1話 ボディーガード
記念すべき一話!
これで更新終わらなければいいね!(笑)
私は目の前にいる存在に恐怖した。全身を焼かれ、苦痛のあまりに叫ぶ人間。その光景を淡々と見据えるゆらゆらと揺れるそれは、黒色の炎のようだ。不安定で正確な形を留めておらず、幽霊のようように不気味な雰囲気を出している。しかし、人間の顔あたりの高さにある鬼のような仮面ははっきりと見ることができる。
それは静かに振り向き私を見据える。仮面の隙間から見える赤く光る瞳からは感情を読み取れない。
私にはそれが、死神のように見えた。
*
私、紗月芽唯は様々な研究成果をたたき出した。
不治の病を癒す薬の開発、スーパーコンピューターの何千倍の演算力を持つハイパーコンピューターの製造、超高性能人工知能の制作。それ以外にも研究成果を出した結果私は国から支援をしてもらえるようになった。これに歓喜した私はとある研究に着手することにした。その研究とは未知のエネルギー"マナ"の解明である。マナとは、私が偶然発見した新たなエネルギーで、分かっていることは一種のエネルギーであることと、地球には微量しか存在していないということだけである。
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「護衛?」
とある高級ホテルの談話室、ふかふかのソファーに座り机の上に置かれた紅茶を飲む。ティーカップ一杯分でお札が飛ぶかわりに絶品の味わいを舌に感じさせてくれる。そんな紅茶が、机には二つ置かれていた。私と対になるように座っているのは、私の身の安全について話に来たと言っているスーツ姿の男性だ。外見年齢は二十代後半といったところで、その整った顔立ちと糸目のおかげで温厚そうに見える。ただ、趣味でアニメや小説を見てる私にとって糸目イケメンはだいたい裏があるものと勝手に思っているのであまり信用はしていない。
他に人はおらず、扉や窓は完全に締まっている。
「ええ、最近は物騒ですからね。しかもあなたが開発しようとしているのは新たなエネルギー。様々な組織から狙われるでしょう。しかしあなたは我が国の重要な研究員。我々が用意できる最高の護衛を用意いたしました」
新たなエネルギーとは言わずもがなマナのことである。マナはまだまだ分からないことが多いが、電気エネルギー以外のエネルギーとなると世界が注目するのは間違いない。もしマナが想像以上の利益を生むとしたら最初に発見した日本の経済は非常に良くなるだろう。それをよく思わない者からの刺客が来るかもしれないことを恐れての護衛ということらしい。一応情報は秘匿されているはずだがこのご時世秘匿など信用できないとのことだ。
「言っておくけど、いかついゴリラみたいなやつはお断りよ」
腕利きの護衛などきっと筋肉の塊のような奴だろう。そんなむさくるしい奴とは一緒にいたくはない。この男性からしたら腕利きの護衛を付けたいのだろうが日常生活の中真横に筋肉だるまがいたのでは落ち着かない。
「安心してください。あなたが思うような人物ではないでしょう」
ということは女性なのだろうか?それか細マッチョのイケメンとか?イケメンなら大歓迎である。
「ふーん、どういった人物なの?」
「後ろにいますよ」
「は?」
この部屋にはこの人と私以外誰もいないはずだ。こいつは何を言ってるのかと疑問に思いながら後ろを振り返る。するとそこにはゆらゆらとした黒色の何かがいた。それは炎のように揺らめいており、しっかりとした形を留めていない。かろうじて人型ととらえることができるそれは、ゆっくり振り返る。そいつはおそらく顔の部分であろう場所に、鬼のような仮面を付けていた。私がこの部屋に入るときはこんなやつはいなかった。もちろん扉や窓も開いていない。つまりこいつは気が付かないうちに私の後ろに出現したということだ。
『一応言っておく。変な行動はすんなよ』
低く、まるで人間ではないような声でそれは言った。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!こんな人間かも怪しい奴が護衛なの!?私はごめんよ!」
こんな得体の知れないやつと一緒に行動するなど不快の極みである。まだ筋肉だるまが護衛についた方がマシだ。
「いかついゴリラではありませんよ?」
微笑し紅茶を飲みながら言ってくる。だからといって幽霊を連れてくるのはいかがなものか。そのむかつく笑顔にパンチをしてやりたい。
「冗談じゃないわ!こんな怪しい奴と一緒にいろって言うの!?」
「ご安心を。その者は一度も依頼を破棄したことがないのです。更に、依頼に失敗したことは一度もありません。実力は確かですし、契約をしている最中は信用できます」
「私は信用できないんだけど?」
正直に言ってこんなやつと一緒になんかいたくない。そもそもこんな原型を留めてないやつなど人間であるはずがない。
「今までの彼の功績を教えましょうか?」
「...どうしてそんなにこの幽霊にこだわるの?」
「現在我々が用意できる中で最高の護衛だからです」
変える気はないようだ。国の人物が勧めてくるなら間違いなく優秀なのだろうが、やはり納得がいかない。だが、このまま文句を言ってもこの男は食い下がりそうな気がするため、あきらめることにした。
「...分かったわ。ただ、変なことしたら許さないからね」
後ろの幽霊を睨みながら言う。
『勝手にしろ』
感情の読み取れない声で幽霊が言った。
*
男性との話を終えた後、お腹が空いた私は三ツ星レストランにて夕食をとっていた。数年前から食べているのだが、元々私は貧乏な家から生まれたので高級料理は今でも新鮮である。今日も一流シェフが作った料理を口に運び、そのうまさに感激しただろう。そう、私のそばに幽霊がいなければ。
(すごく気まずい...。ああもう気まずいにもほどがあるわ!なんでこんな幽霊みたいなやつが私の護衛なのよ!)
