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難産になっちゃったよ!

神の難産って有り得るのかよって言う方もいるかもしれません。古事記をご参照ください。

人族の争いを治めるためにも神を作ろう。

そう主神イニティウムが決めた。これは他の神々の眷属では抑えられないものであったし、主神の意図を込める必要があったため夫婦の営みを行うことになった。

と言うよりもイニティは基本的に夜になると抱いてくる。そこに自身の神作りの意思もあれば、妊娠すると言った感じである。


とても優しく、けれど甘えてくる彼の愛撫にいつも絶頂に達する。

「甘えていいっていいね。」

「っはぁ!もう…話してることとやってる事が…!っ」

「オリィは可愛いし、温かくて、柔らかい。触るともっと可愛くなるんだから。」

どうしてこうもいつもリードされてしまうのか、いつかリードできることがあるのだろうかと思う。

決して乱暴な言葉遣いはしない。昔いた世界で言うスローセックスなんだろうと思う。優しさにあふれていて、結局今晩も最高の夜になる。

「オリィは僕のものー。本当に可愛く声出してくれるし、抱き心地はオリィしか知らないけど最高の気持ちにさせてくれる。しかも僕の子供を産んでくれると分かっているから尚更しあわせ。」

「私もあなたにしか抱かれたことはありませんが、いつもいい気持ちにさせてくれます。あなたとはは大丈夫?キチンといい気分になってますか?」

「もちろん!孕んでもらう時とか最高だよ。あとー、胸のもみ心地もいいしー。」

「であれば、いいんです。お互いに気持ちが良くなってないと愛の結晶とはいえないですもの。」

「今日もちゃんと命ができたみたいだね。ああ、早く生まれてくるといいな。僕達の子供。」

「すぐに確認しちゃうんですから。もう。」

お腹を優しく触ってくる彼の顔を撫でる。

「愛してます。」

「ああ、僕も愛してる。」

ピロートークが終わるとウトウトと、眠気が襲ってくる。妊娠すると尚更強くなる眠気。

「おやすみ、オリィ。」

「おやすみなさい、イニティ。」


翌朝、孫のタスクの診断を受けて正確に妊娠が判明。随分と妊娠にも慣れてしまい、周囲の最初の慌てふためく様子はない。子供達にも伴侶ができて、他の妊婦が増えてきたこともあり、タスクの仕事は増えてきた。

「安産と決まってるから、不安はないわね。」

「とはいえ、安静にしてください。神の子は成長率が高い分、母親への負担が大きいのです。なのでオリジン様だけが妊娠していた時代は危険だったのですよ。」

「そうだったのね。確かに三児を産んだ時は死ぬかと思ったわ。」

「それが普通です。よく滋養のあるものを食べていただき、よく眠ってください。」

医療の神に言われると納得。彼のおかげて紛争地域以外の医療は発達してきている。簡単な怪我なら消毒して縫ってしまうし、病気に効く薬草については妖精郷のもの達が詳しく研究していて、簡単に死ぬことは無くなった。ただ出産に関してはまだ発展途上で、死ぬ子供も妊婦もまだ多い。

安心して産める自分で良かった。イニティとの子供が死んでしまうなんて考えたくない。お腹をさすると中の胎児も安心するのか、穏やかな気配がする。

そうか、この子は争いを鎮めるための優しい子供だわ。

時には厳しく、時には優しく。神というものは多面性のある生き物だけれど、この子は基本的に優しく、勇敢。

「早く生まれておいで。」

子守唄を歌っていると自身も眠くなってきた。仕事があるのだけど、と思いつつも妊娠中はコーヒーは厳禁。大人しく眠りますか…と新しく作られたソファーの上でうたた寝をしていた。


「…ィ…早く起きてよ…。オリィ…」

頬に当たる温かい水がはねる感触で起きた。イニティといつも寝ている寝台で目を覚ました。イニティが驚いた顔で、目を腫らしている。

「あら、私うたた寝してしまって…というか何故泣いていらっしゃるのです?」

「それはオリィが12ヶ月も起きなかったからだよ…良かった…目を覚まして。」

12ヶ月、12ヶ月とな!?

「妊娠されたあの日から目覚めなくなり、お腹の子供は大きくなるのにオリジン様は痩せていくばかりで皆で心配していたのです。」

タスクが隣で説明する。

「えええ、そんなにうたた寝が長くなったの…。しかもまだ妊娠している?」

「ええ、神はもっと短くして成長し産まれてきますし、人を基準に考えても長すぎますが…お腹の子はとても元気なようでして。」

「うたた寝なんて可愛いものじゃなかったよ!意識不明、何をしても起きなかったんだ。胃に果実水や滋養のあるものを送り込んで何とか持ち堪えてたんだよ。もう、僕は君を失うのかと!」

