何かが来たようです!
剣の名前はあまり詳しくないオリジンは刀剣クラスタでは無い
世界の中に異物が入る。
それは主神やオリジンにとって体の中に石が入ってくるような、強烈な違和感だった。
主神の玉座の前に神々を呼び、オリジンは皆に尋ねる。
「何か変わったことはない?違和感があるものがいたら手をあげて頂戴。」
するとテラが手をあげる
「お母様、ヒト族の国の一つに何かがいます。それだけはわかります。」
「よりにもよって紛争地帯とは…」
主神が頭を抱える。アバターを下ろして確認しに行くにも、紛争地帯ではすぐに殺されてしまう可能性があった。
同じくアトムも手を挙げる。アトムはこの世界で生きていくには、この世界の何かしらの物質に置換していると考えたのだろう。
「母上、この世界の物質が動いた気配はありません。」
「というと?魂だけ紛れ込んだ?冥界への誘いがあって、魂は停滞できないはずなのに。」
「冥界には来てませんね。」
プルートーが確認している。
「魂だけではなく意識だけ迷い込んだ?そんなことあるのかしら…?」
オリジンなりに推測したのは、受肉もせず、冥界への誘いにも反応しない魂ではないということ。
「もしかすると、夢を見ているのかもしれない。僕の目で見てるんだけど、魂という大きさでもない。ただの意識だ。目的もなく動いているみたいだ。僕らの世界に意識だけ迷い込んだ。」
主神は全ての権能を使って、その異物を視認している。監視をしている。多くの魂のある地上を見るのにはかなりの力を使う。主神にしか出来ない技のひとつだ。
「意識だけ世界を飛び越えるなんてありえるのですか?」
「たまにあると他の創造神に聞いたことがある。本人は夢を見てるつもりが、一時的に意識だけが旅をする。」
「意識だけが浮遊する…なんてありえるのかしら。何を媒体に?」
「人だねぇ。」
テラが驚いて立ち上がる。
「そんな…子供達に影響が出たら…!」
「本人は夢を見ているつもりだから、起きれば解放されるが…夢のメカニズム的にまずまともな行動は取らない。」
「…主神様、とりついてる奴もとい夢遊病状態のやつは今は…」
「とある国の将軍らしき人だね。どこの国というのは…ちょっと分からないな。情報が足りない。統一文字を使ってないみたいだ。」
神々が再び頭を抱えた。
「そんなの大混乱するに決まってるじゃないですか…!」
将軍が夢遊病だと下手に命令されたら…人族のバランスが崩れる。それはすなわち人命が失われるということ。
「パックス、戦争のボルテージを下げるのはできそう?」
「いえ、まだ力の浸透が間に合ってません。2時間くらいは止められるかもしれません。」
「ポエナ、罪の痛みを強くして戦士たちを止めることは出来るかしら?」
「そもそもあの痛みを耐えてでも祖国を守ろうとしてるみたいで、痛み強くしてもあまり効果ないかも…」
オリジンは以前の仕事場を思い出す。人は1人かけたところで別の人間が仕事を始めていく。要するにクビにしてしまえばいい。下にいた人間が有能だった場合だが。
「その将軍を別の人に変えるしかない。その選別を私達で代行するしかないわ。」
「…アバターを送り込むのですね。」
「ええ、下手に動かれるよりはね。無能を排除するのはどこの国でもやってるでしょう。将軍には可哀想だけど。加えて、異物確保もできる。害のある者だったら排除しなきゃね。」
「では、私が参りましょうか?」
スペラが手を挙げる。
「スペラって攻撃魔法は使える?格闘技とか。」
「前者は自信がありますが、後者となると…」
「僕は女性陣は危ないと思います。」
そう話すはレクス。
「あの地域はポエナの罰が下っても、無視できるのか、痛みを和らげる魔術でもあるのか…。法の施行がなされてません。そのような地域だと女性陣は危険です。神の力も使えぬとなると襲われません。」
「僕がいるじゃ…「適任が居ないわねー。」
主神がやられては困る。絶対に嫌。
「ふむ、私が男の見た目のアバターで忍び込むかな?」
「…オリジンが行くなら僕も行く。こう見えて戦える!」
「あなたに悪影響が出るのが嫌なの!」
お互いに危険だから譲らない。ギャンギャンと二人と夫婦喧嘩を見ていたパックスが
「僕が行けば…」
「「貴方は産まれたばかりだからダメ!」」
と他の兄弟に言われる始末。
喧々諤々の会議になりマクスウェルがため息をつく。いつもはオリジン様が司会役を務めるのだが、そのオリジンと主神の意見が分かれてしまった。
「では!お父様とお母様とパックスで行かれるのはいかがですか?あくまでアバターですし、本体に悪影響が出ないとは理論上言われていますから、パワープレーはパックスに任せて、頭脳プレーはお母様、意識体を捕まえるのはお父様。これでいかがでしょうか?」
「オリジン…どうしても行くの…?」
「貴方だけを行かせるのは、何となく嫌な予感がします。もしかしたら、オリジンとしての本能かもしれません。主神を脅かすものは許サナイ。ナントシテモハイジョシマス。」
「オリジン…?」
「とにかく!貴方が行くなら私も行きます。人の嫌なところもよく知っていますから。」
