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あたしの名前はリュリュ。突然だけど、あたしたちが住む世界には特殊な能力がある。まあ、超能力のような、魔法みたいな物をかなり凄くした異能と呼ばれる力を持っている人たちがいる。あたしもその異能力者の一人。
あ、でもね異能とは別に魔法も普通にあるよ。あたしには魔法の才能はなかったから使えないけど、村の人たちに魔法が使える人もちらほらいる。両方使えるのは稀らしいけど、いないこともないそう。
魔法を使っているところを見せてもらったこともあるけど、異能よりも魔法の方が利便性はありそう。あと、見た目も派手で格好よかった。
昔は異能を持ってた人は迫害されていたそうだけど、ある時異能を持った人たちが反乱を起こし、それに神殿が便乗し、異能は悪いものなんかではなく神様からの祝福だと広めたとか。
それ以降は無能力者との摩擦が何度かあったものの、あたしが生まれる頃には異能力者も普通の人たちと同じように扱ってもらえるようになっていたらしい。
だから、あたしが異能力者であっても迫害されることなく生まれた村で暮らしているけど、あたしからしたら異能も魔法も同じような物なんだけど何が違うのかはよく分かってない。
あたしだけが分からないのかと誰彼問わずに聞きまくったら魔法は魔力と呼ばれる自然にも自分の中にもある力を使うけど、異能はそんな物なくても使えるし、使い方次第では災害レベルにまでなるとか。
でも、魔法だって使い方次第ではどんな風にも使えるのに、何故異能だけが迫害されていたのかはよく分からなかった。
それで話を変えるけど、あたしが生まれたのはかなり田舎。隣村まで馬車で三日ぐらい掛かるようなど田舎。遠すぎるからという理由であたしは他の村や町まで出掛けたことはないし、出掛ける予定もないの。
週に一度やって来る行商人のおじさんが大好きで、おじさんがしてくれる面白い話とおいしいお菓子に夢中になっている14歳。
そういえば、おじさんがしてくれた話の中にゲームの主人公に似たような熱血の美少年がどこかの町にいるんだとかで、詳しく、そりゃもう根掘り葉掘り聞きたかったが、おじさんにも仕事があるのであまり詳しくは聞けなかった。
が、どうやらその子も何らかの異能を持っているらしいってことは聞けた。
その日は他のお客さんが来たのでそこまでしか聞けなかったけど、おじさんが次に来る時にはもっと詳しく聞きたいな。次におじさんが来るのが楽しみ。
ゲームだとかこの世界にはない言葉を使っているのか気になる人がいるかもしれないので一応話しておくが、実はここではないどこかの誰かの記憶があたしにはある。多分生まれ変わりというものだろう。
小さな頃から別人の記憶があったので他のみんなもそうだと思っていたから、違うと分かってかなりびっくりした。
だからと言って変な子扱いされた訳ではなくて、それがあたしの異能だと思われたみたい。国が異能力者を探す為に行っている検査とは違う形で自分の持っている異能を発動した為に、あたしは検査を受けずに能力を二つ持っている珍しい子という扱いになった。本当はしないといけないらしいけど、あたしは特別らしい。
王都に行けば異能二個持ちは珍しくないそうだけど、あたしのは二つではなくて誰かの記憶はただ前世の記憶があるだけなので本当は異能は一個しか持ってない。
だから、王都にまで行く必要がないと思っているし、周りにもそれを伝え、半ば無理やりそのまま生まれた村で暮らしている。
ただねぇ、その一個しか持っていない異能が珍しい物だった為、あたし一人のために王都からわざわざ二ヶ月近く掛けてお偉いさんがやって来た時は村中パニックになった。
あたしが持ってる異能は豊穣。この異能は作物の品質が上がり、植物の成長も格段に速くすることが出来、異能持ちの能力次第では一瞬で収穫できるくらいに成長を速くさせることも出来るんだそう。
不作のところに連れて行ったらとても喜ばれる能力でもあるので、国としても放っておけなくて、小さい頃に王都に連れて行かれそうになったことがあるけれど、まだ小さかったあたしがギャン泣きして嫌がったために、役人たちが泣く泣く諦めた過去がある。
向こうからしたらかなり迷惑だったろうがこっちにも言い分がある。だって、いきなり住み慣れた土地から連れ出されるだけでも嫌だってのに、これからは贅沢な暮らしをさせてあげるけど、家族と離ればなれになるって言われたら誰だって泣くと思う。その時のあたし5歳だったし。仕方ないわよね。
だけど王都の人たちも珍しい異能、今豊穣の能力持ってるのはあたし含め国内で五人くらい、他国にもそんなにいないらしい。せいぜい居ても一人か二人しかいないそう。
そんな貴重な異能持ちを放っておけないので、今でも定期的に勧誘に来るんだけど、来る度にこの村で暮らしている事がいかに馬鹿らしいか、王都がどれほど素晴らしいかと延々と語ってくれるので、正直お会いしたくないし、顔を見ただけで回れ右して逃げ出したくなる。したらしたで怒られるからできないけど。
誰が地元をけなされまくってまであんたらの為に働いてやる義理はないんで、来なくて結構です! と何度断っても来るので、そろそろ真剣に排除するかもっと僻地に引っ越そうか検討中。
でも、そうなると父さんたちが心配だし、この村も気に入ってるから離れたくはないんだよねぇ。あと、行商のおじさん来てくれるし。これ一番大事。
引っ越すなら行商のおじさんのいる町に引っ越したい。そしたら今までのように週一じゃなくておじさんに毎日とはいかなくても頻繁に会えるんじゃない?! もしかしたら噂の奥さんの美味しい手料理をご馳走してもらえるかもだし!!
