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文明開化の音がする!

ドラゴンの国、ドラゴニア。妖精の国、妖精郷。そして獣人の国天照があります。

アウローラは昔馴染みの元へ新作の嗜好品を持って旅に出ることにした。というのも、かのドラゴンの長の孫娘がフローラリアの母親だったからだ。フローラリアの訃報を伝えに行くと共に、彼に便利そうなものを渡してやろうと思ったのだ。

「アウローラ様、いくら薬草が効いているからと言って大陸を越えるなど無茶です。」

息子はそう言って止めてきた。

「何をいう。この老いぼれにできることはもう少ない。ならば自由に余生を過ごさせておくれ。これからの妖精王はお主じゃ。」

「…フローラリアのことでしょうか。」

「あの子の親族にあたるのだ、ドラゴンは。あの子がこの世を去ったことは伝えねばならないし、まるで私の容体を気遣うかのように薬草が発見され、あのドラゴンが好みそうな品が我が一族が発見したのだ。あの子の気遣いが感じられるよ。」

「母上がそこまで仰るのなら、伴になるものをつけさせましょう。風の精霊と仲の良いものがおります。風の力も得ることができるでしょう。ああ、あと貴金属はアトム様が大量に残していきましたゆえ、お持ちになってください。宿になる場所で…」

「ああ、もう。喧しい。私とて常識は弁えておる。」

「なら、道中困ったことがあれば供に行く者にお尋ねください。そして、必ず帰ってきてください。死目に会えないのは、寂しいのです。」

「…わかっておる。骨に染みるほどにな…。」


そうして旅立ちの日がきた。

「フィーと申します。ドラゴニアへの旅路、お供させていただきますね!」

「頼もしいねぇ。そしてすまないねぇ。この婆の旅に付き合わせてしまって…。」

「いえ、とても楽しみなのです!風の精霊の話ではドラゴニアでは学問なるものが流行っているとか。ぜひ私も目にしたかったのですよ。」

「ほう、風の精霊は噂好きじゃからな。楽しみがあるのはいいことじゃ。」

「ええ、見聞を広めてこいとも王に言われておりますし。」

「ホッホ、若いことは素晴らしい。では、行くかの。」

世界で一番美しい羽と呼ばれたアウローラの羽にマナが満ちる。最近発見された薬草のおかげでマナの巡りが良くなった。そのおかげで遠出ができる。この機を逸してなるものか。

大きく羽ばたくと、フィーはその力強い羽の美しさに見惚れてしまった。

負けじと、フィーも羽にマナをみたし羽ばたいていく。

「アウローラ様、風の精霊の力を借りますね。スピードが上がりますよ!」

「ほう、では頼むよ。」

そうして一気に雲の上まで飛び出した。風の精霊も楽しそうである。

アウローラは空を見る。こんなにも高く飛んだのに、あの子のいる世界には届かないのかとふと思ったが、彼女とひ孫のタスクの贈り物でここまで飛べたのだ。

「絆が切れたわけではないのだ。在り方が変わっただけじゃ…。」

自然と独りごちた。フィーの耳には風の音で届かない。アウローラの独り言は空に溶けていった。


何ヶ所かの休憩を挟んだのち、2週間かかってドラゴニアに到着した。

さすがに疲労が溜まっており、休むことにした。

「えっと、宿屋っと。」

王族に仕えるフィーは文字を学ばされているため、看板の文字が読めるのだがアウローラは驚いていた。看板があり、文字が書かれているのだ。

「なんと、ここの民は皆文字が読めるのか。そして、木の板にタールで文字を書いているのか。」

「そう見たいですね。こうしてみると便利です。」

「うむむ、負けてはおられぬ。フィーよ。多くの知恵を持ち帰るのだ。」

「あはは、アウローラ様も手伝ってくださいね!」

宿屋に入ると珍しい妖精の登場に驚かれる。

「おや、妖精さんか。この国は火の精霊の力が強いから、なかなか寄り付かないのだけど。」

「ああ、古い知り合いに会いにきたのだ。だが、長旅で疲れてしまっての。」

「じゃあ、うちの備えつきの温泉に入るといい。ああ、その前に対価はあるかい?」

「うむ、これでどうじゃ。」

フィーは皮袋からダイヤモンドを出した。

「ぶっ!こんな高価なもの…!お客さん、まず換金したほうがいいよ。これじゃあ、おたくらは狙われちまう。」

「そうなのか、換金とはなんだ。」

「ああ、そうか。ここでは金と銀の札で、適正なサービスが受けれるようにされてるのさ。出て右のところに質屋がある。信頼のおけるやつだから、大丈夫だ。そこでそのダイヤを出すといい。大量の金札が出されるぞ。」

