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第七話 初任務


 新太、玲奈、遥の3人は一旦青龍高校に集まり、そこから一緒に目的地に向かうことにしていた。

 今日から訪問する谷原中学校は、酒折駅から中央本線に乗って何駅か過ぎたのち辿り着いた甲斐大和駅の近くにあった。

 甲府市以上に緑に包まれている駅周辺にはこれと言って大きな施設は見当たらず、民家と農園や畑が点在している景色だった。

 駅から徒歩3分ほどで辿り着いた谷原中学校の正門には60代半ばの眼鏡をかけた白髪の教員が新太たちを待っていた。この中学校の校長であった。

「皆さん、お待ちしておりました。私は本校の校長の三枝と申します」

 三枝は自身の自己紹介を軽く済ませると早速校長室に新太たち3人を案内した。


「どうぞそちらにおかけください」

 三枝と対面する形で3人は校長室のソファに腰掛けた。

「早速ですが、今回お三方に依頼させていただく課題について説明いたします」

 そう言うと三枝は用意していた書類を取り出し、3人に手渡した。

「課題内容は本校の治安維持と彼女の監視です」

 手渡された書類に目を通してみると、そこには谷原中学校の昨年度の治安状況と1人の女子についての説明が記載されていた。

 治安状況に関しては学校内の器物の破損、授業放棄、また学校外での悪行について記載されていた。中でも農作物の窃盗疑惑に関してのクレームが地域から寄せられているという。

 そして1人の女子、城ヶ崎天音についての説明がされていた。

 城ヶ崎天音、2年1組所属、学業成績はトップでクラスのリーダー的存在、クラスの副委員長を務めている。

 新太が頭に浮かんだ疑問を三枝にぶつけた。

「治安の改善は理解できましたが、この女子と何か関係が?」

「実は彼女が全ての出来事に絡んでいるのではないかと睨んでいまして」

「……根拠は?」

「その……目撃情報がありまして、彼女がクラスメイトに命令を出しているという。またこれは調べてわかって情報なんですけど、彼女のお兄さんが甲州会組の若頭ということが判明いたしまして」

「甲州会組って何ですか?」

 割り込むように遥が質問を投げかける。

「ふっふっふ、遥、甲州会組をご存じない?」

 玲奈はニヤリと笑い、遥の応答を待たずに話し続ける。

「なら童がお教えしよう! 甲州会と言うのは山梨県の裏組織、まあ暴力団派閥の1つといったところじゃ! 他にも暴力団派閥は武田会組、富士会組があるぞよ!」

 なぜ仙人みたいな口調になったかはよく分からない。

 三枝はこの光景を口を半開きにしながら眺める。

「その通りですよ。玲奈さん。少し偏見が過ぎるかもしれませんが、そういう訳もありまして、注視しています」

「そういうことですか」

 新太は少し落胆した。

 兄が暴力団員、だから何だというのか。彼女は彼女なのではないかと思う。

 課題だから仕方なくこなす、新太のスタンスは変わらない。

 目的達成のためには手段を選ばない。無論私情など挟むつもりは毛頭ない。

「では具体的には何をすれば良いですか?」

「そうですね。お三方には教育実習の先生として2年1組に入ってもらいます。そこで2つの課題に取り組んでもらいます。単位認定条件としましては、1ヵ月の秩序維持と城ヶ崎天音の監視、更正という感じですね」

