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第14話 女同士の話

「どうも。妹の羽生怜奈です」


 怜奈がぺこりと一礼する。

 彼女はアルフォンソのモデルの共同製作者だ。


 ソフトの知識がない母さんに代わり、怜奈はイラストのパーツ分けを行い、表情や動きの設定まで完璧に行ってくれた。

 最初からパーツ分けを意識しながら描いたイラストの加工とは比べものにならない労力だというのに、怜奈はまるで熟練の職人のように、モデルを仕上げてくれたのだ。

 二人とも、引きこもりになった俺のために、ここまで尽くしてくれて本当に感謝しかない。


「い、いい妹さん!? こんなかわいい子がオタクくんの?」


 なんだその反応。俺にかわいい妹がいちゃいけないのか。


「すみません。あまり似てないと思って失礼なことを言ってしまいました……」

「まあ、似ていないのは当然だ。血が繋がってるわけじゃないからな」

「そうなんですか……………………えっ?」


 姫宮さんがガタッと立ち上がった。

 なんだ。今日はやけにリアクションが大きいな。


「どうも。本当は従姉妹の怜奈です」


 改めて怜奈が一礼する。


「ぎ、ぎぎ義理の妹?」

「色々事情があるんだよ。それよりも母さん、怜奈、どうするつもりなんだ?」


 母さんもそうだが怜奈も、なぜか姫宮さんに会いたがっていた。

 仕事を依頼するだけなら、必ずしも直接会う必要はない。

 実際、SNSでの連絡を通じて個人の仕事を請け負うイラストレーターだって少なくはない。


 それなのに、二人して姫宮さんを呼び出して、一体どうしたいのだろうか。

 もちろん理由の一つは、さっき母さんが聞いたように、姫宮さんの熱意を確認したかったということなのだろうけど。


「単刀直入に聞きます。なぜ、兄さんに近付いたのですか?」

「えっ……?」


 怜奈がズバズバと切り込んだ。

 なんだか、とても険しい表情をしているような……


「あなたのことはよく知っています、姫宮雪さん。あの、草加悠さんの婚約者であることも」

「な、なんで、お前がそれを……?」

「兄さん、あの学園にいてそのことを知らない人なんてほとんどいないでしょ」

「あ、いや、まあ……そうだけど」


 なんだかややこしい事態になった気がする。


 前に聞いたとおり、婚約の話は親が勝手に決めたものなのだ。

 そして、俺が学園から逃げ出すことになった切っ掛けに、姫宮さんは関係ない。


 しかし、二人はそのことを知らないのだ。


「あのだな、怜奈。もしかしたら、何か勘違いしてるかもしれないが……」

「兄さんは黙ってて。私は姫宮さんに聞いてるの」

「はい……」


 なんとか弁解しようとしたが、有無を言わさぬ気迫で気圧されてしまった。


「姫宮……草加……そう。まさか、そんなことになってたなんて……」


 一方の母さんは母さんで、二人の姓を呟きながら何か意味深な表情を浮かべていた。

 え? 母さんも知ってるの?


「そうね。あなたが"あの"姫宮さんで、婚約者は草加さん……それなら、もっとちゃんと話を聞かないといけないわね」

「か、母さん……?」


 不穏な空気が漂ってきた。


 待ってくれ。


 怜奈はなんだか、草加くんのことを知っててやけに険しい表情だし、母さんは姫宮と草加の姓を聞いて、なにか思うところがあるっていう素振りだし、一体なにが起こってるんだ?


「はるくん、ちょっと姫宮さんとお話があるから、少し席を外してもらえるかしら?」

「え……?」


 何故か、母さんは俺に家を出るように言ってきた。


「そうだね。兄さん、しばらく時間を潰してて」


 怜奈もそれに賛同し、俺は何故か家から一度、追い出されることになったのだ。




*




 それからしばらくして、怜奈から話は終わったという連絡が入って、家へ戻ることになった。

 一体、どんな話をしたのだろうか。

 

 自分で言うのもなんだが、あの二人は俺に対して過保護というか、妙に世話焼きな面がある。

 特に、学園で草加くんの一派から嫌がらせを受けるようになってからは、それが顕著だ。


 そんな二人が、実は姫宮さんの婚約者が草加くんだと知った今、姫宮さんになにを尋ねるのか、それを確かめるのが恐ろしい。


「た、ただいま……」


 俺は、恐る恐る家の戸を開けて、三人が待つリビングへと向かった。すると……


「おかえり、はるくん。やっぱり雪ちゃん、とってもいい子だったわ」

「へ……?」


 そこでは、仲良くソファに座り込む三人の姿があった。

 母さんは真ん中に座る姫宮さんの頭を撫でていた。


「私も雪さんなら信用できると思う」


 怜奈は怜奈で、何故か姫宮さんに腕を絡ませて甘えるような仕草を見せた。


「良かったわね、はるくん。こんなにかわいくて、優しくて、理解のある彼女が出来て」

「そ、そんな……私達はまだ、そう言う関係じゃ……」


 まだってなんだよ、まだって。

 一体、どんな話をしたんだ?


 さっきまで、姫宮さんをどこか警戒していた二人はどこに行ったんだ?

 二人とも、いつの間にか、下の名前で呼んでるし……


「ということで、雪ちゃん。あなたの2Dモデル、ぜひ私達に作らせてね」

「ありがとうございます!! お母様!!」


 詳しいことはよく分からないが、いずれにせよ話はうまくまとまったみたいだ。




*




「なあ、怜奈達とどんな話をしたんだ?」

「あ、あなたには関係ありません!!」


 その後、姫宮さんになにがあったのか聞いてみたが、結局はぐらかされるのであった。

 いや、本当に何があったんだ。

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拙作の初書籍作品の続刊が12月15日に発売されました。
各書店で販売しておりますので、お手にとってくださると嬉しいです!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドルオタの気持ちが理解できないのですが、推しの人がいるのに主人公のことも満更じゃないのって、どういうことなんですかね? たまたま同一人物だけど、普通は違う人物になると思うんですよね。 …
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