4話 誘拐
二か月ぶりの投稿。
まあこんな感じで多分たびたび失踪するかもしれないので気長に待っていてください。
誤字脱字があったら報告お願いします。
なお徹夜なので内容おかぴーかもです
「はい、これ」
翌日、朝食を終えて職場に行こうとする直前。紗月芽唯から何かを渡される。
『...飴?』
その手の上には赤色の包装がしてあるキャンディがあり、「リンゴ味」と書かれていた。
「ちょっと昨日は言いすぎちゃったかなって思ったから謝罪の意味を込めて。それ以外の意味はないから」
そっぽを向きながらちんちくりんが言う。特に謝罪をされるような行為をされた覚えはないが、どうやら謝罪の品らしい。なぜ飴なのかは分からないが。
それにしても俺は飲食が不必要だと言っているのになぜ渡してきたのだろう。
『...そうか』
なんと言うか迷ったがとりあえず貰っておくことにした。
(特に悪意は感じないしな)
「あ、そうそう。あなたに手伝ってほしいことがあるの」
『お使いはする気ねぇぞ』
「なんでそうなるのよ...」
俺に手伝ってほしいことなどいったいどんな要件なのだろうか。俺にできるのはこいつの護衛くらいで、それ以上はすることもするつもりもない。いったい何をしてほしいというのか。
*
「この結晶に触ってほしいのよ」
研究室に入り、不透明な結晶体を渡される。どうやらまだ佐々木は来ていないようだ。
『これがマナクリスタルってやつか』
話だけは聞いていたが何やらマナを可視化させるのに必要なものとの話だ。どうやら俺で実験したいみたいらしい。大方俺の力はマナと関係しているのではとか考えているんだろう。
『...いいぜ、触ってやるよ』
「意外ね、断ると思ってたんだけど」
『触るだけなら特に問題はねぇよ』
俺はマナクリスタルに触れる。すると、俺がマナクリスタルに触れた瞬間、赤・緑・青・黄土・白・黒色の光が部屋中を満たし視界が遮られる。俺は大したことないが、紗月の目はやられていることだろう。そして光が最高潮に達した時、マナクリスタルは爆発した。
(...!)
俺はすぐさま紗月を庇い、爆発から守る。念のため俺の力で次元を引き裂き、爆発の余波を紗月まで及ばないよう確実に守れるようにする。マナクリスタルが爆発してから部屋の光は徐々に消えていく。
「うぅん...何が起きたの?」
目が治ってきたらしい紗月は立ち上がると部屋の有様を見て絶句する。
「...えっ?」
マナクリスタルの爆発は激しく、部屋の家具や機材は破壊されていた。指輪についてる宝石くらい小さいくせに威力が手榴弾並みとは感心する。もし俺が庇わなければ紗月は怪我を負っていただろう。
『マナクリスタルが爆発したんだ。初見殺しもいいとこだぜ』
触れただけで爆発とは恐ろしいものだ。とりあえず俺は触らない方が賢明だろう。
「大丈夫ですか!?」
外から慌ただしく黒服の男たちが部屋に入ってくる。
『実験の事故だ、敵襲じゃない。念のためガキに怪我がないかの確認を頼む』
俺は紗月の襟をつかみ黒服の奴らに引き渡す。するとじたばたとガキが暴れだす。
「分かりました。それでは医務室に案内いたします」
「ちょっと!私は猫じゃないわよ!」
こうして俺たちは医務室に行くことになった。
#
正直言って一瞬のことだったので何が起こったか分からなかった。幽霊がマナクリスタルに触れたとたん発光し、目と耳がやられたのだ。目と耳が治ってきて見えるようになったら部屋は破壊されていたのである。話によるとどうやらマナクリスタルが爆発したらしい。まったく爆発の余波を感じなかったのはなぜか分からないが部屋の有様をみたら事実だと信じるしかない。
(うーん...原因は何かしら。考えられるのはマナの許容限界?)
