ミスコンに無理矢理参加させられましたが、おかげで幸せです
「はーい!みんな注目!フルール様がミスコンに出るそうですわ!」
「え、ちょ、ちょっと…」
「うふふふふ!フルール様、頑張ってくださいませー!」
周りからは同情の目を向けられる。しかし誰も助けてはくれない。どうしてこうなったんだろう。
私はフルール・アルデンヌ。しがない男爵令嬢だ。男爵令嬢といっても、本当に田舎の貧乏男爵だから、日々の暮らしに余裕もなく…。貴族の義務である貴族学院に通うようになると、身分の高い貴族令嬢達から虐めの的にされるようになった。
今日も貴族学院で開かれるミスコンに強制参加させられたが、当然断る権限もなく。私なんかが出るなんて恥ずかしいな。美人でもなく、身長も低いし、ファッションセンスもないし、メイクしてくれる使用人もいないし。憂鬱だな。けど出ないと何をされるかわからないしな。
私は仕方なく、精一杯のおしゃれをして、メイクも自分で一生懸命にしてミスコンの会場に来た。しかしやはり浮いているらしい。みんなひそひそと私のことを話している。
「え、なにあれ…」
「あの子本当にあれでミスコンに出るつもり…?」
仕方がない。みんながそう思うのも当然だ。
「あら!フルール様本当に来たんですのね!」
「頑張ってくださいませ!応援してますわ!うふふふふふ!」
いつもの令嬢達が私をからかう。それを見て私のことをひそひそと話していた他の令嬢達や令息達も察したらしく、憐れみの目を向けられる。恥ずかしい。悔しい。でも、どうしようもない。
「そうですわ!私がもっとおしゃれにして差し上げますわね?」
そう言っていつもの令嬢が私の頭からシャンパンをかけてきた。びしょびしょに濡れる私は、惨めだ。
「まあまあ!フルール様ったら本当にお似合いですわ!」
「うふふ!すごくいいですわね!フルール様、最高にクールですわよー!」
ああ、胸が苦しい。なにも言い返せないのが悔しい。
「…あら、なんの騒ぎかしら?」
その時、とある公爵令息が話しかけてきた。彼はクリスティアン・コルベール。コルベール公爵家の跡取りだ。コルベール公爵家はどんな田舎の平民ですら知らない者はいないほど有力な貴族。その長男であるクリスティアン様は生まれはもちろん、見目も麗しく、優秀なことで有名だ。何故かいつもばっちりとメイクを決めていて話し方も女口調だけど、それでもモテる。男女問わずモテる。
「く、クリスティアン様!」
「私には貴女達がその子を虐めているように見えたけれど、気のせいよね?」
「は、はい!」
「そう。なら良かった。それならこの子をとびきり可愛くしてもいいわよね?ミスコン開催まで二時間はあるわね。この子を借りていくわよ」
「え?」
「は、はい?…はい、わかりました!」
そして私はクリスティアン様に連行された。向かった先は男子寮のクリスティアン様のお部屋。そこでクリスティアン様が言った。
「貴女、あの子達に虐められてるんでしょ。このミスコンでぎゃふんと言わせてやるわよ」
「え?え?」
「とりあえずこの部屋に完備されてるシャワーを浴びてシャンパンを落として来なさい。その間に私が作ったドレスで貴女のサイズに合うものを選んでおいてあげる」
「え、でも…」
「いいから!」
「は、はい!」
そう、クリスティアン様はデザイナーとしても活躍している。クリスティアン様の作ったドレスは全ての貴族令嬢の憧れの的だ。私は言われた通りにシャワーを浴びて、出てきたらクリスティアン様に風魔法で髪を乾かしてもらい、綺麗に梳いてもらった。
「うん、綺麗なストレートの金髪ね。羨ましいわ」
「そんな!クリスティアン様のウェーブのかかった銀髪の方が素敵です!」
「あらやだ。嬉しいこと言ってくれるじゃない。なら、そんな私の作ったドレスを着てちょうだいな。ほら、これとかサイズもぴったりだし貴女に似合うと思うの」
その手には可愛らしいフリルやリボンのたくさん付いた桃色のドレス。
「似合うと思いますか…?」
「ええ。絶対似合うわ。着てみてちょうだい」
あまりにも真剣なクリスティアン様に押されて着てみる。正直、貧乏男爵令嬢の私には手が届かない高級品のドレス。緊張する。
「やーん!やっぱり可愛い!貴女最高だわ!さ、メイクしましょうね?」
「え?」
「ね?」
そうして私はメイクを施された。
「見てみなさい。見違えたわよ」
そうして鏡を見せられる。そこには私の知らない私が居た。
「え…これが、私…?」
「ええ。さあ、ミスコンの会場に行くわよ」
「は、はい!」
そうして私はミスコンに出た。
「え、あの子シャンパンをかけられた子…?」
「嘘!美人になってる!」
「え、可愛い!」
評判は上々で、私は見事に優勝した。いじめっ子達の悔しそうな顔を見て私はすっきりした。
「クリスティアン様、おかげで優勝出来ました!ありがとうございました!」
「いいのよー。気にしないで?」
ウィンクしてくださるクリスティアン様。優しい方だな。
「何かお礼は出来ませんか?」
「それなら、一つお願いがあるの」
「なんですか?」
「私のデザインしたドレスの広告塔になってちょうだい」
「え?」
「毎日、私のドレスを着てちょうだい。もちろん私がちゃんとメイクしてあげるから」
「え!?」
「お願いよ!貴女程の人材他にいないの!めちゃくちゃ化粧映えするんだもの!ね?」
クリスティアン様に手を握られる。こうなれば仕方がない。
「わかりました。よろしくお願いします」
「よかったわー。ついでに、これから毎日口説くからよろしくね?」
「え?」
それからクリスティアン様に毎日猛烈にアピールされて陥落し、身分差を超えた愛として劇にまで発展するのはまた別のお話。