走り出せ
フリーター、親のすねかじり、きもでぶ、俺に対しての評価はこんなもんだ。だが、ネットの世界では違う。ネットは俺を受入れ、俺を称えてくれている。さあ、今日もPGEオンラインのレイド戦を始めようじゃないか。
ぽちり
<<サーバーが混みあっております>>
「ん?なんだこれ」
ぽちり
<<サーバーが混みあっております>>
「なんかレイド始めれないんだが?なんでだ!俺に、俺にレイド無双させろやぁぁぁ!!!」
ドシ、バン、バン!!
4年愛用しているカビがところどころ生えたキーボードを何度も叩いた。
パチリ
画面が消えた。
「おん?画面消えたけど、、、というか電源切れてるし、どゆこと?」
俺はもう一度電源を付けようと電源ボタンを押すが、何度押してもパソコンの電気が付かない。
「停電か?部屋の明かり付けるか」
俺は重い腰を上げて部屋の電気を付けようと移動する。そして、部屋の明かりのスイッチを押したと同時に唐突に頭にAIが話すような電子的な声が響いた。
『ステータスを獲得しました。』
「え?ステータス?」
『ステータスを獲得したことにより、職業を選択できるようになりました。』
『ステータスを獲得したことにより、スキルを取得することができるようになりました。』
『キーの入力を確認しました。これよりダンジョンを生成します。』
「職業?スキル?は?どゆこと?というか誰だ話してんの」
職業、スキル、ダンジョン、これらは全て俺がよくやっているというか今からやろうとしていたゲーム、PGEオンラインの世界に出てくる要素だ。というより、他のゲームでも出てくるいわゆる異世界もののゲームであればほぼ必ず実装されているであろうゲーム要素。
ゲームのやりすぎだろうか?遂に幻聴が起きるくらいにゲームしすぎたったことか?
「よっこらしょ、はぁ、肩痛てェ」
俺は気のせいだろうと思い、一度ベッドに横たわった。
『職業を選択してください』
- - - - - - - - - -
影稼業:レア度5
ニート:レア度1
農家:レア度4
- - - - - - - - - -
「えっと、影稼業とニートと農家、、なんだこりゃ?とりあえず選んでみるか」
AIの声が聞こえ、目の前にパネルが表示された。
パネルには三つの職業が表示されており、レア度が横に添えてある。
影稼業は名前からしてかっこいいが、残りの二つはハズレ臭がすごい。
各職業に説明はなく、名前とレア度から選んでくれとでも言わんとする表示だ。気になるところは農家がレア度4であること。意味が分からない。
農家なんて異世界もののゲームであればレア度としては相当低い部類だ。なのに、レア度は4。今このパネルに表示されている職業で最もレア度の高い職業は影職業という明らかに強そうな職業がレア度5なわけだが、レア度が相当低いはずである農家が影稼業よりレア度が一つ低いだけ。
ジョーカー的な職業で実はめちゃくちゃ強いとかニッチなゲームならたまにあるが、レア度が高いだけのネタ職業である可能性も高い。
どちらかというと俺は安パイを選ぶ方だ。
「じゃあ、影職業で」
『スキルを選択してください』
- - - - - - - - - -
忍び歩き
身体強化
腕力向上
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影職業を選択すると、今度はスキルを選択しろとAIに言われた。
なんのこっちゃ全然わからないけど、とりあえずこれも安パイを選ぼうと思う。とりあえずは身体強化。身体強化は多分、全体的なステータスを強化してくれる的なやつだろ。序盤は何かに特化したやつじゃなくて全体的にステータスを上げていくみたいなことをすれば詰むことはないはずだ。忍び歩きと腕力向上はどんな能力かわからないからひとまず保留でいった方がいいだろう。
『職業とスキルの選択が完了しました。ステータスを表示します。』
『これより、ステータスを表示する際はステータスを唱えてください』
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<ステータス>
名前:鈴木 相馬
レベル:1
経験値:0/10
HP:5/5
MP:0/0
力:2
速度:1
ポイント:0
職業:影稼業
スキル:身体強化
- - - - - - - - - -
なんかステータスが表示できるようになったらしい。確かにパネルには俺のステータスが表示されている。HPも力も速度も、もしこれがゲームの世界であれば相当低い数値だ。MPに関しては0。まあ、人間は魔力なんてものを使えないからな。あと、レベルや経験値はゲームでよくあるやつだからまあなんとなくわかる。でもポイントってなんだ?まあ色々わからないことはあるけど、大体ゲームによくある項目ばかりだ。
「くぎゃ!ぎゃgy;ぎゃ;ぎゃ!」
「おん?今のなんだ?」
明らかにこの世界に存在してはならないような聞いたことのない叫び声。動物の声でも人間の声でも電子的な声でもない。明らかに異質な奇声が家の外から聞こえてきた。
まさかと思い、窓の外を見ると、そこにはゴブリンがいて、女性を襲っていた。
「やめて、やめ、誰か助けて!!!」
女性は叫び、ゴブリンから逃れようとしているがゴブリンの力が強いのか中々立ち上がることもできていないようだ。そのゴブリンは手に持ったナイフを上に持ち上げて、力強く女性の頭に突き刺した。
「ぎゃぁぁぁ、、」
力なく、女性から叫び声が漏れ、幾度かゴブリンがナイフを刺すと、やがて肉の潰れた音だけが残った。
「ひっ、、、」
俺は急いでカーテンを閉めた。慌てていたせいか、ベッドから転げ落ちてしまった。
ゴトンと物音を立てて落ちてしまったせいか、外からのゴブリンの叫び声が強くなり、窓ガラスをカツカツと叩いているようだ。
「ま、マジか。これ、ローファンタジーってやつだよな?にろうで読んだことあるわ。現実世界にモンスター現れるやつじゃん」
俺は妙に落ち着いていた。さっきは初めて人が殺されているところを見て驚いたが、不思議と今はこの状況に抵抗がなくなっている。いつも読んでいたあの小説の、いつも遊んでいたあのゲームの、夢見ていた状況が今現実となっている!
