8話 女子力敗北
三か月ぶりの投稿、遅くなって本当に申し訳ない。謝罪として有料0連ガチャでも...
「ふう...一旦休憩しようかしら」
研究に没頭しすぎて、気づいたら12時になっていた。もうそろそろ昼食の時間である。
「さて、レストランに...」
行こうとしたが...まだ人気の多いところは無理そうなので行けない。しかもレストランは必ずと言っていいほど混んでしまう。これは空腹に耐えるしかないのだろうか。
「はあ...お腹空いた...」
机でぐったりしてると。
『休憩か?』
「うわぁ!」
後ろから突然声をかけられてびっくりしてしまう。
「だからびっくりさせないでよ!ホラー苦手だって言ったじゃない!」
『...そうだったな、すまない。で、昼食は食いに行かないのか?』
「うーん...ちょっとまだ無理...ね」
まだ恐怖を克服はできなさそうだ。
『そんなことだろうと思ったぜ。ほらよ』
そういった「死神」は何かの袋を渡してくる。何やら四角いものが入ってる感じがするが...
「なにこれ?」
『開けてみろ』
言われた通り開けてみると、三段に積み上げられた弁当箱が入っていた。更に箸やお手拭き、つまようじなどもついていた。
(???)
頭の中が疑問符だらけになりながら弁当箱を開けてみる。中には様々な料理が入っている豪華な弁当だった。
(????????????????????????)
「え、これ食べていいの?」
『何のために渡したと思ってんだ。いいに決まってんだろ」
恐る恐る弁当箱の中のから揚げを口に運ぶ。すると肉汁が口いっぱいに広がり...
(おいしい...)
まるで作り立て、いや、作り立てなのだろう。アツアツの肉汁たっぷりでおいしい唐揚げが口を支配する。
(まって?昨日から思ってたけど料理うまくない?え、しかもなにこのおしゃれ弁当。写真撮ったら確実にばえるでしょ)
しかもおいしいだけではない。料理の配置や彩も考えられており、錯覚なのか弁当がキラキラ光っているように見える。
(負けてる!女子力で完全に負けている!圧倒的な敗北感を感じてしまう!)
「死神」のあまりのギャップに困惑しつつ、ダークマターしか製造できない自分の女子力と比べ圧倒的に敗北している現実に涙を隠し切れない。
『なんで泣きながら食ってんだよ』
「うっさいわね...歓喜と屈辱を感じてんのよ...」
なんやかんやありながら弁当を残さず完食した私は優越感に浸っていた。
「意外ね、あなたにこんな特技があったなんて」
『まあ、少し...な」
しかし、どうしても気になってしまうことがある。
「ねえ、前に食事の意味がないって言ってたでしょ?それなら料理をする必要がないはずよ。どうしてこんなに料理がうまいわけ?」
食事の意味がないなら料理などしないはず。しかしこのレベルは確実に何回も料理をしているはずだ。
『個人情報保護法を利用させてもらおう』
「なによ、それくらい教えてくれたっていいじゃない」
『仕事にも使うときがあるだけだ』
「仕事...?」
「死神」の仕事は護衛だったはずだが、いったい料理がいつ護衛で役に立つというのだろう。というか今更な話ではあるがそもそもとしてこいつはボディーガードが本職なのだろうか?
「今更だけどあなたの本職ってボディーガードなの?それとも他の仕事?」
『何でも屋だ』
たしかにそれだったら仕事として必要になってくる...のかも?
