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第22話 告白

 一体、どういう状況なんだ……?


 俺の手から、もちもちした手の感触が伝わってくる。


 停電によって電気が消え、暗所恐怖症の姫宮さんは腰を抜かしてしまった。

 そして、俺はなぜか彼女を安心させるために、彼女の手を握っていた。


「オ、オタクくん、いる?」

「いるよ」

「本当にいるの? 手だけ置いてどっか行ってない?」

「行ってないよ。どんなバケモノだよ」

「良かった……」


 さて、この状況はヤバい。

 なにせ、扉から入って奥の方に浴槽がある構造から、俺は浴場に足を踏み入れてしまっているのだ。

 つまり、光が一切ないだけで、俺は裸の姫宮さんのすぐ側にいるのだ。


「うぅ……どうしてよりによってお風呂に入ってる時に……」


 ちゃぷんちゃぷんと音が響き、その度に彼女が浴槽に浸かっている姿が想像される。

 俺の貧相な女性経験では、細部まではまったく想像できないが、裸の女の子の側にいるというシチュエーションだけどえ脳みそが沸騰しそうになる。


「あの……俺はいつまでこうしてれば……」

「ずっと……」

「え?」


 甘えるように姫宮さんが言った。


「ずっとこうしてて。電気が付くまで……」

「一体いつまで掛かることやら……」


 停電の原因にもよるが、下手すると朝になるまでかかるぞ。


「しかし、意外だな。姫宮さんにも苦手なものがあったんだ」

「わ、私のことなんだと思ってたの?」


 基本的に運動も勉学もそつなくこなす才女って感じだったのでなんだか新鮮だ。


「……昔、悠さんに物置に閉じ込められたことがあるんです」

「え……?」

「まだ幼稚園生だったころ、この家の物置を二人で探索してて、すると悠さんがいつの間にかいなくなってて、外から鍵を掛けたんです。物置が入り組んでたせいで、私は電気も付けられず鍵も開けられず……」

「本当にろくなコトしないな……」


 ほんの悪戯心だったのだろうが、子どもに恐怖を植え付けるには十分すぎる出来事だったわけだ。


「じゃあ、寝る時はどうしてるんだ?」

「小さなランプを付けて寝てます。鍵も基本掛けないです」


 ああ、だから風呂場にも鍵が掛かっていなかったのか。

 いくら何でも不用心ではないかと思ったが、そういう理由なら納得だ。


「とにかく、そういう訳なので、側にいてくださいね」

「まあ、それは良いけど、タメ口はもう利いてくれないんだな?」

「え……?」

「さっきまで、ずっとタメ口だったぞ。甘えるような感じで少しドキドキしたのに」

「へ、へぇ……ドキドキしたんですね?」

「ああ。本当だぞ」


 なんならさっきハグしてからずっとだ。

 今この瞬間だって、彼女のことを意識してしょうがない。


「ねぇ、羽生くん」


 聞き慣れない呼び名で彼女が呼びかけた。


「なんだ?」

「ありがとう。VTuberになりたいっていう思いつきにここまで付き合ってくれて」

「なんだそんなことか。俺は全てのオタクの味方だからな。創作者になりたいって言う人がいれば全力でサポートする。あの草加くんですら、バ美肉したいって言うなら手伝ってたぞ」

「悠さんが……バ美肉……? ぷっ……」


 姫宮さんが笑い出した。

 よくよく考えたら、とんでもないシチュエーションだ。

 あの自分勝手でオタクへの偏見に満ちた彼がバ美肉したいなんて言い始めたら確かに俺も笑う。


「でも、少し残念です。私だけが特別ってわけじゃないんですね……」

「オタクの味方だからな。だけど、俺にとって姫宮さんが特別なのは間違いないぞ」

「え……?」


 折角だ。さっきの続きをここで始めよう。


「さっきは言い忘れたが、俺はずっと姫宮さんが好きだった。最初、屋上で君が昼を食べるって言い始めた時は、面倒だなって思ったけど、あの屋上でのひとときは俺にとって居心地が良くて、かけがえのないものだったんだ」


 俺は姫宮さんの方へと身体を向ける。

 顔は見えないけど、それでもしっかりと彼女と向き合うべきだと思った。


「ず、ずるい……」

「え……?」


 しかし、返ってきたのは予想外の返答だった。


「わ、私が先に言おうと思ったのに、そう覚悟してたのに。そんな風に、私が一番欲しかった言葉を掛けてくるなんてずるいよ!!」

「え……?」

「不安だったの。あなたへの嫌がらせが始まった時、私はあの人を止められなかったから。だから、本当はそのことを怒ってたんじゃないかって」


 そんなことを気に病んでいたのか。


「前も言ったが何も気にしてない。なにせ、あいつは俺にとってはどうでもいい人間だからな。それに、あいつのおかげで姫宮さんと知り合えたし、VTuberにだってなれたし……って、あれ? ということは、草加くんはいつだって俺のオタク人生を豊かにしてくれる救世主ってことか……?」

「ぷっ……何言ってるの」


 姫宮さんが笑い始めた。

 確かに今のは能天気すぎる発想だったかもしれない。


「でも、そうだよね。あの人のおかげで私は、本当に好きだと思える人に出会えたんだから」


 その言葉に胸が高鳴る。

 そういえば、思わせぶりな態度は散々してきたけど、こうしてはっきりと好きだって言われるのは初めてだな。


「羽生くん、私と付き合ってくれませんか?」

「……喜んで」


 こうして、俺たちは改めて気持ちを確かめ合い、恋人同士となるのであった。


 ――ゴォン。


 するとその瞬間、電子機器の起動音と共に電気が付いた。


「「え……?」」


 俺と姫宮さんは揃って、間抜けな声を出した。

 そう。俺と姫宮さんは今、お互いに向かい合っていた。

 その状況で、電気が付くと言うことは。


「あ……あ……」

「お……お……」


 そう。彼女の美しい肢体が――


「きゃあああああああああああああああああ!!!!!!」

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