんまり読めないのでナーダさんに読んでとお願いする。
「あのぬいぐるみにあの遺跡の別の鍵が入ってたらしくて、何回か店に来てくれてたみたいなんだが、俺たち出掛けてただろ」
「もしかして持ってっちゃったの?」
ナーダさんが頷くのを見てあのお客さんが来た時のことを思い出す。
ぬいぐるみを渡す時にあのお客さんが半信半疑だったから店の棚を突っ込んで見せた時に間違って入っちゃった? いや、でも、あたし棚の中の物が残ってないか確認したし、お客さんも一緒になって覗き込んでたのに?
出し忘れがある訳がなかったのに入ってたの? そんなことってあるの? 訳が分からなくてナーダさんにあの時のお客さんが来た時のことを伝えてけばナーダさんの顔が段々と険しいものになっていった。
「ナーダさんごめんなさい」
「いや、カナリアのせいじゃないよ」
あの時横着せずにナーダさんを呼んでおけばこんなことにはならなかったのに。あたしのせいで店の商品が一個消えちゃった。
「返してもらいに行ってくる!!」
「待て待て! お前あの客がどこに行ったのか分かるのか?」
そう言われると分からなくてスカートの裾をぎゅっと握りしめて首を横に振った。
「! そうだナーダさん宿屋に行ったんでしょ!? そこで何か聞かなかったの?」
「聞いて来た」
ナーダさんがにやりと笑う姿にホッと息を吐いた。
あたしたちの会話が聞こえてもしてたのか、勇者様方がこちらを窺っているのが見えた。あの旅人さんが皆さんの捜し人かもしれないから気になるのかもしれない。
ナーダさんを見ればナーダさんも皆さんに気付いたみたいで苦笑している。
「という訳でこいつも連れてってくれないか」
「ナーダさんお店は?」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! あたくしたちの旅は危険が付き物ですわよ!」
「そうだよ! 今までだって何度も魔物に襲われたし、これからは魔族だって出てくる可能性だってあるんだから辞めた方がいい!」
「あ、それなら大丈夫。こいつ魔法使えるから」
「は?」
その時見た皆さんの顔は一生忘れられそうにないや。
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