「ま、まあとにかくありがとうね、弁当まで作ってくれて」
『別に構わねぇよ、気にすんな』
ひとまずこれで午後からの研究もはかどりそうである。今まで生きてきた中で彩のいい料理はたくさん見てきたが弁当は初めてだったのでなかなか楽しかった。
(さて、研究に取り掛かろうかしら)
そうしてまたデスクに向き、作業に取り掛かった。
*
「ん~...はぁ、疲れた...」
大きな伸びの後、ため息をつく。昼休憩からぶっ続けで研究し、気づけば九時になっていた。さすがに疲労が大きいのでそろそろ帰るとしよう。
おじさんに報告をしたのち、研究所から出る。
『随分遅かったじゃないか』
待っていたのだろうか、私が研究所から出てきた直後に「死神」が話しかけてくる。
「まあ、少し没頭しちゃってね」
即座に高級車がやってきて扉が開かれる。私が運転席後部に乗ると、走行を始めた。
「今日だけでなかなか研究が進んだわ。やることは山積みだけど、必ずこの研究は成功させて見せるわ」
『そうか』
「死神」はそっけない反応をした。出会ったばかりの時ではムカッとしたかもしれないが今は少しも不快には思わない。
「今日の弁当はありがとうね、やる気が出たわ」
『だから礼を言われることじゃねぇよ』
本人はそういうが、割とあの弁当のおかげでモチベーションが上がったので礼くらいは言っておきたい。
「...」
『...』
私と「死神」の間に沈黙が訪れる。しかし気まずさはない。むしろ、少し心地よさがある。しかしそういう時ほど早く過ぎ去るもので、あっという間にホテルについてしまった。
『飯なら既にできてるぞ。今とってきてやる』
「あ、ありがと」
すっかり炊事に関して「死神」に任せっきりになっている。毎回作ってくれるのはありがたいが、何もできない無力さに少しもやっとする。
『食い終わったら流し台に置いといてくれ。後で洗っておく』
「どこか行くの?」
『少し用事があってな』
そう言った「死神」はどこかへと消えてしまった。
(...そっか...私、一人になっちゃうのか...)
少し、寂しさを感じた。
(って!私らしくない!一人の時なんてたくさんあったじゃない...)
とりあえず、料理を食べるために手を洗った。
#
「あー、待ってたぞー!「死神」ー」
「はぁ...もう飲んでんのか...」
紗月の夕食を作り、部屋に戻ったのを確認した俺は、とあるバーに来ていた。カウンター席へと移動すると、すでに頬を赤らめた花咲リンカの姿があった。とりあえず隣に座り、一番高価なコースを頼む。
「それと、大声でコードネームを言うな間抜け」
「あはは、じゃあ久しぶりにりゅーくんって呼んでいいかい?」
「...お前、いったいどれくらい飲んだ?」
「そんなに飲んでないさ...少なくとも泥酔はしてないぞ?」
こいつは少々酒癖があるのが厄介である。少なくとも十杯は飲んでそうだ。
「そんなことよりほらー、りゅーくんも飲みな。とっても美味しいからさ」
そういってグラスにワインを注ぎこちらに渡してくる。
「...お前、俺の実年齢くらいわかってんだろ」
「でもバーにきて飲まないってのはだめじゃないかなー?」
一応成人はしているということにしてるが、本来なら俺は飲酒できない年齢だ。だから極力、俺は飲酒を避けている。
「酒なら飲んでるだろ」
「それ烏龍茶じゃん」
「いいやリザーブだ」
コース料理のサラダがやってきたので、フォークで口に運ぶ。
「なかなかうまいな」
「だろう?私のオススメ店だぞー、感謝したまえ」
口を大きく開け、にっこり笑いながら言ってくる。普段から強気なやつではあるが、酒を飲むとさらに大胆になり歯止めが効かなくなる。
「そうそう、お嬢さんとは仲良くできているのかい?」
「別に。仲良くする必要もないし、しようとも思わない」
「なーんて言って、心の中ではかなり気にかけてるんじゃないかー?まったく、素直じゃないんだからー」
俺を小ばかにするように笑いながらつんつんと横腹をつついてくる。
(まったく...やっぱりこいつといると調子が狂うな...)
