2話 依頼
2話投稿できたやったね!
誤字脱字とうあったら教えてほしいでーす
『つまり、ガキの面倒を見ろってことか?』
目の前の依頼書には主に以下のことが書かれている。
・紗月 芽唯の護衛
・報酬3億
・期限 マナ研究の終了まで
目が飛び出るほどの報酬額だが正直に言ってガキの護衛だけでこの報酬はおかしい。
『随分と太っ腹じゃねぇか。それほどまでにこのガキが重要か』
高級ホテルの一室。談話室となってるこの部屋は高品質のソファーが二つ、きらびやかな内装等とても豪華だ。高い金を払ってるので当然なのだが、俺にはやはり場違いだろう。そして俺の目の前でコーヒーを飲む美形な青年。こいつは国の人物で俺に依頼を頼みに来た奴だ。
「ええ、当然です。いまや彼女はこの国の重要人物。彼女を失えば我々の損害は大きなものとなるでしょう」
予想通りの返答が返ってくる。この紗月という人物はノーベルものの研究成果を何回も出している。更に今回の研究は世界に改革を起こすかもしれない代物だ。もしその研究が成功すれば膨大な利益が見込めるだろう。
『だが、この金額は少し疑問だな。こんなにも用意するってことは何かしら不安要素があるってことだろ?』
例えば国の組織だろう。もしマナが電気エネルギー以上の働きをすれば世界の注目はマナになり、それを真っ先に開発した日本は経済でトップに躍り出るだろう。
アメリカはまだ日本を属国としているようなものだからいいだろうがほかの国はそうでもない。このまま経済の中心が日本になるのを黙ってみている可能性は低いだろう。
「あなたの推察通り不安要素がいくつかございましてですね。そこで、"死神"と恐れられているあなたに依頼を頼んだということですよ」
正直に言ってガキの面倒などやりたくはないが、ここまでの報酬を提示されて引き下がる理由もない。それと個人的な心情もある。
『分かった、依頼を引き受けよう。だが、俺は契約内容以外のことはするつもりないぞ?』
「ええ、十分です。そのほかのことは我々がするので」
こうして俺は依頼を受けることになった。
*
目の前にいるのは赤色の髪を長く伸ばし、ツインテールにしている小柄の少女。小学生くらいの子供という印象で、とてもではないが天才少女という感じはしない。黄色の瞳はまだ幼さを残しており、精神年齢も小学生っぽいのでこいつは本当に小学生かもしれない。15歳とのことだがどうやら偽物の資料を読まされたようだ。
「今失礼なこと考えたでしょ」
『気のせいじゃないか?』
女ってやつは変なところで勘がいい。ガキの護衛を受けてから二日目。レストランにて朝食をとっている。もっとも、俺には栄養の補給が必要ないので食べているのはこいつだけだが。それにしてもこのガキ、外見に合わず大量に食うのだ。成人男性三人分の食事をすでに終えている。それなのに食事の手が衰えるばかりか加速していく始末である。その小さな体のどこにそのエネルギーが使われるかわかったもんじゃない。甘味なら別腹というしまだ話は分かるが...
結局朝食が終わったのは一時間後である。机には大量の皿が載っており、周囲の人々は唖然と見ている。朝食なのにそんだけ食べて胃もたれはしないのかだとかそんなに頼んで料金は大丈夫なのかと思ったが俺には関係のない話である。
『一時間後に迎えが来る。それまでに用意を済ませとけ』
「分かってるわよ、昨晩連絡が来たわ」
そういって紗月は自室へと戻る。こうなるとしばらく暇になる。もちろんその間不審なものがいないかの監視はするがそんなのは片手間でできる。問題は時間だ。何かするには少し短く待つには非常に長い時間である。
『ガンショップで暇でも潰すか』
暇つぶしとして俺の数少ない趣味の一つである銃でも見に行こうと俺は能力を発動し、アメリカのガンショップへと跳んだ。
*
「やあ友よ、久しぶりだな。今日は何を見に来たんだ?」
ガンショップの店員、デイビッドが話しかけてくる。陽気な性格の黒人で、その黒髪を派手なアフロにしている、昔からの知り合いだ。
「今日はちょっと暇つぶしに来ただけだ。わりぃな」
「別にいいさ。あんたは大事な常連だ。ゆっくり見てくといい」
「助かる」