俺はつい嬉しくなり、慌てて武器となるものを探し、外へ駆けるように出た。
「くぎゃ!ぎゃgy;ぎゃ;ぎゃ!」
俺が外へ出ると、既にゴブリンはこちらへ向かって歩いてきていた。手にはナイフ。目はこちらを睨んでいるように見える。明らかに敵対していることが伺えるため、若干後ずさりした。
「おりゃ!」
俺はマッサージ用に使っていたゴルフボールを力任せにゴブリンに投げつけた。
「ぐgyaA!!」
クリーンヒット!ゴブリンの小さな頭は少し陥没し、ゴブリンはよろけた。だが、死ぬほどのダメージは負っていないようで、体制を立て直し、こちらへ歩もうと足を一歩踏み込んだ。
「ぐgりyfds!! ぎゃぁfdfd」
ぐちゃりと肉の潰れる音がしてゴブリンは倒れた。ゴブリンの頭は先ほどとは違う場所にゴルフボールが当たった痕ができた。
『レベルが上がりました。ステータスを確認してください』
クリーンヒット!アゲイン!
二度目のゴルフボール投げも無事、頭に当たったようだ。中々の命中力だと思うし、運も良かったと思う。ふらふらとしたところから体制を立て直して足を踏み込む直線に丁度、頭と体が止まっている時に当てれたおかげで止まった的を撃つ感じで狙えたから本当にタイミングが良かった。
「ステータス」
- - - - - - - - - -
<ステータス>
名前:鈴木 相馬
レベル:2
経験値:0/20
HP:5/5
MP:0/0
力:2
速度:1
ポイント:1
職業:影稼業
スキル:身体強化
- - - - - - - - - -
「お、ちゃんとレベル上がってるな。ステータスは何も変化がない?」
どうやらステータスにはちゃんとレベルが2に上がっていることが表示されているようだ。しかし、HP、MP、力、速度の値には何も変化がない。こういうゲームなら何かしら変更がなされているはずだが、何も変わっていないところをみると、この1増えたポイントがステータスを上げる鍵になるんじゃないだろうか?
試しにポイントと書かれた部分を触ってみた。
『ステータスを向上します』
脳内にいつものAIの声が響き、自分の予想が間違っていなかったことを理解する。そして、ステータスの各パラメーターの横に十字の印が表示された。
「お、これでステータスを上げんのか。把握」
誰に話しかけているわけでもないが、興奮しているため仕方がない。パネルに喋りかけることくらい、この非現実的な状況に比べれば普通に違いない。
俺は慎重にどのステータスを上げようかと悩む、ということはなく、速攻で速度の値を上げた。
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<ステータス>
名前:鈴木 相馬
レベル:2
経験値:0/20
HP:5/5
MP:0/0
力:2
速度:2
ポイント:0
職業:影稼業
スキル:身体強化
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当然だ。力もHPもMPも上げる必要はない。速度が速くなれば、戦闘はかなり楽になるはずだ。それにこの体ではあまり早く動くことができないため、ゴブリンに囲まれた時には逃げる手段が必要だ。逃げることができれば、それだけ生存確率も高くなる。また、さっきみたいにゴルフボールを投げて、全力で逃げてからもう一回当てに行く、みたいなヒット&アウェイもできるかもしれない。
「よし、次いくか、ゴブリン狩りだ!」
相馬、23歳童貞、世間から見放されてから丁度6年。世界中にモンスターが現れたXDay、後にステージ1と呼ばれたこの日、世界中の人々がモンスターに恐怖した中、この男とそして日本中に散らばる異世界・ゲームオタクたちは最高の笑みを浮かべて真夜中の町を走り出した。