スペラとオリジンの神問答
スペラって苦労人ですもの。
結局5年の間にスペラとアウクトゥスの間には4人の子宝に恵まれた。
料理のコクトゥス、工芸のアルキティフィキウム、狩猟のウェーナティオー、鍛治のフォージである。
主神とオリジンは孫が増えてしてやったりという顔である。
末っ子のフォージがおもちゃで遊ぶのを主神が一緒に遊んでやっているのを、オリジンとスペラがお茶をしつつ見ていた。世間話をしつつも、真面目にスペラは聞いている。
「オリジン様と主神様はどこまで見通されていらっしゃるのです?」
「なんの事かしら?」
「我らが神となり子供を生した。神々は増えて、世界が潤う。我らはその運命にあったというのかと思うことがあるのです。」
「私は運命は見れないわ。ただ予定は立てられる。計画し、運営する。主神様はどうか分からないけどね。使える人材は余すことなく使わなければね。魂の熟成度とアウクトゥスが話したことがあるんじゃないかしら?」
「ええ、私に口説いてきた時に。」
「大きな仕事をやり遂げ、人々から尊敬されるようになると魂は力を持つようになる。因果が集まるようになる。その魂が肉体から離れた時、権能を持つようになる。これがそのまま魂の循環に入ると生まれ変わるときに地上に混乱をもたらしちゃうのよ。フローラリアもニードホッグも同じ。神に近い生物を地上に作る前に、神にしてしまう。そしてお手伝いしてもらう、とおうわけ。うちの子供たちは惚れっぽいから誰かしらととくっついた可能性が高くて、そして神作りをしてくれるだろう。ここまでは私に出来る予想と計画よ。」
「…なるほど。ドクトリナとマクスウェル様の所も結局話が盛り上がり、熱愛に発展した。これもご計画の1つでしたか。」
「そうね。彼らが興味を持つ分野は共通してるからね。くっつくと思っていたわ。」
そう、マクスウェルはドクトリナと話をするうちにお互いに議論を重ね、あっという間に夫婦になっていた。まあ、宇宙の深淵に興味があったという古い友人はマクスウェル様の話はとても面白いのだろう。マクスウェル様も楽しそうに理解のある新しい神に夢中になっていった。
そんな彼らは経済のオイコノミア、数学のマスという双子が生まれていた。今も妊娠中だと言うマクスウェルは夫と共に子供たちに数学を教えているという。
「全ては予想通りですか。」
「そうあって欲しいと願って欲しいとは願ったわ。ただ、そうあれと命令もしてないし、力も使ってない。まぁ、カカオは使ったけども。」
「ドクトリナ達にも?」
「あっちが酔ってしまったら偉いことになるからね。あなた達にはほんの少し盛ったわ。緊張がほぐれるようにね。」
「全く神はどれだけ増えるのでしょう。」
「それは私にも予測がつかないわ。これから民達の人口は爆発的に増えていく。それに合わせて、多くの技術や喜劇や悲劇も増えるでしょう。私たちも変化しなければならない。私と夫の子孫だけでは世界はできない。世界は偉大な人がいる。彼らを招きたい、手伝って欲しいというのは貪欲かしら?」
「いえ、きっと自然な流れなのでしょう。ただ、世を去る前に心づもり出来たら…とは思いますね。」
「アウローラのように人ができていたら、きっとそれでもいいのかもしれない。ただ、神になると話された人が横柄になっても嫌なの。わがままかもしれないけどね。」
「地上にすぎたる力はいりませぬ。それは…きっとこれからも民達も感じることがありましょう。」
「ええ、学問や魔術が進めばきっと悪用される。神のように力を用いる輩がでるでしょう。その時、罪と感じる人がでる。罪を犯す者が出る。その時のために私達は準備をする。神に近づいたものは適切に扱うわ。地上を焼かれてしまうのは、困るのよ。大切に育ててきたこの星だから。」
「なるほど、パワーコントロールのための神なのですね。であれば納得もしようがあります。オリジン様、愚かな私めに御教授ありがとうございます。」
「やーねー。私はそんなに偉くないわ。それよりも他に神候補はいるかしら?」
「ふむ、それであれば天照の国にいる伏羲と女媧か適任で御座いましょう。彼らはドラゴンと人族のハーフですが、獣人をまとめるております。カリスマ性もさることながら、その実績は紙の製作、量産も行い、法学に通じております。彼らは獣人をまとめるだけの力を持っております。」
「なるほど、獣人との関わりは少なかったからね。良かったわ。彼らからの情報も貴重だわ。やはりスペラのコネクションは貴重だわ。」
やっぱり頼りになるわね、と言いかけた。この言葉をかけたことがある。
「左様ですか。それならば私は力になれましょう。彼らに話を通しておきましょうか。」
彼女の返答に我に帰る。
「あ、貴女の、若返りに驚いてしまうわ。貴方達と同じように回収させてもらうわ。」
デジャヴに戸惑うが、スペラとの会話を続ける。彼らに不信感を持たせては行けないと、心の底で私が叫んでいる。
「それもそうですね。では、彼らの特徴や経歴をまとめた資料を作りましょう。プルートー様も使いますよね。」
「ええ、助かるわ。」
なぜだろう。この会話が懐かしい。イニテイは何か隠してるわね、と思う。だが本能がそれを悪意と感じていない。自身の直感に従うのはどうなのかと思うが、この場で不穏にする理由もなかった。
「この天上の世界も豊かになると楽しいわ。」
「最初は主神様と、2人で作られたのでは?」
「いーや、最初は全責任押し付けられて1人でやり遂げたわ。だから、彼、私に頭が上がらないのよ。」
「左様でございましたか。いつの世も女は強い。我が孫娘も主神様を捉えたと聞いてます。」
「ええ、とても助かるお嫁さんよ。彼が隠れたらあらゆる場所に植物を出して見つけてくれる。」
「ははは!何とも滑稽ですね。まあ、孫娘と同じ女神になるとは思いませんでしたが…これも深い縁があったのでしょう。」
「縁ね。その表現は私も好きだわ。運命とかではなく、心の縁って言う表現の方が私は好むわ。振り回されないのがいいわ。」
「オリジン様の先程の話を聞けば分かります。貴女は道を切り開く方。これからも未知の世界を切り開いてくだされ。」
「頑張るわ。」
彼女、スペラが自分の書斎をさってから先程の違和感をメモに残す。デジャヴがつづいている。
人の身であればデジャヴの理由がつくが、夢も見ないはずの神がデジャヴを感じるとはどういう事なのか。その疑問を解決するためにはどうしたらいいのか。
深いため息をついた。きっと彼に聞くのが一番なのだろう。だが、それを恐れる感情がある。
であれば、自分の事だからそのうち手掛かりを見つけていく。その自信がある。不安と自信を抱えてオリジンは夫の元へ帰る。
何があっても、この世界は安泰であると。心に誓いながら。