「金なら持っているのじゃが、面倒じゃの。」

「それがね、ドラゴニアの王はあらゆるものに価値をつけて、旅人や学び舎の子供達が平等に物を変えるようにルールを決めちまったのさ。」

「なるほど!ぼったくりがなくなるわけですね。」

「そうさ、ダイヤモンドで取引してたらえらいことになるからな。」

「ふむ。これもあやつに聞いておこう。」

「では、質屋を先に行ってくれるかい?」

紹介された質屋でダイヤ一粒を出すと店主がこけた。

「なんて高品質なダイヤなんだ!どこから出たものなんだ?」

神が勝手に置いていきましたとはいえないので、取引で手に入ったとはぐらかす。

「はぁー、大量の金札が必要だねぇ。待ってておくれ、ああ、銀札と銅札も用意するから。」

しばらくして出てきたのは巨大な皮袋だった。

「…え。こんなに?」

「ああ、お客さん。このダイヤの価値はそれだけあるよ。むしろ王族に売ったらうちは大儲けだよ!むしろ感謝だ。毎度あり!」

店を出るものの、鞄いっぱいになってしまった金銀に困り果てる2人。

「使い切れるでしょうか?」

「使い切るしかあるまい。何、帰り道は若いドラゴンでも貸してもらうからな、土産でも買って帰る。」

「おお、さすがアウローラ様。」


そうしてやっと宿で休むことができた。

温泉とは面白いもので、地の精霊と火の精霊と水の精霊が集まって作ったお湯の泉であった。

恐る恐る足をつけてみると足の疲れが吹き飛ぶようだった。結局フィーと長湯をして、のぼせてしまった。

「ハハハ、お客さん。つかりすぎちまったねぇ。でも疲れは取れただろう。」

「ほほほ、若さも戻ってくるようだった。郷にもぜひ作ることにする。」

「ああ、そうしておくれ。」

そうして、宿屋の最高の部屋に通される。

「ほう、品の良い部屋だ。」

「ですね。お布団もすごい白い羊の毛でできていますね。よく漂白されています。」

「これはすごいな。あやつの民はいい仕事をする。」

植物で全てを賄っている自分たちの郷とは違う文明のレベル。差をつけられたな、とアウローラは思うもののこれもフィーが吸収してくれるだろうし、今後も特使としてここに妖精族を送ってもいいと思う。フローラリアが適任だったのだろうが…しょうがない。

