番外編 あさがお孤児院
「死神」の日常生活を描いた番外編です。メインストーリーとは関係ないので、早く続きが見たい方は飛ばしても問題ありません。時系列的には一話よりも数日前となっておりますので気を付けてください。また、脳死で書いてる部分がありますのでおかしな部分がございましたら報告お願いします!
俺は食材を買おうと、地元のスーパーへと向かっていた。平日ではあるがなかなか人が混んでおり、そこそこ車も通っている。天気は良く、空はどこまでも青く広がっていた。
(さっさと終わらせるか)
そう思い歩くスピードを上げ、 交差点まで来ると。
「えへへー!おかあーさーん!こっちこっちー!」
「こら美希!戻ってきなさい!」
まだ小学生にもなってるか分からない少女が横断歩道に飛び出してくる。見てみると信号が赤くなっており、クラクションを鳴らしたトラックが少女に迫っていた。
「ッ!」
俺は全速力で駆けつけ、少女を捕まえて歩道へとたどり着く。
「怪我はねぇか!」
「ほえ?う、うん」
少女は何が起こったか分からなかったようで、キョトンとしている。
「馬鹿野郎!ちゃんと信号を見やがれ!」
「ひい!」
俺の怒声が怖かったのか、少女が怯えて泣き出してしまう。
「…悪ぃな、怒鳴っちまって。でももう二度とこんな危ねぇことすんじゃねぇぞ」
頭を撫でて、少女を慰める。
「…ぐす…う、うん」
「ありがとうございます!」
すると、少女の母親らしき人物が頭を下げてきた。
「別にいいさ。ただ、お前も母親ならしっかり子供のことは見とけよ」
「はい…本当に、娘を助けてくれてありがとうございます!ほら、美希もお礼しなさい!」
「うん…ありがとう、おにいさん!」
親子2人からお礼を言われては、さすがにこれ以上何か言おうとは思えなかった。
「無事ならいいんだ。でも本当に次からは気をつけろよ。約束できるか?」
「うん!約束する!」
「いい子だ。じゃあこれをやる」
頭を撫でつつ、少女に飴玉を渡す。
「いいの?」
「ああ。ちゃんと味わって舐めろよ?」
「ありがと!」
少女は嬉しそうにはにかみ、母親と手を繋いで横断歩道を渡っていく。
「じゃーねーおにいさーん!」
母親と少女が手を振ってさよならを言ってくる。俺も手を振りながら、反対方向にあるスーパーへと向かった。
*
食材を買った後、俺はとある施設へと向かった。
「あ!おい、にーちゃんがきたぞ!」
「わあ!おにいちゃんだ!」
広場で遊んでいるのは数多くの子供たちで、それぞれが皆ハンドボールで遊んでいたり、おにごっこで遊んでいたりしていた。どうやら一人の子供が俺に気づいたようで、こちらに向かってまっすぐに走ってくる。それに気づいた周りの子供たちもそれぞれの遊びをやめ、俺に向かって走ってきていた。あっという間に俺は子供たちに囲まれ、歩くことすら困難な状態になる。
「こらこら、落ち着け。食材持ってるから遊ぶのはまた後でな」
「「「はーいっ!」」」
ひとまず子供たちを落ち着かせると、各々また遊びに戻っていった。すると、子供たちを見守っていた女性が静かに歩み寄ってくる。
「今日はいらしてくださりありがとうございます。子供たちはみんなお兄さんが大好きらしくて、いつも来るのを楽しみにしているんですよ」
くすりと笑うこの女性は星野 油井。ここ、あさがお孤児院の職員である。俺は仕事が終わると、決まってこの孤児院に通い、子供たちの世話をしている。
「そいつは嬉しいな。ところで星野さん、厨房は使っても大丈夫か?」
「もちろん大丈夫ですよ。前日に連絡をくださったおかげで用意もできています。またおいしいご馳走をお願いしますね?」
「そんな大したもんじゃねぇがな。まあでも、あいつらがほんとにおいしそうに食うからいつも張り切っちまうんだよな」
話もそこそこにし、食材を冷蔵庫に入れた後は広場へと出る。
「あ、おにいちゃんがかえってきた!」
「あそぼあそぼ!」
戻ってくるとまた子供たちが寄ってくる。
「お前たちは何がしたいんだ?」
「んー、おにごっこがいい!」
「あたしもあたしもー!」
「えー!?おれはかくれんぼがいい!」
「ぼくはけいどろがしたいな」
各々やりたい遊びを言っていく。一番意見が多かったのはおにごっこ系統で、次に多かったのはかくれんぼであった。他にもだるまさんが転んだや駒遊びなどもあったが、ひとまずおにごっこをすることに。
「さぁ~て...俺から逃げられるかぁ~?」
「わーい!にげろにげろー!」
