表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/431

2

「あはは! おじさんそんな風に言われてたのかい?」

「おじさん笑い事じゃないって」

「それは、ねぇ……」

「人の趣味に口出すだけじゃなくておじさんの事まで言われてるんだよ! 失礼過ぎ!!」

「でも、リュリュちゃんがおじさんの変わりに怒ってくれたからね。これはお礼だよ」

「むがっ」


 おじさんはあたしの口に大きめの飴を入れるとやってきたお客さんにニコニコと愛想笑いをし出した。


 おじさんの邪魔はしてはいけない。あたしはそっとその場を離れた。


 せっかく髪を整えて、よそ行きの服に着替えも済ませたが、それを褒めてもらえなかったのはショックだったけど、こんなに可愛いおじさんの商売の邪魔をするなんて有り得ない!


 こんなに優しいおじさんの邪魔する奴はあたしが地獄を見せるつもりだ!! 邪魔する奴にはあたしからキックをお見舞いしてやる! と意気込んで辺りを窺っていると声が掛かった。


「リュリュ様ご無沙汰してます。ご機嫌いかがお過ごしでしょうか」

「……さっきまではよかったけれど、今は最悪よ」


 寂れた村の唯一の癒しでもあるおじさんに飴をもらってニコニコしてたのに、聞きたくもない嫌な声が聞こえて来た。


 出来るだけ関わりたくなかったけど、前に無視したら村のおじさんおばさんたちから挨拶ぐらいはしなさい! って叱られてしまった事があるので、無視する訳にはいけない。ここはぐっと我慢だ。


「今日は来ないと思ってたんだけど?」


 ミリーが花の用意をしてたけど、無駄話をする時間はあったから明日以降だと思ってたのについてない。何でこんなに早く来たのよ。邪魔臭いわね。


「私どもの最優先するべき事はリュリュ様を王都へとお連れする事なので来ない訳にはいきません。馬車の用意は出来ていますので、今すぐにでも王都へと出発できますが」

「ああ、そう。それは大変ね」


 こいつはディレイと言って王都から来た何人か目の役人だ。あたしが十年近くも拒否し続けているので、迎えに来る役人も何人も変わっているけど、いい加減うんざり。


 あたしがうんざりしていても、こいつらはいつまでも来るんだけどね、ほら、態度だけでも示しておかないとあっという間に連れてかれちゃう。


 絶対に行くつもりがないのだから面倒でも毎回やっておかないとね。


 ついでに後ろにはディレイの護衛の騎士。名前は何だったかな? 興味ないからすっかり忘れてしまったし、ディレイと一緒でこの人もいつかは去って行く一人でもあるので覚える必要もないんだけど、一応呼ぶかもしれないし今度暇な時にでも聞いておこうかしら。


「リュリュ様?」


 ディレイの事をすっかり忘れ、護衛の騎士の顔を見つめて名前を思い出そうと頑張っていたら、ディレイが顔をしかめながらあたしの名前を呼んだので、あたしもディレイに向かって顔をしかめといた。オマエカエレ


 こいつらが諦めるまで王都の流行とかあたしが受ける恩恵だとかの話を延々と聞かされなくちゃいけなくなる。ああ、あたしのオアシスがあっちでニコニコしてるー!! 愛想笑いだって分かるけど、その笑顔あたしにも向けて欲しい!!!! こいつらが帰ったらもう一回おじさんのところに癒されに行こう。


 おじさんこっち向いて! ……ああ、気付いてもらえなかった。ものすごく残念。


 ……そりゃ、王都のお菓子も気になるっちゃ気になるんだけど、あたしにはおじさんが持って来てくれる田舎の素朴なお菓子が好きなんだ。


 そんな事を言ったって田舎というだけで馬鹿にしてきそうな人間に理解出来るとは思わないので言わないけどね。ディレイはいっつも帰りたそうにしてるから今日も適当にあしらっておけばその内帰るだろうとタカをくくっていたら今日は違ったらしく、ディレイの騎士以外にも人が居る事に気付いた。


「ああ、こちらの者は」

「はじめまして」

「……はじめまして」


 あたしの視線に気付いた第三者はディレイの言葉を遮って前に出てきた。


 声からして少年と青年の中間ぐらいの人かな? 身長も成人男性よりは小さいけどあたしより大きい。ただ、フードを目深に被っているので顔が見えないからいくつなのかは分からない。


 こいつは誰だとディレイを見れば、ディレイは遮られたのに不満そうな顔をしていた。しかし文句を言わないところを見るとディレイより身分が上なのだろう。チッ面倒くさそうなのが来たか。


 新手を寄越したって事はまたしつこい勧誘が始まるのか……。ディレイはもう一年以上通っているから半分くらい諦めてるから適当に相手してバイバイなんだけど、新しい人になると最初の勧誘はかなりしつこい。何度断っても連れてこうとするんだもん殴り飛ばしたくなる。


 酷い人になると無理やり連れ去ろうとするのでその度に人さらい!! と叫んで逃げて村人に追い払ってもらったり、山で鍛えたとは言え、疲れるまで逃げ回ったりして散々な目に合ったから新手は余計に嫌なんだ。早く帰ってくれ!!


「……こちらは?」


 げんなりしつつもフードを脱がない失礼な奴の相手はしたくなくて、ディレイにさっさと帰りたいオーラを出しながら尋ねたら、返事をしたのはディレイじゃなくてフードの人だった。いや、あんたには聞いてないんですけどぉ。帰ってくれます?


「すみませんディレイさん、ここは自分で紹介させてもらえませんか? 突然で驚かせてすみません聖女様。自分はラノスといいます。実は……」

「あ、すみません人違いです。あたしはただの村娘です」


 豊穣の異能を持ってる時点でただの村娘ではないけど、聖女はもっとない。


 だって、聖女ってあれでしょ? 勇者と一緒に魔王退治に行ったり癒しの力がある奴。ゲームならまだしも現実で魔王退治に行くだなんて有り得ない。途中で死ぬ可能性だってあるんだし、あたしは豊穣の異能しか持ってないのに、大怪我でもしたら誰が責任取ってくれるの?


 それとも魔法で治せるの? ミリーは風の魔法しか使えないし、村人たちだってちょっと火が出せるとかぐらいなんだけど、怪我が治せるっていうのならちょっとだけ見てみたいわ。


 ってそうじゃない! あたしは豊穣の異能しか持ってないから全くもって人違いだ。なんでディレイはこんな奴連れて来たのよ。意味分かんないんですけど! もう帰っていいかな? そろそろ裏山で枯れそうな木に力注いで欲しいって頼まれてる奴を片付けてしまいたいから、うん。帰ろ。


「それから何回来てもあたしはこの村が気に入ってるんで、王都になんか行きません。さようなら」


 ディレイに向かってそれだけ言うと返事も待たずに走って逃げた。


 村の人に怒られる? いや、でも変な人となんか話したくないし、フードも取らない無礼な奴なんかに気を使ってやる必要なんかないや。後ろからあたしを呼ぶ声がしてたけど知ったこっちゃない! とっとと帰れ! 二度と来るんじゃないわよ!


ブクマ、評価、いいねありがとうございます(。・x・)ゞ♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