宇宙の始まりからってふざけてませんか?
物理で勉強したことを総動員している彼女です。
穴から放り出されると、先ほどの神殿よりももっと小さな家のようなサイズの光で満ちた空間にいた。
誰もいない。天使もいない。
じっとしてもいられず,とりあえずドアというドアをかたっぱしから開ける。ここの神様はどこだろう.
するとある部屋に大きなベッドが一つ。
中から「あー…助かります…ええ、はい。そろそろ着くんじゃないですかね…ありがとうございました…」
と声がする。そして寝た。二度寝である。お布団を引き剥がし、中身を出す。
きゃっ!という声がして、出てきたのは金髪のイケメン。優しげな顔をしているが、眠そうにしている。
「ちょっと!起きてください!さっきの神様の連絡だったんでしょう!私のことに関して!」
「んぁー?早かったですね…ん?」
ふと目があった.じっとみつめている.
「ええ、ぶっ飛ばされましたから。それよりもどうなってるのか説明してください!」
「えええ、疲れているのに…」
「こっちだって、死んだと思ったらリサイクルされて。こっちの管理をしろと言われて!混乱しているんです。一体何をしたらいいんです?」
「ああ、そのまんまね。権能は付与しておくから。じゃあ、おやす
「寝るなって言いました。私が納得するまで、説明してもらいます。あっちでは話を聞いても会えませんでしたから!」
「えー…そのまんまだよ。世界の管理。出来たばっかりだからね、ここ。」
「出来たばかりというのが、私の予想が間違っていて欲しいのですが…もしやビックバンの後などとは言いませんよね?星々ができる直前とか言いませんよね?」
「わかってるじゃーん。正確には前の段階だね.」
くらりとした。
「要するに世界が誕生した瞬間。もちろん星などもないの。だけど、最初に気合入れ過ぎちゃって…まぁ、眠くてねーー。もうしばらく休もうかなって思っていたのさ。」
「そうしばらくとは、どのくらいの期間ですか?」
「2000億年くらい?」
「ふざけないでください、私の過ごした地球でさえも137億年前にビックバンがあったと聞きます。それ以上の時間を混沌とさせたままにするおつもりですか?」
「おお、よく知ってるね。君んところの神にも怒られちゃってさーー。作ったからには責任持てって。」
「全くもってその通りです。ああ、私は要するにこの神様の補助をしろと…」
「そういうこと!」
びしっと両手で指を刺される.同時にガックリとうなだれた。パンパンと肩を叩いてきて「よろしくね!」とのたまう、こいつが世界の神様だと…。
「責任持って手伝ってくださいますよね?」
「うん?流石に僕は眠らないとまずいからね。寝るよ?」
「夢も見ないのに寝るんですか。」
「ああ、無理したらいけないしね!君みたいな物分かりのいい子が僕の権能を使ってくれるなら大助かりだよ!どんどん、発展させてってね!はい!これが僕に並ぶくらいの権能ね!」
そう言われると思いっきりディープキスをされた。その瞬間大量の知識が、力が、権能が流れ込んでくる。
「ふう!こんなもんかな?足りなかったら適宜話してね。」
ファーストキスを世界の設計図と材料の受け渡しに使われた…。
「こんん・・・の、馬鹿ーーーーーーーーー!!!!」
「あはは、対等にちかくなったおかげで僕にそんなことを言えるなんて!刺激的!でも、眠いからね。じゃぁ。」
そう言われると部屋の外に追い出され、扉は閉められる。その扉には「必要時以外は入っちゃダメ」とメモ用紙がどこからともなく飛んできて、封印された。
「ちょっと!勝手なことしないでいただけます!!??聞いてますか!!??」
ドアを叩くもなんとも反応がない。
「やられた…」
先ほど受け取った権能を使って世界を見ると、本当に分子が存在していない状態でただのエネルギーしかない状態だとわかる。ビックバンの膨張すらしてないじゃないのよ…。
熱いし、まぶしっ…。
あいつ「光あれ」だけ言って寝たわけだ。
馬鹿なんじゃないのかしら。人から神に成り上がったばかりの私に、経営戦略室にいただけの人間に世界を託すなんて…。誰か、助けてと言ってもあいつしかいないのが本当に苛つく。
これを1人でこなすのは不可能だ。頼れるのはこの世界で本当に私だけ。早く愚痴を言える相手が欲しい。
世界がなければ永遠に一人ぼっちだ。
考えろ、自慢の知識と経験を活かすんだ…与えられた権能を用いて必死に考えた。
まず、1人で膨大な世界の分子とか原子、中性子、ダークマターの管理なんてできるもんか。
1日で死ぬ。だから、まずは与えられた権能の一部をコピーして神様のような役割を作ることにした。
まず、法則を作ろう。このエネルギーをどう活かすか。全ては物理法則がなければ、原子すら生まれない。
神殿という屋敷からそろりと出ると自身の足元に虹色の橋ができる。あ、綺麗と思うのだが、そもそもあの馬鹿がやればこんなことをしなくて済むのだ。
今から行うことで自分が吹っ飛ばされないかが不安である。
不安に押し潰されるが、先ほど受け取った知識がそれをやれとうるさい。
「あーーーー、どうにでもなって!宇宙よ、在れ。そして広がれ!」
その掛け声と同時にビッグバンが始まった。光で暑かったその空間は急激に膨張をし始めた。
法則に則って、世界が広がっていく。綺麗だ・・・とふと思うが、強烈な力が抜けていくのがわかる。
これを食い止めるために、あえて権能をコピーしておいた。今の現象とコピーをつなげる。そうして、法則はそのあり方とともに、自由に世界を作っていく。
「うん、いい感じになってきたじゃない。この感じだと、ダークマターと原子ができるわね。」
そのスピードは速い。まずい。先手を打っていかないと!!