じゃんけんで負けた俺は鬼となり、こどもたちが逃げていく。数十秒待ってから、逃げた子供たちを追い、走り出す。もちろん本気を出すと面白くないので、適度に力を入れつつ子供たちが楽しめるよう調節する。おにごっこの後も子供たちがやりたい遊びをして、全員で楽しんだ。
「よーし、休憩だ」
疲労がたまっているであろうし、ひとまず休憩をさせる。しっかり水分補給をさせ、休むように言う。
「ねー、おにちゃん」
「ん?」
俺が木の下で休憩していると、花を持った少女が話しかけてきた。
「えっとね、おにいちゃんにね、これあげる!いっしょうけんめいそだてたんだよ!」
手に持っている花はこの孤児院の名前でもあるきれいな青紫色のあさがおだった。
「ありがとな百花。大事に飾っとくぜ」
「えへへ!」
あさがおを貰うと百花はとてもうれしそうに笑い、手を後ろに組む。俺は百花の頭を撫でてやり、礼を言うとさらにうれしそうにきゃっきゃきゃっきゃと騒ぐ。
「あたしね!おおきくなったら、おにいちゃんとけっこんするの!」
「はは、そうか。そいつは楽しみだな」
きっとこれは、子供であるが故の一時的な感情だろう。百花もきっと大きくなるにつれ、大切な人ができ、好きな人ができ、その人と結婚するはずだ。しかしそれは俺ではなく、他の人物であるべきであろう。俺のような、ろくでもない人間とはやめておいた方がいい。本人も大きくなったら俺のことは恋愛対象として見ていないだろう。
「大きくなるのを、楽しみにしてるぜ」
「うん!はやくおっきくなる!」
百花はとても優しくて、元気な子だ。人付き合いでつらいこともあるだろうが、きっと幸せな家庭を築けるだろう。
「ももかちゃーん、いっしょにあそぼー!」
「ほら、呼ばれてるぞ?」
「うん、いってくるね、おにいちゃん!」
そう元気で言った百花は、呼ばれた方向に向かって走っていった。子供たちと一緒に遊び、他にすることもないので、そろそろ夕食の準備をしようかと思い厨房に行こうとすると、施設内で本を読んでいる子供を見かける。
(...昌?)
俺は孤児院の中へ入った。
*
「よう、昌。何の本を読んでるんだ?」
「あ...お兄さん」
昌は視線を本から俺へと変える。
「べん強をしてるんだ。算数の」
本を見てみると、小学校で習う数学について書かれているものだった。他にも周りには勉学用の本が置いてあり、ここで読んでいたことがわかる。
「そいつはえらいな。でもいいのか?みんな外で遊んでるぞ」
そう言うと、昌は少し視線をそらしつつも口を動かす。
「ぼく、動くのがきらいなんだ。こうやって、本を読むほうが好きで...それって、わるいことなのかな」
「そんなことねぇぞ。勉強ってのはいくらやっても損しないからな。でも、たまには外で運動しないとだめだぞ?」
「うん、分かった」
俺は昌の頭を撫でてやり、近くに置いてあった本を手に取る。
「ぼくね、しょうらいお医者さんになりたいんだ」
「どうしてだ?」
「お医者さんって、たくさんの人を助けるんでしょ?だったらぼくもお医者さんになって、いろんな人助けたいなって」
「...優しいな、お前」
昌は物静かで、人とコミュニケーションをするのが苦手だが、本当は人のことを思いやれて頭もいい子だ。きっと、優秀な医者になるだろう。
「よし、じゃあ少しの間見てやるよ。分からないとこがあったら聞け」
「えっ...いいの?」
「ああ。夕食を作らないといけねぇから少ししか無理だけどな。すまん」
「ううん、平気だよ、ありがとう。じゃあさっそく、分からないことがあるんだけど...」
*
夕食を作り終え、孤児院全員が食卓に集まった。子供たちは全員席に着き、目の前にあるカレーを早く食べたそうに見ている。
「よし、じゃあ手を合わせて、いただきます」
「「「いただきます!」」」
全員で手を合わせ、あいさつをする。孤児院で食事を摂る時のマナーである。挨拶を終えた瞬間、子供たちが待ちわびていたとばかりにカレーにむしゃぶりつく。
「おいおい、落ち着いて食えよ。のどに詰まったら大変だからな」
「分かってるよ!」
「おいしい!」
よっぽどお腹が空いていたのか、子供たちはどんどんカレーを食べていく。これはおかわりを大量に用意していて正解だったかもしれない。
「...ん?」
しかし、一人だけスプーンがあまり進んでいない子供がいた。
「どうした翔太。食欲がないのか?」
「えっと...その...」