医務室にて診察してもらいながら私は爆発した原因を考えていた。おそらく光の強さは個人が持っているマナの量だと思われる。目がやられるほど強い光が出たので、一番考えられる有力な説は幽霊が大量のマナを保有しており、マナクリスタルはその膨大な魔力を内包しきれずに爆発したという説。仮にそうならマナクリスタルに過度なマナを注ぎ込むのは危険かもしれない。幽霊にはマナクリスタルに触らないよう言っておかなければならないだろう。まあ、本人もそこは理解していると思うが。
「特に目立った傷はありませんね。何も問題はないでしょう」
診察が終わり、私は医務室を出る。
『怪我はないか?』
「特にないわ。それより...その...ありがとね、助けてくれて」
あの時爆発で私に怪我がなかったのもこいつが私を庇ってくれたからだろう。ならばお礼くらいは言っておくべきだろう。
『感謝されることじゃねぇ。そもそもあれは俺が原因だからな』
そう言うと後は興味ないとばかりに離れていく。意外とこの幽霊も悪い奴ではないのかもしれない。
「芽唯!大丈夫かい!?」
直後、慌てた様子でおじさんがやってくる。報告を聞いて急いで来たのか、汗まみれだ。若干顔色が悪く、心配そうに私を見ている。
「あ、おじさん。大丈夫よ、特に怪我はないわ」
「本当かい?はあ...まったく、心臓に悪いよ」
「ご、ごめんなさい...」
おじさんに心配をかけさせてしまったことに罪悪感を抱く。
「とにかく無事でよかったよ...。これからマナクリスタルは慎重に扱わないとね」
「そうね...」
私たちは黒服の人たちに代わりの研究室を案内され、研究を再開するのだった。
*
「白と黒...?」
幽霊にマナクリスタルが発光した時の色を聞いてみたところ、四色の他に白と黒の二色だったらしい。ここに来て新たな色。これまでの研究では赤・青・黄土・緑色が確認されている。そして今回の白と黒はこの幽霊が初めて出した色であり、計6色あることが分かった。
(うーん...希少な色なのかしら?この幽霊いろんな意味で特殊だから十分あり得ると思うけど...)
機能の実験結果では白と黒は確認されていない。私たちが実験した人数が少なかっただけで、もっとたくさんの人に持ってもらえばたくさん出てくるかもしれない。問題はこの色が何を現しているかだ。赤なら火。青色なら氷。黄土色なら砂。緑色なら風。しかし白と黒は初めてなため、どんなことができるか分からない。光だとか闇だとかそんな感じだろうか。
(でもあの感じだと全く違う性質よね)
少なくとも液体や固体、気体を生み出す感じではなさそうだ。理屈では説明できないが、感覚でそう感じる。
「単刀直入に聞くけどあんた何ができるの?」
『人智を超えた行動ができる』
「その詳細を教えなさいよ」
『企業秘密だ』
想像していた通りの答えが返ってきて頭を抱える。そりゃあ自分の手札をみせるようなことはするわけないだろう。しかしこちらも引き下がってはいられない。
「じゃあいま黒色の炎みたいなのをまとってるのも人から認知されてないのもあんたの能力?」
『そうだな』
となると攪乱や姿を消すことができる力?事実私がレストランで食事している際他の客はこの幽霊を認知していないように感じた。本人もそれを認めているのでそれは間違いないだろう。となるとこの色は人の意識に干渉できる能力なのだろうか。しかしそうなると他の色とは毛色が違う。他の色は火を生み出したり風を起こしたりする、物質を生み出す感じだったが、白・黒色の場合何かを生み出すわけではないらしい。詳しく確認してみたいが白・黒色の件は保留だ。本人が力の詳細を教えてくれない以上今は確かめようがない。
とりあえず幽霊には研究を再開するということで部屋を出てもらう。
「さて...マナが多すぎると爆発することが分かったわね」
マナが多すぎると爆発するのは分かったが、どれだけのマナがあれば爆発するのだろう?そこら辺の境界が分からなければ危険だろう。
「まあまずはマナがどうやってできるかを確かめるべきじゃないかな?マナの生成方法が分かってからじゃないと分からないだろうし」
「そうね、まずはマナの生成方法からね」
そもそも私たちはマナがどうやってできているかすらわかっていない。エネルギーであることは分かっているがどういった要因でマナが生み出されるのだろう。
「うーん...マナで魔法みたいなことができることはわかったけど...」
人の体にマナがあるということは人体でマナを生成できているということになるのだが、どういう理屈だろうか。
「いやそもそもとしてどうしてマナクリスタルはマナを可視化できるのかしら。マナクリスタルについてもっといろいろ調べる必要がありそうね」
解明すべき謎が盛りだくさんである。
#
あれからマナクリスタルについて研究を続けて三日経った。分かったことはマナクリスタルは未知なる物質でできていること。人が持っているマナは一日くらいで元の量に回復すること。これぐらいしかわかってない。
マナクリスタルは既存の原子で構築されておらず、どういった原子なのかもわかっていない。さらにマナの増やし方も分からないので何故元の量に回復するのかも謎である。火や風を起こせる原理とかもまだわかってない。
「はぁ...なんかこのままだと行き詰りそうね...」
少しリラックスをした方がいいだろう。ちょうど明日は休日である。一旦酷使させた脳を休ませるとしよう。本日の研究は早々に終わらせおじさんと研究室で別れる。ホテルへと帰った後レストランにて夕食を楽しみ、自室に帰る。入浴を済ませ、寝間着に着替えた直後。
(...?)