「城ヶ崎天音の監視、更正……?」

「まあ、1ヵ月彼女と交流していただいて、特に問題なければ、大丈夫です」

生徒の取締りをしていれば、案外楽な課題なのかもしれない、といった考えが3人の頭をよぎった。

「なお1件でも事件が発生した場合、即時落単とします。ご注意ください」

「わかりました」


***


 教育実習(仮)の1日目がスタートした。

 校長以外の教員は皆、この3人が本当に1ヵ月間の教育実習に来ているものだと思っている。

 3人は揃って2年1組に配属された。

「2年1組担任の塚原だ。3人ともよろしく」

「「「よろしくお願いします!」」」

 珍しくというか恐らく初めて3人の息が揃った。

 2年1組の教室に入ると、およそ20人の生徒が席に座って開始を待っていた。

 1つ1つの席が等間隔で離れており、ぱっと見、真面目な生徒ばかりに思えた。

 ただその中で一際目立つ金髪ロングが1番奥の席の真ん中を陣取っていた。あれが城ヶ崎天音だと見当がつく。というか実際そうである。

 様子を見て、委員長と思われる男子が号令をかけた。

「起立! きょうつけ、礼!」

「「「おはようございます!」」」

「ああ、おはよう。今日は出席確認の前に教育実習の先生を紹介する。皆から見て左から順に武田遥さん、市川玲奈さん、平新太さんだ」

 塚原の紹介と共に1人ずつ頭を下げていく。

 それから出席確認を終え、諸連絡などを済ませたのち、10分ほどで朝の会は終わった。

 教育実習と言っても、実際に授業をするのではなく、先生の授業を後ろで見学して記録するといった形だ。授業中の生徒を後ろから見ることもできる。

 真面目に授業を聞いている者もいれば、授業中にもかかわらず、弁当を食べる者、スマホをいじる者、紙に何か書いてやり取りをしている者、いろんな生徒がいる。

 この学校の先生はそうした不真面目な生徒には構うことなく授業を推し進めている。

 授業の時間は何となく過ぎていき、昼休みになった。

「玲奈先生、玲奈先生! 何で傘なんて持っているんですか?」

「何で眼帯なんてつけているんですか?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた諸君! 私は神とドラゴンの混血にしてこの世界に転生してきた勇者、レナ・クイーンエリザベス!」

「……はっはっは! 面白い! さすが先生!」

 何がさすがなのかわからないが、玲奈は共通の趣味を持つ同胞を見つけたようだ。

「ねえ玲奈先生、このアニメなんだけど……」

「ああ、これね! 主人公が異世界に転生してヒモになる、ヒロインの女の子がめっちゃカッコイイんだよね!」

 厨二病設定はどこへやら、久々の同胞に玲奈の興奮は冷めやらなかった。

「なにかこの学校に来る目的を見失っているような……」

 遠くから見ていた新太は頭をかじりながら、次いで遥の方に目をやった。

「遥先生は趣味とかあるんですか?」

「えっと、ウチの趣味はパチンコとか競馬かな……」

「パチンコ?」

「競馬?」

 声をかけてきた女子2人が少し困惑した様子で首を傾げた。

 遥はマズイと思い、切り替えた。

「あっ…… じゃなくてテニスだね」

「テニスですか! 実は自分たち女子テニス部なんです!」

「そうなんだ! じゃあさ、今度部活見に行ってもいい?」

「良いですよ! 明日の放課後とかどうですか? 是非試合しましょうよ!」

 何とか話は合わせられたものの遥の表情は若干引きつっていた。

 女子たちと話を終えた後、遥は新太の下に歩み寄って来た。

 会話の一部始終を聞いていた新太は何かを察していた。

「あのさ新太…… ちょっと明日の放課後付き合ってもらえない?」

「えっ、どうした?」

「テニス……できる?」

「やっぱり、遥、お前テニスやったことないだろ」

「……うん」

「いや断れよ。出来ないんじゃ」

「一緒に行ってくれたら、今度麻婆豆腐奢るからさ! 頼む!」

 遥はお祈りするように手を合わせ、執拗に新太に頼み込む。

「しょうがないなぁ。わかったよ。絶対に麻婆豆腐奢れよ」

「うん! 奢る奢る!」

 新太は麻婆豆腐には弱かった。

 昼休みが終わり、午後の授業が始まった。

 結局今日1日を通して、新太が喋った生徒は出席番号1番の相沢という少年だけであった。

 あっという間に1日目は終わり、下校の時間になった。

 新太は学校玄関にある下駄箱をあさっていた。

「えーっと、ここら辺のはず……」

 そこにタイミング悪く遥がやって来た。

「ちょっと新太。何やってるの? 他人の下駄箱をあさるなんて気持ち悪いよ!」

「あ、ああ。ちょっと探し物をしていてな」

 遂に開けた下駄箱の中から手紙が出てきた。

「それって、ラブレターだったりして!」

 遥は不意に高揚していた。

「ラブレターだといいけどな」

 新太は躊躇なく手紙の中身に目を通そうとする。

「ちょ、ちょっと何勝手に見ちゃって! そんなことしちゃだめだよ!」

「大丈夫だ。大方予想はつく」

 新太は手紙の内容を読んで確認した後、下駄箱に記載されていた名前も確認した。

「それじゃ、また明日」

 手紙をポケットに入れて新太は遥に別れを告げた。


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