見てみると、カレーに入ったピーマンを端っこに寄せて、食べていた。
「そういえばお前、ピーマン苦手だったな」
「うぐっ」
指摘すると、ばつが悪そうに視線をそらす。
「いいか翔太。いろんな物を食べないと大好きなサッカー選手にはなれねぇぞ?ピーマンだって大きくなるにはちゃんと食べないとな」
「うー...でも...」
しかし、嫌いな物というのはやはり食べづらいようであまり進まないようだ。
「好きな物と一緒に食べてみろ。多少紛れるぞ」
「...うん、わかった...」
意を決したようで、肉と一緒にピーマンを口に入れる。
「うぅ...にがい...」
翔太が顔をしかめながら言う。
「頑張ったな翔太。その調子でいろんな物を食べるんだぞ。そうすれば、立派なサッカー選手になれる」
「ほんとに?」
「ああ。練習ももちろん大事だが、苦手な物も食べないと丈夫な体は作れないからな」
翔太は好き嫌いが激しく、少しだけ自分勝手な部分もあるが、負けず嫌いで辛抱強く、努力家だ。きっと有名なサッカー選手になれるだろう。
「よし!じゃあいっぱいピーマンたべる!」
「ピーマンだけ食べてもだめだからな?」
ちゃんと翔太に釘を刺した後、俺は子供たちの様子を見る。皆、笑顔で笑い、楽しそうにカレーを食べている。そんな姿を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
(...こいつらには、真っ当な人生を歩んでほしいな)
ここにいる子供たちは皆、親が死んだか、親に捨てられている境遇だ。この先、数多くの苦難が待っているだろう。それでも、俺のように道を外してほしくはない。真っ当に育って、真っ当に生きて、幸せに暮らしてほしい。
「...本当に優しいですね、あなたは」
「そうか?」
物思いにふけっていると、星野が話しかけてきた。
「ええ。子供たちと一緒に遊んでくれたり、相談に乗ってあげたり、時にはちゃんと叱ったり。ちゃんと子供たち一人ひとりを見てくれて...本当に優しい人です」
「...優しい...か」
俺と関わった人物は皆そう言った。お前は優しい奴だと。だが、優しさなど戦いには足かせにしかならない。俺はそれを、嫌というほど味わった。
「本当に考え直してくれないんですか?ここの職員になる話」
「...俺は、そんな奴じゃねぇよ」
あくまでも俺は幼少期の頃の自分と子供たちを重ねているだけだ。つまり、ただの自己満足なのだ。だから、たまにこの子たちの元気な姿を見れるだけでいい。
「...そうですか」
「この後大丈夫か?支援金について話したい」
「本当にいつもありがとうございます。あなたの支援金のおかげで、子供たちの欲しいものが買えますから」
「そうか、それならいいんだが」
俺の依頼で得た金で、少しでもこいつらのためになるならそれでいい。
「みてみて―!おにいちゃんとおねえちゃんがらぶらぶー!」
「ほんとだー!」
「おにいちゃん!うわきはだめだよ!」
「い、いきなり何を言うんですか」
「ばーか、そんなんじゃねぇよ」
浮気という言葉をどこで覚えたのか疑問だったが、深く気にせず笑ってごまかした。
#
夜。家へと帰宅し、あさがおを花瓶へと入れた後、入浴を済ませる。湯上り着に着替え、髪を乾かし自室に戻ろうとすると携帯が鳴る。「仕事」用の携帯である。俺は机に置いていた仮面を付け、電話に出る。
『「死神」だ。要件を言え』
「夜分遅くに失礼します。こちら、○○局所属の日月と申します。今回は「死神」のあなたにとある依頼を受けてほしいのです」
日月と名乗った人物は二十代後半くらいの声色をしており、どことなく感情が読めない。
『依頼内容は?』
「紗月 芽唯の護衛です。詳しいお話は直接会ってしたいので、明日の夜8時、とある高級ホテルにいらしてくださいませんか?」
『...いいぜ、場所は?』
「ありがとうございます。場所は...」
詳しい場所を聞いた俺は、電話を切り、スマホで紗月 芽唯について検索する。確か、最近有名の天才少女だったはずだ。調べてみると、母のために不治の病を治す薬を発明したとのことだ。
(...ちっ、どいつもこいつも子供を何だと思ってやがる)
きっとこいつは裏の世界など知りもしないだろう。しかし、俺に護衛の依頼が飛んでくるということはきっとロクでもない理由が関係しているだろう。本来なら護衛なんて受けないのだが...
(...ほんとに、優しさってのは枷でしかないな)
俺は武器の準備をするのだった。