リンカとは長い付き合いだが、今になってもこいつは少し苦手だ。
「そんなことより、そっちの件はどうなったんだ?」
「あ、逃げた」
「本題を片付けるのが先だ」
少し不満そうな顔をした後、緩んでいた顔を引き締め、静かに話し出す。
「ま、成功したって感じかな。向こうも二人有能な人材を失ってるし、りゅーくんが関係してることに薄々感づいているらしいからおとなしくするみたいだよ。結構きつく言っといたし、もう紗月ちゃんが襲われる心配もないんじゃないかな?」
「マナ研究に関しては感づかれていたか?」
「いいや、どうやら時期がかぶっただけらしいね。日本がマナ研究をしていることに関しては情報を得ていないらしかったよ。」
となるとひとまずは安心してもいいかもしれない。もちろん警戒態勢を緩めるつもりは毛頭ないが、危険分子が一つ減ったのは幸いだろう。
「それじゃあ...お礼として、あつーい夜の時間を私にくれるかい?」
コースのメインディッシュであるステーキを口にくわえたまま思考を続けていると妖艶ロリが赤らめた顔を近づけ、着ているシャツの襟を引っ張り、誘惑するように胸をチラ見せしてくる。
「あほう」
「あいたっ」
なのでデコピンしてやった。
「飲食店でんなことしてんじゃねぇよ間抜け」
「くうぅ...りゅーくんのデコピン本当に痛い...」
額を抑えながら悶絶している間抜けロリを尻目に、俺はデザートを口に運ぶ。
「おいしかったぜマスター。時間があったらまた今度来るぜ」
リンカの分もまとめて支払いを済ませたあと、首元を掴んで引きずりながら店を出る。
「ちょ、ちょっとりゅーくん!いささかレディーに対する扱いがなってないんじゃないかな!?」
「何がレディーだ場所も考えずにあんなことするくせに」
とりあえず建物から出る。
「で?お前が今日泊まる予定のホテルはどこだ?送ってってやるよ」
「えーっと、ここから西の方角」
ナビゲートをしてもらい、こいつを連れてホテルへと着く。ご丁寧にラブホである。
「ほら、着いたぞ。俺はここで別れるからな」
「そんな~!りゅーくんも一緒に泊まろう!二人ようの部屋にしてるんだからさー!」
「バカ言え。俺はディナーには付き合うといったが一緒に泊まるなんて一言も言ってねぇぞ」
「いいじゃないか。久しぶりに会ったんだし」
しばらくの間リンカと猛烈に抗議したがあまりにしつこいので、俺が折れた。
「...ったく、仕方ねーな」
「あはは、優しいなーりゅーくんは」
「勘違いすんな、てめーがしつこいから折れたんだ。」
お互い入浴を済ませ、現在ダブルベッドにてリンカに抱き枕状態にされており身動きが取れない。
(まったく...こいつは変わらねぇな...)
昔からこいつは強引なところがある。今日だって入浴中にいきなりタオルも巻かずに入ってきたり入浴後はパンツごとズボンを引きずり降ろそうとしてきたり。
(...いや、最初に会ったころとはだいぶ変わったな)
最初に出会った頃と比べるとこいつはだいぶ明るくなった。
(ふっ...)
随分表情豊かになったもんだと、心の中で呟いた。
「どうしたんだいりゅーくん、突然笑って。私のナイスバディに興奮でも...あいだっ!」
とりあえずデコピンをしてやる。
「どうした?今日はやけに大胆としてるじゃないか。いくら久しぶりだからってこんなに馴れ馴れしかったか?」
確かにこいつは俺に対して好意を寄せてくるが、普段はここまで大胆ではない。何かしら理由があるのだろうか。少し気になったので尋ねてみる。
「...実は...な、何か嫌な予感がするんだ」
すると、少し表情が曇りベッドに座る。
「...近いうちに君がどこか遠いところに行くんじゃないかって...そういう予感?ってのがしてさ...」
「...どこか、遠く?」
どういう意味だろうか。遠いところ。それは比喩なのだろうか。ここ最近にどこか遠い国に行く予定もなく、旅行なんかもする予定はない。それにそういうことではないだろう。となると、物理的な遠さじゃなく、もっと別のことだろう。たとえば俺が死んだり、とか。だが今俺が受けている依頼は紗月芽唯の護衛だ。危険がないと言えばうそになるが、護衛程度で死ぬくらいなら俺はとっくの昔に死んでいる。近いうち死亡率が高そうな依頼も受ける予定はない。
「気のせいじゃないか?しかも俺が死ぬなんてよっぽどのことだと思うぞ」
「だろうな。君が死ぬとは到底思えないんだが...どうしても胸騒ぎがするのさ。しかも、いやなことにこういう嫌な予感だけはよく的中するんだ。私は」
そう言い、顔を俯かせるリンカ。不安そうにしている彼女の姿は年上とは思えない少女のように思えた。
「安心しろ、俺は死なねぇよ。死ぬつもりも全然ねぇ」
「...だと、うれしいな」
「らしくねぇなリンカ。お前はそんな心配性じゃないだろう?」
「...だな。ごめん、少し取り乱した」
そう言ったのちベッドから立ち上がった後、満面の笑みでこう言った。
「てことで一緒にねよーかりゅーくん。もちろん裸で」
そして俺も「ははっ」と笑い返事をする。
「断る」
誤字脱字等ありましたらご報告おねがいします。