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2人の死と神

彼らが神になります。ようこそ!アットホームな職場へ!

ある雨の降りしきる中、ニードホッグの葬式が行われた。

喪主であるバハムートは父の亡骸を前にして、遺書を読んでいた。

『学問が絶えることのないように、学ぶものたちを守るのが我らの役目である。

また、神々への感謝をいつまでも忘れないように。

子供たち、弟子達に恵まれて私の教えは永遠になると信じている。

故に、原初のドラゴンの体を子供達と弟子達の研究対象として残すことを、許して欲しい。』

その遺書を聞いた教え子達と子供や末裔達は涙した。原初のドラゴンにして神の恩恵を直に受けたその体を使えと言われても、恩師の体に傷をつけるわけにはいかなかった。

魔術を用いて、その亡骸を氷の中に封印することで学問の祖を永遠に残すことにした。しかし、その訃報が流れたその日もドラゴンの弟子達は研鑽を怠らなかった。研究を、学ぶことをやめては彼に失礼だと知っていたから。

バハムートは父の作った国を、大きな学び舎をまもることを決意した。そして、交流のある国へ使い魔を飛ばした。


妖精郷で訃報を聞いたアウローラももうすでに立てなくなり、寝たきりになっていた。

「先に逝ったか…。大切なもの達はみんな先に逝ってしまうのだなぁ。私だけ生き残ってしまって辛いよ…。」

フィーはお気に入りのお付きのものとして、看病していた。

「そうおっしゃらず…ドラゴニアに行ったときのように元気になってください。妖精郷の様子も随分と変わりました。あの時初めて聞いたものはここでも当たり前になっています。アウローラ様のおっしゃった氷河期の前のお話だって、紙に書かれて聖書に残ることになりました。きっとタスク様の恩恵で、きっと…。」

「ふふ、フィーと行った旅は楽しかった。フローラリアを失ってからの孤独を補ってくれたし、その後の文化交流にも大いに力を貸してくれて…。本当に老いぼれの夢に付き合ってくれて、ありがとう…。タスク様とて永遠の命を約束するわけではない。そんなものは永遠ではないよ。ここから作られる未来こそが、永遠なのだ。フィーよ。」

そう言い切った直後、血反吐をはいた。呼吸が怪しくなる。

ボロボロと涙を流すフィーは言葉が出ない。アウローラの急変に気付いた王族が慌てて、部屋に入ってくる。

「母上…逝かれてしまうのですね…。」

「いやだ!アウローラ様!あんなに楽しそうにしてたのに!寂しいです!」

「フィー、命あるものは後に続くものに使命を託していく。母上の場合はお前だ。」

「オーベロン様…ですが、私はもっとアウローラ様と過ごしかった…。」

「それはきっと母上もそうだろう。だが、朝日が必ず大地を照らすように、必ず安らかな月が訪れる。休ませてやってくれ。」

「…っ!はい…。」

そうしてアウローラは友人の訃報を聞いたその日に後を追うようにして逝去した。

王族としては長男のオーベロンが継ぐことになったが、他国との親睦に関わる仕事はフィーが受け継ぐことになった。


フィーの手元にはアウローラの遺品が残された。フローラリアの花と呼ばれる宝石だ。フローラリアの普段つけている花をアトム神が模したものだという。フローラリアが天に昇ってから、お詫びにとタスク神の手形とともに贈られたものだという。手形は遺族に、宝石はフィーにと言われていた。