俺は店内を軽くみて回る。デイビッドは重度のガンマニアであり、銃の手入れや扱いは人一倍大切にしている。そのため一見分からなくとも、隅々まで銃の手入れが施されている。また、珍しい武器の取入れもしており、マイナーな銃や誰もが使えないだろうロマン武器なども在庫に存在していたりする。この前H&K VP70を店舗に並べていたときのデイビッドは嬉しそうであった。そんな店だからこそ、近場では穴場として知られている店だ。俺自身もこの店を気に入っており、銃を買うときや手入れをするときはいつもここに来ている。気づいたら常連になっていた。ところどころを詳しく見て、一周した後レジにいるデイビッドのところへ足を運ぶ。
「さすがだな、デイビッド。隅々まで掃除が行き届いている」
デイビッドは店長として銃だけでなく店も丁寧に掃除をしてる。
毎日隅々まで掃除しているもんだから尊敬する。
「当り前だろ?銃は俺の宝だ、宝は誰だって大切にするだろ?」
「お前の場合は宝箱まで掃除をしているからな。だからここが一番いい。今日は弾薬だけ小量買っていこう」
俺は少量の弾薬を貰い、料金を支払う。
「毎度あり、また来てくれよ」
「ああ、当然だ。じゃあ俺は依頼に戻るとするぜ」
「今度は何の依頼を受けたんだ?「死神」さんよぉ」
笑みを浮かべながらデイビッドが聞いてくる。
「生意気なガキの子守りさ。退屈でしかない」
「へぇ、お前が護衛の依頼を受けるなんて珍しいな。何か魅力的な報酬でもあったか?」
「まあな、大金が手に入るのと...あとはまあ個人的な心情さ」
やはり3億というのは魅力的だ。すでに俺は一生を遊んで暮らせるだけの財産はあるが、金というのはあればあるほどいいものだ。まあ、デメリットもあるが俺には関係ない。
「ほう、お前が依頼に私情を入れるなんてもっと珍しいじゃないか。いったいどうしたんだ?」
「それほど大した理由じゃねぇよ。本当にくだらないものさ」
「はは、そうか。お前なら心配はないが、無理はするなよ」
「分かってるさ。それじゃまたな」
「おう、次来るときにはお前が気に入りそうなもの入荷しとくぜ」
「そうか、それは楽しみだな」
デイビッドと別れた後、ガンショップから出て日本へと帰宅した。
#
今日からマナの開発に着手する。国からは資金や資材は惜しみなく援助してくれるらしいので私は研究に没頭するだけでいいらしい。しかし没頭している間にもあの正体不明の幽霊がいるとなると憂鬱だ。
朝食を終えて、自室に入る。出発にはまだ一時間早い。何かするには短いのだが、待つにはかなり短い時間。この部屋には豪華な4kテレビがついているが生憎私はニュースなど見ない。一応アニメは好きだったりするのだが今はそんな気分ではないしそもそも一気に見るタイプの私には時間がなさすぎる。ラノベでも読もうと思ったが持っているラノベも全巻読破してしまっていることを思い出す。本当に暇を潰す手段がない。
「...母さん宛てに手紙でも書こうかしら」
そういえば最近多忙の身で母さんに手紙を送っていなかったのを思い出す。ちょうどいい機会だ、今のうちに書いておこう。
私の母さんは病弱だった。なので、私が生まれて六年たったころ、不治の病にかかってしまったのだ。母さんは入院することになったのだが、父さんは私が生まれる前に事故で亡くなっているため私は海斗おじさんに引き取られることになった。海斗おじさんは私の叔父で、母さんの兄だ。
優秀な研究員で、私に科学の知識があるのは海斗おじさんが教えてくれたからである。おじさんに引き取られた私は母さんの病を治療するため医学と科学の勉強をした。おじさんの教え方がうまいおかげで私は11歳の頃に病の治療薬を完成させることができたのである。これが私の第一個目の成果だ。
母さんの病は癒え、退院できるようになった。それからは別居し、研究に集中することにしたが、時々母さんとは会っている。
「ふふ、母さん元気にしてるかな?」
思わず笑みを浮かべてしまう。母さんからは物心つく前から大切に育ててきてくれた。父さんがいない中、女手一つで仕事をこなし、笑顔で傍にいてくれた母さんの手のぬくもりは今でも忘れていない。今度は私が母さんに恩返しをする番だ。
手紙を書き終え、封をする。
「そうよ芽唯!母さんに楽に暮らしてもらうんだからあんな幽霊どうってことないわよ!」