お腹を触れるともう臨月のそれだ。そして、主神の涙を拭う。

「もう大丈夫だと思います。というより、腰が痛くてお腹も張ってるし。」

「えええ、今から出産!?耐えられるの…?」

「そこはタスクの腕に任せるわ。お腹を切ってもいいし。」

力めない場合は、緊急帝王切開に切替えるとのこと。

「…もしかしたら、とんでもない力を持っているのでしょうか。」

「そうっぽい。ごめんね。僕の子供を孕んだばかりに危ない目に合わせて…。」

「あら、貴方の子供だからこそ産みたいし、寝ていましたがここまで頑張ってきたんだと思います。だから、安心して、主神様。」


今回も主人様立ち会いだが、アニマとタスク、フローラリア3人の万全の体制で出産に臨む。

ただ、さすがに12ヶ月も寝たきりだったせいか力めない。

「力めない…」

「やはりそうですか、フローラリア母様、この配合の鎮痛剤の薬草を」

「分かったわ!オリジン様、頑張ってください。」

「うん…」

情けない声になるが痛みだけが押し寄せてきて、体力の限界なのである。

口元に鎮痛剤の入った薬が入ってくる。医療の神特性の霊薬は痛みを即座に取り除いた。

「では緊急帝王切開に入ります。オリジン様、切られる感覚だけが残りますが御容赦を。それ以上となるとまた昏睡する可能性がありますゆえ。」

「うん、この子を…取り出して上げて。出たがってる。」

お腹の子は全くもって元気である。産道が開かないため困っている状態なのだろう。

「では切りますね。」

手際の良いメス捌きと止血で滞りなく、帝王切開は進んでいく。

「オリィ…オリィ…死なないで…」

「神だから死にませんよ…」

手を握っていてくれる夫、もう片方の手も差しのべたいが手術中故にそれは出来ない。

「出てきました。へその緒を切ります。」

「あんぎやぁああああああ!」

その産声の大きさに皆が驚いた。周囲の手術器具が音でガチャガチャと動き出す始末である。

「え?なんでこんなに声出るの…」

「僕も聞きたい…」

「っは!早くお腹を閉じないと、アニマ様お手伝いお願い致します。」

「あ、うん。そうね、ビックリしちゃって…」

お腹をチクチク縫われていくあいだに、主神が大きな赤ん坊を産湯につける。

「…重いんだけど、この子。」

「…色々規格外ですね。」

「Si vis pacem, para bellum。この子の名前。」

「長すぎやしませんか。しかも汝平和が欲しくば、戦争の備えをせよ。って、名前ではなくて警句です。戦争を止めるための子供なのですよ?」

「いや、この子から伝わってくるんだよ。僕の名前だと。」

「にしても長すぎると思います、父上。愛称を決めては?真名はそれにしておいて。」

「そうだねぇ。平和なパックスにする。それよか、オリィ大丈夫?」

「ええ、お腹を塞いだ瞬間から体の力が少しづつ戻ってきています。」

「そっか、良かった。パックス、お母さんをあんまり食べちゃダメ。」

「うー!」

もう口答えしてる…。

「うああああ!あばれちゃだめえええ!」

出産立ち会い歴もそれなりの夫だが、こんなに暴れん坊な子供は初めてで抱き抱えているとじたばたと動くわが子に慌てふためいている。

「さて、オリジン様はこちらをお飲みください。回復薬です。」

フローラリアにどん!と置かれたジョッキには臭い飲み物が。

オリジンだこらこそわかってしまう、その効能。

「エリクサーってこんなに臭かったの…」

「ええ、タスクの加護つき。お腹の傷もたちどころに消えましょう。」

「こんなに飲まなきゃ行けない?」

今度はタスクから文句が着く。

「全ての母であるオリジン様がここまで弱られているのです。すぐにでも、治していただきませんと。」

それもそうよねぇ…

「母上?はやく?」

「アニマまで…しょうがない。一気に飲んでやるわあああああ…!」

鼻をつまんで飲みきる。途端に力がみなぎってくる。おお、凄い!凄いぞこれ!戦略分析室にいた時にあったら良かったけど…

「まずーーーーーーーーーーーい」

「良薬口に苦しの極みですから。」

フローラリアは笑っていう。その様子を息子と格闘しながら見ていた夫は、興味津々だ。

「少し残ってるから僕も飲んでみようかな。味見。」

「おやめになった方が…」

オリジンの注意虚しく、指をエリクサーにつけて主神がなめた。

「うぇげっほ!」

思いっきりむせた彼に思わず笑ってしまった。周囲の緊張もとれて、クスクスと笑い出す。

「言ったのにねー、パックス?」

「むー!」


そしてパックスと呼ばれたその子は逞しく成長していく。

暴れん坊で手がつけられないかと思いきや、意外や意外。大人しくもりもりとご飯を食べて大きくなっていく。1日1年のレベルである。

「そんなに焦って成長しなくていいのよ?」

「いえ、おかあしゃま。天の国を守り、民たちにも平和の尊さを教えねばなりません。僕は早く強くなります。」

「そ、そう。」

生後三日目と思えぬ異常なスピードであった。2週間も経てば背を抜かれてしまうし、誰よりも屈強だが花と平和を愛する。そんな青年になった。

「…水晶玉使うタイミング、無かったね…」

しょんぼりとする夫はオリジンに付きっきりになって看病していたこともあってパックスの成長記録が撮れなかったと嘆く。慰めにはならないが、真実を述べる。

「どう撮っていてもご飯食べてたわ。あとは寝てた。」

「…そうなんだよねぇ…もう、屈強そうな青年がいるだけに…」

この子はなんでこんなに強くなったのか。よく分からない。いくら地上の人族の争いを治めたいからと、産んだとはいえ。しかも、天の国を守るという彼の使命が気になってしょうがない。

天の国は内紛でも起こらない限り、高次元で誰も手出しができない平和な場所だ。

オリジンは頭をひねる。

「そう言えばオリィ、身体は…・」

「もうなんともございませんよ。傷も全く無くなりました。」

「そっか、良かったぁ〜。」

「貴方の泣いた顔なんて初めて見まし…た。」

この言葉も違和感を感じる。

「そうだよねぇ。ごめんね。取り乱しちゃって。」

「ねぇ、あなた。私、本当に貴方と過ごしている日々は初めてなのかしら?」

「え…」

驚いた彼の顔をみた。タイミング悪く、その瞬間に全身に違和感を感じる。

「イニティ!」

「ああ、オリィ。誰かが世界を覗いている。この世界のものでは無いやつだ。」


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