その考えにウッキウキになるけど、今までのように週一でいいや。楽しみが待ってるって思えば一週間なんてあっという間だし。
うん。今までと同じでいいや、田舎サイコー!! という訳で地道にお迎えを排除するの頑張ろうっと!
「ねえ、聞いた?」
「え? 何が?」
今日は一週間ぶりにおじさんがやって来る日で、朝からウキウキしながら果樹園の方に顔を出したり、畑仕事のお手伝いも張り切ってやっていたのだが、そこに二つ年下のミリーがやたらキラキラした目をさせオレンジがかった茶色のふわふわした髪をなびかせながらやって来た。
ミリーのきれいに整えられた髪を見て自分の自慢の紅茶色の長いストレートの髪を触ってみたらボサボサだった。朝からよく働いたからいつの間にかボサボサになってしまっていたみたい。おじいさんに会う前に整えておかなくちゃ。
「それよりミリー、仕事は?」
ミリーはあたしの家の近くに住んでる子で、割りと仲がいい。ミリーは風の魔法が使えるので、こうしてお手伝いをする時は風で荷物を浮かせたりとかなり器用に魔法を使いこなしてて、魔法の使えないあたしはいつも羨ましいと見ていた。
「配達の途中だけどビックニュース聞いたっちゃったからリュリュにも教えてあげなくちゃと思ったのよ!!」
ぺろりと舌を出すミリーの後ろには配達用の色とりどりの花が大量に浮いていた。あの花は半分は王都から来る人たちに出す用で、他は村の人たちに分けて配っている。もちろん育てたのはあたし。
今回の花もいい出来だけどあいつらのために収穫されたと思うとちょっとだけブルーになる。だってあいつら花なんて見ないし、うるさいし、仕事の邪魔ばかりしてくるから迷惑なんだもん。
ミリーがこの花を配っているって事はもうすぐあいつらも来るのか。来なくていいのにと思わず舌打ちしたくなったけど、一応いい子で通しているので我慢我慢。
「ビックニュースって?」
あいつらの事は思い出したくなくてミリーが持って来た話題が気になるそぶりを見せるとミリーはそうそうと話始めた。
「勇者が誕生したんですって!」
「勇者?」
勇者ってゲームとかに出てくる? この世界って勇者っていたんだ。魔法やら異能があるけど、割りと安全な世界だと思っていたわ。
「そう! ほら、最近魔族の動きが活発になってるって言ってたでしょ? それで魔王が復活するんじゃないかって噂されてたじゃない。そしたら封印されていた勇者の剣を抜いた人がいるんですって!!」
「へぇ、そうなんだ」
「……ちょっとリュリュあんた興味ないの?」
「あんまり」
あたしだって冒険出来る異能か魔法使いだったら勇者だのなんだの興味はあっただろうけど、あたしの異能じゃ冒険するよりどこかに腰を据えた方がいい。だから魔王だの勇者だの聞かされてもあたしは興味ないや。頑張って下さいとしか言い様がない。
「そんな事よりそろそろ行商のおじさんが来る頃だから髪直したいし、行ってもいい?」
「ダメ。あーあ、これもダメか……リュリュは何だったら興味持つのかしら?」
「お菓子!」
「それ以外で!!」
「行商のおじさん?」
「……趣味変えたら?」
「やだよ。この村唯一の楽しみなんだから」
おじさんはね、ふくよかな体にちょっとくたびれた顔をしてるけど、それを誤魔化すような笑顔がとっても素敵で可愛いんだから、おじさんの悪口言うなら怒るわよと睨めばミリーはあっという間に逃げて行ってしまった。失礼な奴め。お前もおじさんのファンにしてやろうか!!
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