ふと、違和感を覚える。この部屋に私以外に誰かがいるような、そんな感じがする。またあの幽霊だろうかとも思ったが、あの幽霊はいままで私の部屋に入ったことはなかった。不気味に思い、部屋から出ようとしたとき。
(...!)
後頭部に衝撃が走り、私は意識を落とした。
#
紗月を自室へと送った後、俺は自室に戻る。明日は休日だ。しかし休日であろうと護衛をしている以上紗月の身は守らねばならない。なので、俺は明日も仕事である。まあ紗月の精神を休ませるためにも彼女には気付かれずに守るつもりだ。
(しかし、いくら護衛をしなければいけないとはいえプライベートを覗くのは気が引けるな)
護衛という名目があるとはいえ思春期の子供ならばプライベートなど見られたくはないだろう。それも相手は女だ。
(...まあ、俺には関係ないか)
俺は依頼を成功するだけだ。思考を切り替えるように、なんとなく紗月の部屋周囲に意識を向ける。
(...?おかしい、紗月の気配が感じられない)
妙に思った俺は紗月の部屋の中を覗く。しかし、部屋の中には誰もいなかった。俺は常に紗月の部屋周囲を監視しているため、紗月が出入りした時間などは常に記憶している。もちろん、他の人物が目の前を通った時や使用人が入った時も記憶している。しかし、紗月が部屋に入った後外には出ておらず、部屋の前を通った者はいない。
(ちぃ!)
俺は内心舌打ちをし、ホテル全域を監視域に入れる。広場、レストラン、トイレ、挙句には風呂や通気口なども見たが紗月と思われる人影はいない。次は外にも目を向ける。おそらく、紗月は何者かにさらわれたのだろう。しかし問題は誘拐者がどうやって俺の監視網を抜けたか。俺は紗月の部屋の入口となりうる場所は常に監視している。さすがに研究所にいるときはしていないが、ホテルにいる間は四六時中である。加えて、ホテルの住居人、使用人も不自然な点はない。俺がホテル内にいるすべての人物の顔を記憶し、位置も即座に把握できるようにしている。
(となると、外部の侵入者か)
俺の監視網は普通では突破できない。では普通ではない方法だろう。
(...光学迷彩か)
もしくは、それに準ずる何か。俺の監視網は気配も探ることができるため、単に姿を消しただけではすぐに違和感に気づく。ということは相手は気配を消すこともできるわけだ。
(面白れぇ...俺から逃げられるとでも思ったのなら後悔させてやる)
紗月の護衛が普通のやつなら相手の勝ちだっただろう。しかし、今回は相手が悪い。
『逃げられるものなら逃げてみやがれ』
#
(...んー?)
小さな振動を感じ、目が覚める。目を開けると、見知らぬ車の中にいた。いつの間に寝ていたのだろうか、意識がまだはっきりしない。とりあえず体を動かそうとするが、腕を動かすことができない。そこで意識がようやく覚醒していき、自分の手足が縛られている感覚を感じる。
(そうだ、部屋から出ようとしたとき...)
もしかして、私は連れ去られたのだろうか。そう思った瞬間、言いようのない恐怖が私を襲う。
「おっと、気が付いたかい?お嬢ちゃん」
声をかけられ、運転席の方に視線を送る。そこには三十歳後半くらいのパーマ風の髪型に、不精ひげを生やした男性が運転していた。
「んー!」
そこで、私の口にはガムテープを張られていることに気が付く。手足を拘束され、口はガムテープでふさがれている。間違いない。誘拐されたのだ、この男に。そう確信した時、私は激しい恐怖を覚える。
「安心しろ、嬢ちゃんを殺したりはしねぇよ。大人しくしとけば痛いことはしないぜー」
男が微笑しながら言う。その微笑みは気さくな雰囲気を醸し出しているが、目は完全に笑っていない。
「んー、んーっ!」
今すぐ逃げたいという一心で、力いっぱいもがく。
「おいおい、叫んだところで誰も助けに来ないぞー?無駄な行動はやめた方がいいぜ嬢ちゃん」
私はこれからどうなるのだろうか。
私はこれからどこにつれていかれるのだろうか。
私は無事に帰れるのだろうか。
助けは...来ないのだろうか。
いろんな思いがごちゃごちゃになって思考がまとまらない。
(助けて、おじさん...助けて...母さん)
気付けば、私は涙を流していた。