「確かにオリジン様は交渉に長けておられる。主神様、スペラもマクスウェル様の意見に賛成です。主神様は優しすぎる。」
「そうですな…あの契約を無視して命を奪い合う人ですからなぁ。紛争地域に行かれるのであればサポートしあえる方が良いかと。」
ドクトリナはそう話す。
「テラ、地上で何かあったら魔法は使ってもいいかしら?悟られないように妖精の血を引くと言うから。」
「それならば大丈夫です。むしろお母様が無事であれば構いません。お父様、お母様に何かあった時は全力で撃ち抜いてください。アバターが壊れたらログアウトになり、本体に悪影響が出ません。変な呪いを受けないように。」
「オリジンを壊すとかしたくないから全力で守る。なんとしてもね。」
「…僕がいますから、本当に大丈夫だと思うのですが…」
パックスは生まれて間もないため戦力に数えられてないのが悲しい。
「そう言えば、パックスの本体の力で戦争を一時的に止めるにはどうしたらいいのかしら?アバターに入ったままだと無理よね。」
「ああ、それは殴って気絶でもさせたらいいですよ。」
アバターで痛い目にあわされたアトムが話す。
「地上で力を使うと周囲のマナや元素を大量に使いますから気付かれます。気絶するとアバターからログアウト出来ますので。もし、一介の魔法使いとは異なる何かと勘づかれてしまうと、戦力として使われかねませんからやめておいた方がいいです。」
「パックス…その時はごめんね。」
「いえ、むしろ使うべき力が足りない自分が情けないのです。本来の力があれば紛争も治まっていたと思うのですが。」
そう、彼は戦争を止める神。生まれたばかりで力が安定していないので、もし権能を使うのであれば短時間でないといけない。下手に使いすぎると競争心を人々から奪うため難しいから、しょうがない。
「そもそも、ああまで神との契約を無視して人同士で殺せるかが僕は不思議です。罪を見続けて…僕は…」
「私も不思議だったのよ。人族に限って、あの痛みに耐えられるのか。許せなーい!」
ペッカトゥムとポエナの2人の疑問も当然なのだ。地上に住む生き物は、他の命を害してはならないはずだったから。
「それも調べてくるわ。」
「…オリジンは止められないか…はぁ。」
主神が残念そうに花冠を取っていじり始める。するとスルスルとブレスレットの形になっていく。
「花冠のままだとバレる可能性が高いからね。ブレスレットにして、ローブを着てたら他のものには魔術師に見えると思う。その花冠に自動反撃機能を付けてみたよ。鞭にも、縄にも、なんでもござれ。毒も付与できるよ。」
「ありがとう!貴方も何か必要ね。刀を作りましょうか。」
オリジンは玉鋼を合成し、圧力をかけ日本刀を作る。付与するのは絶対に刃こぼれせずに、かつ柔軟性を持たせる事で折れにくくした。そして魔除けの加護を全力でかける。悪意あるものなら、何でも切れる。そういう方向性を持たせた。
「母上…さすがに強すぎやしませんか。もはや神器ですよ」
「そうでもしないと。主神様に何かあって困るのは私よ?」
「はぁああああ、かっこいい刀だ。なんて名前?」
力を持つ刀について意外と気に入ってくれたようだ。
「名前…えー…神剣とか。」
残念ながら生前は興味のなかった分野である。
「え、刀だよ?」
「…なんでそこにこだわるんです?」
「ロマン、あとオリジンからの贈り物だからね!」
「はぁ…私が大昔住んでた世界の神話から取りましょう。神が神話から名前を採択するなんて…天羽々斬とかいかがでしょうか?」
「カッコイイ!」
「母上最高です!」
「お母様、流石です!」
「流石ですぞ!なんだかドラゴンキラーな剣になりそうですが、それも良い!」
元ニードホッグ、ドクトリナ。天羽々斬を気に入るとは、ドラゴン仲間の八岐大蛇も泣くだろうな。
「…全くロマンが分かりません。男どもにはロマンとやらが大切なんでしょうか。」
スペラは率直に意見を言ってくれる。
「同じくよ。一般教養で知ってる神話からとったんだけどね。こんなに受けるとは思わなかったわ。」
「剣は剣でいいと思ってました。というか、地上で呼び合う名前を決めた方がいいと思いますよ?」
フローラリアが話を戻してくれた。
「そうね、主神様の名前…。向こうで一般的な名前がいいわね。」
「向こうは国によって色々あるようですよ。そもそもが一つの国でしたが、混血のものが増えるにつれ分裂していき、紛争に至ったようですから。」
「それだと、もと宗主国で話を聞く方が良さそうね。」
「勢力図を作って行った方がよいでしょう。宗主国ならある程度把握しておりましょう。」
「その異物が変な国にいないことを祈りましょう。」
そうして、人族にありそうな顔つきのアバターを三体用意し、主神とオリジン、パックスは降りていった。
人族の国だったところ、今や小国となったもののペッカトゥム曰く最も治安の安定している所。
倭国。まさか主神が降りるタイミングがこのような面倒な状態になるなんて。
オリジンの心の奥で燻る感情が静かにスイッチを入れた。