眠り心地の良い寝具で休めば、翌朝には旅の疲れは無くなっていた。


ドラゴニアの城は大きな館だった。

土のレンガで作っているのか。ここでも技量の差を感じてしまう。

「衛兵さんに話してきますね。」

フィーが宝石を持って、ドラゴンの長に会いたいと伝えに行く。

しばらくして「ぜひ会いたいと王が申されております。」と、城の中に入ることができた。

中は質素であり、花で満たされている我が城の方が華やかであるので少しばかり安心した。

王の間というところのドアは非常に大きく、人族や混血用の大きさのドアも備え付けられていた。ドラゴン用のドアと分けたのか。

人間用のドアをくぐると、奥にドラゴンの長がいた。

「おお、久しぶりじゃの。アウローラ。」

「ああ、感謝祭以来だの。ニードホッグよ。」

年老いたドラゴンは喜んで、近づいてくるが、鱗が落ちてくる。

「お主も歳を取ったな。」

「お主もな。しかし、お前の羽は美しいままだな。」

「うむ、今日の目的のひとつじゃ。少し話が長くなる。腰をかけても良いかの?」

「ああ、席を用意させよう。そうだな、私も人間の形になろうか。」

そう話すとニードホッグは老人に変化していく。

「ほう、人の姿になっても老いた姿にするか。」

「相応の姿でないとな、おかしくなるものだよ。」

執務室のような場所に通されると、座りやすい椅子を用意された。

「至れり尽くせりじゃ。この国はよく進歩しておる。」

「学問や産業に力を尽くすようにしているからな。学問が進めば、民の技量が上がるし、技量が上がれば多くの新製品が出てくる。生活の知恵も増えてくる。」

「なるほど、自然の恵みに頼り切りではいかんな。」

「そう思うことから学びは始まるのだよ、アウローラ。」

「本当にそう思うよ。この年になって、学び直したいと思うなんてのう…。」

「かかか、いい傾向じゃ。」

「そうだ、目的を忘れかけていた。我が孫娘、フローラリアなのだが。」

「ああ、私の孫の娘だったな。娘が流行病で死んだのは知っていたが…フローラリアは元気にしておるか?」

「それが…あの子は神の子を生んだ際に死んでしまったのじゃ…。」

「なんと!神の子とな!そのようなことがあるのか?」

「それがアトム様のお戯れでの…御子は医療の神となって、天に戻っていったよ。寂しいばかりだ。」

「我が血統のものが天の神になるとは…しかし、フローラリアのことは残念だったな。お前は可愛がっていると聞いていた。親代わりになっていると。」

「そうなのじゃ。宝石を好まぬ代わりに花々に愛された子でな。城の中は常に花で飾られておった。寂しくなっての、こうして旅に出たのじゃ。お主の孫娘の忘形見を…守りきれずすまない。」

アウローラはニードホッグに頭を下げる。

「しょうがない、これもまた運命だったのだろう…神になったという末裔が良き世界にしてくれるだろう。」

「そうじゃな。その恩恵と思われるのだが、最近うちの郷の付近で大量の薬草が発見されるようになっての。薬師の技量も上がった。私のマナのめぐりがいいのも、薬草のおかげじゃ。」

「そうだったのか。それで羽によくマナが通っているのだな。」

「それをそなたにも譲ろうかと思ったのと、土産になコーヒー豆を持ってきた。」

「コーヒー?」

「うむ、なんでもオリジン様のお気にいりの豆のようだ。他にもお茶もだ。あれは発酵次第で味を変える不思議なものでな。今日はとりあえず、発酵していない乾燥したものを持ってきた。」

「ほう、オリジン様が希望されているということは何かしら、効能があるのだな。」

「左様、学問を重んじるのならお主も気にいるだろう。なんと、これら苦味で目が覚める上に、薬効も覚醒作用がある。」

ニードホッグはガタリと立ち上がった。

「な…なんと素晴らしい。この年になるとどうも眠気が強くての、詩を考えている際に寝てしまったり、若いものの論文を読んでて寝てしまうことがあったのだ。ああ、それは素晴らしい!是非、我らの国と取引をしようではないか。」

「ほほほ、まずはフィー、コーヒーを入れてまいれ。」

「はい!粉にしておいて正解でしたね。」

「ああ、フィーとやら、うちの若いものにも入れ方を見せてくれ!」

「はーい!」

フィーが厨房へ向かっていく。ニードホッグは楽しみでしょうがないようだ。

「おそらく、医療の神になったタスク、ああ御子のことなのだが。彼が我が郷に恩恵を下さっているようでな、多くの新たな植物が発見され薬師が分類しているところだ。このマナのめぐりをよくする薬もお主に分けよう。まだまだやりたいことがあるじゃろうて。お前が今までやって来たことを教えてくれぬか?」

「ああ、その通りだ。長くなるが…」


学び舎を作ってな、まず歴史を編集して残すことにしたのだ。神々の恩恵を忘れぬようにな、我らがいかに知性をいただいたのか。あの氷河期に精霊様に救ってもらったことをな。その過程で文字を多くの子供や民達に教えたのだ。その民達が文字の便利さに気付き、子供達に教える職業も作った。文字の記録に粘土板は扱いにくいとあるものが、木版にタールで書き込むことで一気に普及したのだ。

その中で、神々との契約について研究するものも出てきた故に、神学というものも作った。今は神々の恩恵を子供に教えるための教会を作っているという。

その契約において、読み文字の他の文字があることで、数字に何か意味があるのかと考えるものがでた。すると理知的な奴が、それを物を数える文字だと発見した。数字の扱い方においては、あやつは狂気に近い考えをしておってな、それこそ常に数字の扱い方について研究し、算学という物を作った。数字を操る考えのことだな。こやつの仲間が、商売にも算学を使うことを考え、金札、銀札で物の価値を決めることを行うことでぼったくりがなくなることを我に提案してな。