「アウローラ様、私はこの世界を繋ぐ大偉業を続けていきます。世界に知らないものはないと呼ばれる妖精に私はなります。」

フローラリアの花を自身の髪につけて彼女は自身の書斎に入り、次の交流事業を考えることにした。次世代の交流について、話し合わなければならない。


そうして大御所2人が冥界についた。

「おお、きたか。アウローラよ。」

「む、なんでニードホッグがいるのだ。先に逝ったと聞いたぞ?」

「それがな、プルートー様に用事があるから待っておけと言われてな。お前もそうらしい。」

目の前で他の死者達が不思議そうに見ては通り過ぎていく。

「冥界の神が?ううう、なんか嫌な予感がするのだが。」

「そうか?」

「私は神に関わって、まともな目にあったことがない。」

「…ああ。」

バタバタと向こう岸からプルートーがやってきた。

「お待たせしましたね。主神様とオリジン様から言伝がありまして…」

「主神様とオリジン様が?」

「ええ、お二人には神に昇華していただきます。」

アウローラはめまいがした。死んでもなお、働けというのか。

「おお、それはありがたい。死んでは研究もできぬと思っていたの…で…。」

ニードホッグはアウローラの怒りのオーラを感じて、言い淀んだ。

「フローラリアまで奪っておいて、今度は私まで命の循環から外れろと…?」

「あわわ、怒らないでください!悪い話ではないと、思います。」

「永久に働くことが決められて、悪いに決まっておるじゃろうが!」

プルートーに詰め寄る彼女を止めようにも、オーラが強すぎて近寄れないニードホッグ。

「おおお、あやつ怒らせるとこんなに怖かったのか。」

「いや、本当だわ。びっくり。迎えにきたんだけど、すごい剣幕ね。」

「いやはや、全く…ってオリジン様!」

「ヤッホー、元気にしてた?と言っても、亡くなったばかりよね。ご愁傷様?いや、おかしいわね。」

「オリジン様、自身でツッコミをされては詩になりませんぞ。そこは反語で止めておいた方が。」

「いや、ニードホッグは相変わらずね。詩にしたつもりはなかったのだけど。さて、アウローラ、ごめんなさいね!」

「オリジン様!一体どういうことでございましょうか?」

「アウローラ、あなたは徳を積みすぎた。それ故、魂の重みが大きくなりすぎて循環させるには危ないのよ。生まれ変わったら、権能持ちの超絶危ない生物よ?」

「な…。」

「なので、神になってもらって文明の神の手伝いをして欲しいのよ。」

「勝手がすぎやしませんか?」

「ええ、そうね。勝手がすぎるお願いだと思うけど、未来の安定のために大切なことなの。私は全ての母、オリジン。この宇宙のためになんでもやる女よ。」

「…そうでしたな。はぁ、最初に主神様に力が欲しいかと言われて思い切り頷いたのが運の尽きでした。」

「そうね!後で私の話もしてあげるわ。とりあえず、あなた達を神に昇華しますから、魂をちょーーーっと綺麗にしてもらうわ。若返りね。」

「ほうほう、若返るのですね。興味深い。」

「お主は幸せじゃなぁ。ニードホッグ。」

オリジンの暖かな光を受け、彼らは若い頃の姿に戻る。同時に受肉したことも気付いた。

「さて、天の主神様のところに行くわよ。新たな名前をもらって、あり方をもらって頂戴な。」

そうして、オリジンによって2人は次元を飛ばされる。

暖かな国、光り輝くその地。緑に溢れ、清浄なその場所に驚く。

そして、そこは主神の目の前だった。

「やぁ、お久しぶり。2人とも。」

主神の姿を見て跪く2人。

「お久しゅうございます。尊き我が神。」

「主神様、此度は誠にありがとうございます。」

硬い挨拶は年相応かなと、主神はオリジンに声をかけるが“そんなこと言ったら私たちもっと長生きですよ?“と返してきた。それもそうかと2人の方へ向き直す。

「硬くならなくていいよ。これからは僕たちと同様に神になってもらうのだから。まずニードホッグは学問の神としてドクトリナと名乗るがいい。そして、アウローラはスペラと名乗り信頼と契約を司る神だ。」