両手でほっぺたをたたきカツを入れる。ちょっと痛かった。使用人を呼び、手紙をポストにいれるよう頼み私は出発の準備をする。幽霊がいることは憂鬱だがそれ以上に楽しみなことがある。それは今回の研究は海斗おじさんとの共同作業ということだ。おじさんは私の親同然なので共同で仕事ができることに嬉しさを感じる。
こうして手紙を書き終えた私は、出発の準備を始めた。
*
部屋から出ると例の幽霊が既に立っていた。
『時間だ、行くぞ』
「分かってるわよ!」
相変わらず不気味なままである。数秒後、複数の足音と共に声がかけられる。
「紗月様ですね?お迎えに上がりました」
私に話しかけてきたのは黒服の人たち。私の隣にいる幽霊よりよほどボディーガードっぽい雰囲気だ。五人ほどおり、強面で強そうな雰囲気を出している。黒服たちの案内に従い、ホテルから出ると黒い高級車が三台ほど待機しており、これまた黒服たちが周囲を警戒している。私はそのうち真ん中の車に乗るらしい。「あたしゃ総理大臣か!」と叫びたいほど護衛が手厚い。もうこの幽霊いらないだろと思うのだが。というかこんなにも護衛がいるってことはそれぐらい私の命が危ないことなのだろうか。実感が湧かないがそう思うと自然と緊張してしまう。
『...わりぃ、先に行っててくれ。急用ができた』
車に乗ろうとした直前、幽霊がそんなことを言い出す。
「急用?まあいいけど」
この幽霊から離れられるのならそれに勝る喜びはない。となりにずっといられたら気まずいにもほどがある。幽霊が去り際に黒服の人と何かを話していた気がするが気にしない。私はそのまま車に乗り、運転席の後ろに座る。座席はとてもふかふかで、香水でも使っているのか中はいい匂いが漂っている。その後、黒服の人三人がそれぞれ運転席、助手席、私の隣に座る。そして、私が乗っているの車を挟むように前後には二台がスタンバイしている。完全に重要人物が移動するときのそれだ。ここまでされるとものすごく緊張する。幽霊と一緒にいるときほどではないが精神的に負担がくる。早くおじさんに会いたいと思う私を乗せ、車が動き出した。
#
『どうした?こんなところで日向ぼっこなんて』
とあるビルの屋上。俺の目の前にはいい年したおっさんが双眼鏡で街を見下ろしている。見ている先は、紗月芽唯が乗る黒の高級車。
「っ!?」
おっさんは俺の言葉に反応し、即座に拳銃をこちらに構える。
「...その姿。まさか、噂に聞く「死神」というやつか?」
白髪が混じり始めている初老の男性。おっさんから爺さんに変わる前といった見た目だ。肉体はスーツ越しでも鍛えてるのが分かるほど引き締まっており、突如現れた俺を冷静に見据えている。
構えてる拳銃はサプレッサーが付いており、俺の仮面、つまり顔面を正確に狙っている。まさに熟練の傭兵だ。
『そう呼ばれてることが多いな、あまり好きな名前じゃないが。それより銃刀法違反だぜ?それ』
「ふん、人間かどうかも怪しいやつに注意されるとはな。お前の話は聞いているぞ、人智を超えた動きができるらしいな」
男が銃を構えながら視線を俺から外す。退路を探っているのだろう。
『悪いが種明かしはできないな。道化師はタネがばれれば終わりだろ?』
「お前は道化師ではなく死神なのだろう?ならなぜ私の存在がバレたのかくらい教えてくれてもいいのではないか?」
この間にもおそらく引くための策を考えているのだろう。スモークで姿を消すか、閃光で目を潰しに来るか、はたまた別の方法か。
『道化師ではないが死神ってのは対価を求めるもんだ。等価交換としてお前を雇った国を答えてもらおうか』
「悪いが私は死神など信用するつもりはない。対価を求めるというのならここは逃げさせてもらおう」
その瞬間、おっさんの腰からグレネードが投げられる。形状からスモークだろう。それをおっさんは拳銃で打ち抜き、周囲に煙が漂う。その隙にビルから飛び降りた。素晴らしい射撃能力と判断力だ。俺が来たということは出入り口が封鎖されていると考えたのだろう。なら建物内での出入り口は使わずビルから飛び降りるのが最善とでも考えたのだろう。おそらく、助かる方法も用意しているはずだ。さすがというところだ。しかし今回は相手が悪い。
『残念だが...俺からは逃げられないぞ?』
俺は笑みを浮かべた。