急いで原子の権能とダークマターの権能を用意しておく。これも各自で仕事をしてもらうためだ。
そうして世界の熱が少しずつ冷めていき、電子が原子核と結合していく。ほとんどが水素とヘリウムね。
原子番号が小さいのからできるのって本当なのね、と思いつつも早めに原子の権能のコピーと紐付けをする。
今度は先ほどのようにエネルギーを奪われなかった。
今度は、星ができるのよね。といそいそと準備を始めた。
原子ができて暗くなった宇宙の至る所でガスの塊のようなものが発生し、そして始まりの恒星ができた。
ここまでくると後はコピー達が勝手にやってくれる。少し休もうか…と思うが、ここにはお茶もなければ、休むためのベッドもない。自分の生活のためにも地球が生まれてくれないと困る。とはいえ、あちらこちらで爆発を起こしている宇宙の中でボーッと見守っているわけにはいかない。
権能コピーずを連れて神殿に戻った。
「お疲れ様!みんな頑張ってね!」
そう話すが、その反応はない。考えてみれば権能のコピーはどれも私のクローンみたいなもので、今は自律的に動いているだけだ。
ふと、自分の卒論のテーマを思い出した。
揺らぎがなければ創作はできない、これはAIにできないこと。
おしゃべり相手も欲しかったことだし。
彼女達に揺らぎを、名前と思考を与えた。
「えっと、法則は…マクスウェルでいいな。」
「はい、お母様。」
「え?お母様?」
そう反応した、彼女に驚いた。そして姿は少しずつ変わっていく。
「お母様は私に権能と役割、そして名前というあり方を与えてくださいました。その恩に報いるため、マクスウェルは頑張ります。」
「あ…」
彼女に心を与えていたのか。それとも名前というあり方に揺らぎを与え過ぎたのか。私にはわからなかった。
だが、はじめてこの世界で生まれた心に感極まった。
「うん、これからよろしくね!ああ、そうだわ。原子の権能はアトム。」
「はい、母上。」
その言葉にこれまた驚く。
私のクローンだったはずの存在が男になっていった。しまった、名付けたときに某漫画をイメージし過ぎた。
「え、うん。よろしくね。後は核融合を起こしている星々ねー。ステラにしましょうか。星々なわけだし。」
「はい、お母さん。」
美女がそこにはいた。
「星々の光をたやすことなく、多くの原子をアトムと共に作ってまいります。」
思ったよりも出来のいい子供達ができてしまった。ニコニコと笑みを向けてくる子ども達。
「さて、みんなよろしくね!今後、星団や星雲ができたら兄弟を増やしていかなきゃ!」
「楽しみです、お母様。」
神殿が少しだけ賑やかになった。存在が増えていけばきっと賑やかになってくるだろう。
そう思うと、元の世界の主神が話していたやりがいもわかる。
「そういえば、母上のお名前を伺ってもいいですか?」
そうアトムが問うてくる。生まれたばかりの人格に疑問があるのは当然だ。
佐藤瞳を言う名前が昔あった。だが、今やってしまったことに対してこの名前でいいのかと思ってしまう。
「皆んなはどんな名前がいいと思う?」
そう逆に問いかけてみる、ある意味負荷試験だ。だが彼らにはまだ語彙も定義もないため答えられない。
だが、疑問に思って行動する意味を覚えて欲しかった。
「ふふ、意地悪してごめんね。では全ての源ということでオリジンとでも名乗りましょうか。」
佐藤瞳は死んだが、オリジンとなって生まれ変わった。あの馬鹿の代わりにこの世界を管理するために。