こんなやつが傍にいては高級料理を楽しもうにも楽しめない。他の人の印象はどうなのかと周りの人を確認したが、幽霊を見ても気にもしていない様子である。こんな異質な存在を目の当たりにしても顔色一つ変えないなど明らかにおかしい。もしかしてこれが普通なのだろうかと思い始めてきた次第だ。いや、それはないだろうと思いなおす。こんなのが日常にごろごろといるところを見たことがないので普通ということはないはずだ。そのような話題や噂なども聞いたことがない。さらに、周りの人は幽霊に気づいてすらいない印象を抱く。
(そもそもとして何なのこいつ。本当に人間なの?なんで容姿すらまともに視認できないのよ!)
もし人間ならどうやってこんな姿になったのだろうか。はなはだ疑問ではあるが、不機嫌にでもなってどんなことをされるか分からない以上そうやすやすと質問などしたくはない。
「...食べないの?あんた」
この幽霊、さっきから私のそばに佇んでるだけで料理を食べようとしないのである。
『俺には必要ない』
食事不要など本格的にこいつは幽霊なのではないだろうか。しかしこいつは食べずに私だけ食べるなどいたたまれない。でも本人が必要ないといっているので気にすることはないと自分に言い聞かせる。結局、幽霊は最後まで何も食べずに夕食の時間は終わった。
これといった会話もないまま時は過ぎ、幽霊とは別れてホテルの自室へに入る。マナの開発は明日からで、今日はゆっくり休めとのことだ。今日は精神的に疲れたので風呂に入り体を洗うことにする。
部屋は豪華できらびやかではあるが落ち着いた雰囲気を出している。高級ホテルでもVIP待遇であるので他の部屋よりも広く、窓からは夜の都会を見渡せるようになっている。いつもならそこで紅茶を飲みながら本を読むのだが、今はそんな気分ではない。私のいるリビングには大のテレビや大き目の机、ふかふかのソファーなど一般的な家具が置いてある。しかし今はリビングに用などない。
脱衣所で服を脱ぎ、籠へと入れる。脱いだ服をこの籠に入れて使用人を呼ぶとこの籠を持っていき、後日洗濯した状態でもってきてくれるのだ。服を脱いだ私は浴室に入り体を洗う。
シャンプー、コンディショナー、ボディーソープ共に一級品のものが置いてあり、ボディタオルも最高級の代物である。湯船には日替わりで変わる入浴剤が入れられており、今日はラベンダーの香りが漂っている。先にシャワーを浴びた後、髪を洗うため鏡を見る。鏡に映るのは赤色の髪を長く伸ばした小柄の少女。小学生と間違えられてもおかしくない子供であった。私は今年で15歳なのだが身長が全くと言っていいほど伸びないのだ。なので小学生と間違えられることが多々ある。遺伝なのか分からないが不快極まりない。胸など成長する気配がなく、背も三年前から一切伸びていない。お母さんのモデル体型がうらやましい。ため息をつきながらも体を洗い、湯船につかる。
「はぁー...気持ちいいー」
今日一日の疲れが癒されていく。ラベンダーの香りがリラックス効果をもたらす。やはりお風呂は気持ちをリラックスできるので大好きである。本当は大浴場があるのだが、今日は幽霊と会ったせいで精神的疲れが大きかったので個室の風呂にした。
(はぁ...あんな幽霊が私の護衛...かぁ...)
護衛どころか私のことを殺してきそうなのだが今のところそんな様子はない。まあ国が出してきた護衛なのだから大丈夫ではあるだろうがどうにも不安だ。
(...まあ、今考えても仕方ない...か...)
認めてしまった以上傍に置いておくしかない。無理を言えば変えてもらえるだろうが、そんな気はおきない。今はマナの開発に集中すべきである。マナについての研究が終わってしまえばあんな護衛とも別れるわけなので、さっさと終わらせよう。
考えがまとまり、体が温まった私は浴室から出て寝間着に着替えた後、髪の手入れをする。歯も磨き、すべきことを終わらせた私は寝室に入り、ダブルベッド並みの大きさであるベッドにダイブする。
至福の感覚が私を支配し、強烈な眠気が襲う。小学生の時から持っている熊のぬいぐるみを抱いて、明日に備え私は静かに眠りについた。