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黎明の彼方

作者: 似鳥ちの

 背中に感じる心地悪さに目が覚めた。そっと手を伸ばすと汗でびっしょり。怖い夢でも見ていたのだろうか。心なしか鼓動が速い気がする。けれど、思い出そうとしても思い出せない。一体どんな夢を見ていたのか。

「……水、飲も」

 床に落ちかけていた掛け布団を剥ぎ取り、立ち上がる。季節はまだ春序盤。夏でもないのに、まるで熱帯夜のように暑かった。ぎしり、とベッドが軋む。

 ぱちんとライトを付ける。蛍光灯が数秒遅れて光を宿す。

 冷蔵庫の扉を開くとひんやりとした冷気がわたしを包み込んだ。汗が引いてきて寒い。ペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、グラスに注ぐ。時計の秒針だけが響く部屋に、とくとくと水の音がする。ぐっと煽ると身体の熱が一気に冷めた。

「はぁ」

 少し億劫だったけれど、この気持ち悪いまま寝に入るのは嫌だった。洗面所からタオルを持ってくる。ほんのちょっと隙間のあるカーテンを開けた。比較的この部屋は高層階に位置しているため、街全体を眺めることができる。煌々とビルの光や車のライトが光っていた。眠らない街、と言っても過言ではないだろう。寝ぼけ眼のわたしには痛いくらい眩しい。

 時刻を確認すると午前三時を回ったところだった。今から二度寝をするのもありだけれど勿体ないような気もする。あと数時間もすれば朝日が昇るだろう。

「早いけど朝ごはんでも作ろうかな」

 再びキッチンへと向かう。冷蔵庫を開けてチルドに入っていた鶏肉を取り出した。ラップを破き、包丁で一口大に切る。茹でるのもありかなと思い、下の引き出しから鍋を取る。水を入れ、火にかけた。

 沸騰するまでの間に野菜を切ってしまおう。お肉に触れたあとの包丁を使うのは嫌だったから一度きちんと洗った。野菜室からレタスと胡瓜、それからトマトを取り出す。シャキシャキ、トントン。小気味いい音が部屋に響いた。ひどく静かで、優しい時間。お皿に盛りつけている間にお湯が沸いた。中火に変えて鶏肉を入れる。色が変わったあたりで取り出し、先程野菜を入れたお皿に乗せる。うん、いい感じ。

 基本、朝はパン派だ。今日も変わらずパンを食べる。数個残っていたロールパンと盛り付けたお皿を持ってテーブルへと向かう。遠くのほうに太陽が昇っているのが見えた。

 わたしはこの時間が好きだった。太陽と月が同じ空に存在する時間が。

「いただきます」

 これを食べたらなにをしようか。さっき諦めた二度寝をするのもいいなぁ。それとも、着替えてお散歩に出かけようか。

 シャキシャキと咀嚼音が耳に届く。鶏肉の茹で加減もばっちりだった。

 悪夢に魘され汗だくで目が覚めたことを一瞬忘れていた。まるで、あえてこの時間に起きたかのような錯覚を抱いた。それほどまでに、ゆるやかに流れる時間がいとおしく感じた。

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