「はい。」

「承知いたしました。」

そのあり方が変わり、姿は変わっていく。神々に近い人の形になる。

ドクトリナは黒髪、緑の目をした男に。スペラは緑髪で、青の目の女に。

スペラとなったアウローラは力が漲るのがわかる、そして地上の民達の心の声が聞こえてくるようになった。

「これが神の力ですか…。」

「ああ、神々になったからと言って、地上に無闇に干渉しないようにね。」

「それはアトム様にお話ししてくだされ。」

「あははー…彼に会っても喧嘩しないでね…。」


主神の間からでた瞬間、緑色の神をした娘が飛び出してきた。ああ、会いたくても、もう二度と会えないと思った、孫娘。

「フローラリア!」

「おばあさま!お久しゅうございます!」

涙の再会であった。

「おばあさま、お久しぶりでございます。お名前をいただいたタスクです。」

「そなたが…大きくなったのう。お主の薬草はよく効いたよ。長生きできて、老いた後に新たな発見をすることができたよ。」

「お力になれてよかった…アトム様!おばあさまです!あ、今はスペラ様ですね。」

「あの時はすいませんでした。」

「反省されているのなら、良いのです。こうして家族がまた出会えたのですから。」

「そう…ですか…。」

アトムの強張った顔を見ると相当反省していると見えた。

「ええ、私も信頼の神です、これからのアトム様のご動向において信頼しておりますよ。」

「ああ、任せてくれ。」

そのスペラの姿を見て、硬くなっているものがいた。これから一緒に仕事をしていく予定のアウクトゥスである。

ーあんな美人だったのか…ー

自身が物心ついた頃にはすでに老婆になっていた彼女は若返り、美しい女神になっていた。

「スペら!」

「はい?」

「わ、私はアウクトゥスと申しまして、文明を司ります。貴女と共に仕事を…。」

「ああ、私の直属の上級神であられるのですね。至らぬところもありましょうが、人の心には通じておりますので是非にご活用ください。」

スペラの方が実は年上であるのでちぐはぐになっている関係であるが、神竜は見逃さなかった。新たな香りがする。これはアウクトゥス様から発せられている。

これは楽しみがいが…ある!

「神竜?いい?黙ってなさい。」

主人であるオリジンに注意される。

「はい〜、ああでも向こうも…」

そうやって神竜はかつての親友であったドクトリナを見る。彼はマクスウェルから挨拶を受けているのだが、尊敬の眼差しで見ている。そこには淡い恋のような気持ちが入っている。

「おお、友人の恋っていいですねぇ。」

「いいこと、口出し絶対に禁止。邪魔するな、いいわね。」

「はい、というか私の祝福があった方がいいのでは?」

「いえ、下手に拗れても困るもの。挨拶だけにしなさい。いいわね!」

「はーい!」

そういうと小さくなりオリジンの肩に乗る。

フェンリルが最近主神の頭の上に乗るくらいに小さくなり、常に可愛がってもらっているのを見て神竜も真似ている。こうすれば、気配を消してオリジン様の周囲で起こる面白いことを俯瞰できる。

「全く、覗き癖がある愛の神だなんて…。」

「オリジン様、覗いているんじゃないですよ。見守っているんです。」

ーはぁ、ドクトリナも可愛そうに。親友に恋路を覗かれるとは。ー

オリジンはため息をつく。

「まぁ、これでオリジンは楽になれるわけだしね。さて、ドクトリナとスペラには他の神候補を聞かなきゃならない。」

「そうでしたね、彼らの挨拶が終わった後に玉座の間で聞いてみましょうか。」

「そうだね、まぁ1日で終わるかわかんないけどね。ドクトリナは博識だから…。」

「長くなりそうですねぇ…」

オリジンはかつての大学の教授を思い出していた。学問を極めたものは、賢いようでうまく話をまとめきれない。細かく話をしようとして、冗長になりがちである。

「それに備えて、今日は休もうか。オリジンも疲れたでしょう?」

「ええ、冥界から2人を連れてきてくたくたです。細かい作業って、大変です。魂を壊さないまま浄化して、受肉させるって大変でしたよ。顕微鏡で作業をしているようで…」

「君の神作りは大きな権能を使う神ばかりだったからなぁ。」

「それをいうと私はよく昇華できましたね。」

「それは…おいおいね。」

言い淀んだ、彼の反応に疑問を感じたが、深入りはやめておいた。目の前で新たな神々が生まれたのだから。



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