物々交換を禁止して、札の使用で経済が潤った。

あとは数字とは便利な物で、建築にも使えることを先に話した奴が発見したのだ。物の大きさにも適応させて、建築資材を効率的に使うことができるようになった。

あとは月を見ているうちに月の満ち欠けが一定であることに気づいたものがいて、暦を作ったな。

最初は月の名前で全て決めていたのだが、いちいち月の呼び方で面倒であろう。ここでも数字を使って日を定義させている。

そうそう月といえば、満月を観た奴がな。木を円の形で掘ってみたところ転がるっていうことで、子供たちが遊び始めたのだ。これまた、転がる物を見て箱に円の木をつけることで簡単に動く車なる物を作ったな。あれのおかげで農園の荷物が運びやすいと評判であるよ。

あとは羊の毛を刈り取って糸にする技術ができたのだ。最初は綿にしか使っていなかったのだがな。毛の一本一本を長く使えたらと考える奴が出てきてな、糸ができ、布を作った。最初は色とりどりだったのだが、羊飼いが植物の灰で白くすることができると言ってな。

生活に使えるものがないか今も研究している。

「と、まあ、多くの分野において学ぶことが発見された。」

一気に話した間にコーヒーが届き、フィーも途中から聞いていた。

「素晴らしいですね!うちにはないものが沢山あります!」

「ああ、途中から頭に入らなくなったが、お前の作り出した学問が国を盛り上げていることがわかった。…提案なのだが、我らの郷から若いものを多くここに学びに来させたい。」

「おお、来い。学ぶ意欲は何よりも素晴らしい。若いのをどんどん送ってくれ。それと喉が渇いたな。これがコーヒーか?」

「あ、そうです。」

湯呑みの中のコーヒーを恐る恐るのむニードホッグ。アウローラは苦さで驚くかと思い、少し反応を楽しむ予定であった。

「これは!眠気が覚める苦さ!薬効もあると言ったな!」

めちゃくちゃ、喜んでいる。苦いと言って吹き出してしまうと思ったが。

「ああ、我が国からこれを輸出しよう。薬草とともにな。他にも農作物に関しては、ここよりも進んでおる。ドラゴニアからは技術と学問を、妖精郷からは薬草や医療、農作物を出そう。」

「おお、薬草についての研究も進みそうだな。良いだろう。では、交流をして参ろうぞ。ふむ、交流するにも道と海を渡る術が必要だな。最初のうちは、我らドラゴンが運ぼう。」

「我らが死んだ後も、若者は多くの物を生み出すだろうて。海を渡る乗り物もできるのであろうな。」

「ああ、楽しみであるな。」

「おお、獣人の天照の国や混血の国にも声をかけておいた方がよさそうだな。」

「混血の国か、人族や我らの血が混ざった者たちか。あそこは長がおらぬと聞く。」

「ああ、あそこも長らく小さな集落が絶え間なく争っておってなぁ。最近、集落をまとめる奴が出てきたという。」

「ふむ、あそこに使節団を送るときは戦闘も考えて準備しておいた方がよさそうであるな。」

「定期的に国の長同士、もしくは代表者で話し合いをもち交流を持った方が良さそうだ。せっかく神々が作りたもうたこの星で分かれていてはもったいない。」

「そうじゃな、今日まで知らなかったことが多すぎた。フローラリアが紡いでくれた縁なのかもしれぬな…」

神になったフローラリアもきっと喜んでくれるに違いない。アウローラは命果てるまでこの交流に力を注ぐことを決意した。


そうして始まった留学制度は世界に共通の経済観念と文字の普及、学問、文化、医療の普及をもたらした。ドラゴニアで学んだ者たちが祖国に戻り、また発展させていく。

そして思いがけなかったのは獣人の国、天照で紙が発見されていたことであった。

紙は一気に普及し、世界中に個人単位の交流をもたらした。また、教会も大きくなり、神々との契約や交流を記した聖書が発行され信仰が絶えることはなくなった。


一気に文明が発展したせいで、成人したばかりのアウクトゥスは必死に眷属を増やしていた。その中にはオリジン待望の料理の神もいたため歓喜したという。

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