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フローラリアとアウローラと、命と

フローラリアの出産劇。神と人の悲劇

主神の玉座の前には神々と精霊王が並び、その中心にはステラとアトムがいた。

ステラに首根っこを掴まれた大柄のアトム。


大柄なのに縮こまり、萎縮する彼を見て神々が動揺している。主神はアトムの気持ちもわからんでもないし、とは言ってルールを破った彼の行いは他の子供に示しがつかない。しかも生まれてくる子供は神であることを知っていた。フローラリアの体は持たないだろうとも。今まで妻に任せっきりだったが、神の頂点に立つものとしての方針を決めねばならない。

「さて、アトム。みんなに説明してくれるかい?」

「はい…地上にアバターを送り、妖精王の孫娘フローラリアに一目惚れし、権能を用いて貴金属と宝石を作り興味を引きました。その後、夫婦になったあとフローラリアが妊娠しました。申し訳ありません!フローラリアの心根が美しく、そして一目惚れしてしまい…自分も父上や母上のように子を持ちたいと思ってしまったのです!」

「なるほど、男としての気持ちはわかるが力を使ったのはルール違反だ。わかるかい?君が繰り返し地上で力を使った事でアバターにも力が宿り、成した子供は神の力を持っている。出産でフローラリアの体に神力が満たされて、耐えきれず死んでしまう。」

「そんな…!」

メソメソと泣き始めるアトム、しかしその後ろで怒りのオーラを纏い彼に殴りつけるテラがいた。

「なんという事を!私の子供達に!」

テラにとっては地上にいるもの全てが子供である。その子供が神の介入で死んでしまうとあって、怒り心頭である。アトムも覚悟していたらしく、殴られ続けている。

「ま、まぁそこら辺にしてあげて…」

ステラは引き気味に彼女を止めようとするが、テラは泣いていた。

「だって!アトム兄様が何もしなかったら、あの子は命を散らす事なく、アウローラも未練なく寿命を迎えることができたのに!フローラリアのことが心配でアウローラは伏せっています。フローラリアも我が子と過ごすことなく死んでしまう…!」

泣き続けながらボコスカに殴り続けた。アトムの顔が激しく腫れ始めたのを見て、主神はそろそろかなと立ち上がる。

「ステラ、流石にそろそろ止めよう。アトムの顔を見てフローラリアも泣いてしまうよ。」

「ですが、お父様…」

「今回は特例中の特例。僕とオリジンの力を貸してあげよう。先程オリジンと相談してね。フローラリアをテラの養女として、神へ昇華させることにしたよ。植物の管理に長けているというからね、地上の植物達を管理してもらう。神の体でなら出産も耐えられるし、フローラリアも子供と過ごすことができるからね。」

「父上…ありがとうございます…」

「ただし、彼女は命の循環から外れてしまうからね。転生を繰り返す中で親しい人達と再び過ごすことはない。アウローラ達とは永遠に出会うことはない。今が最後になる。アトム、君は介入したことで、彼女達の絆を断ち切ってしまう。それを謝ってきなさい。」

「はい…」

「あとは地上の民達にも、神と分かっていて近づく者が増えないように神の子供を出産したためフローラリアは死んだということにする。子供を優先し、神の力に耐えられなかったと詩人に歌わせよう。」

「…テラは…許せません。アトムお兄様に、何か罰を。」

「そうだね。ではこうしよう。テラの気が済むまで、アトムはフローラリアに触れるたびに痛みが走るようにしよう。罪を忘れず、痛みに耐えながらもフローラリアを愛し抜きなさい。痛みの強さは…気を失わない程度かな?」

「それであれば…まぁ。」

「私からも感謝申し上げます、お父様。」

テラは深々と頭を下げる。アホな事をしたのは片割れだが、アバターを夜な夜な使う此奴を止められなかった自分もいたからだ。フローラリアが来たら、ステラ自身も謝ろうと思う。

「アトム、ステラとテラにお詫びをするようにね。」

「はい。望むものを差し出します…」

「そうですね、ダイヤモンドのティアラをもらおうかしら。恒星の数だけ、宝石をはめてもらいます。」

「ステラは恒星がいくつあると思っているのかな、君の頭がダイヤモンドで覆われるよ?」

「テラは生まれてくる赤ちゃんに銀の匙をプレゼントしたいです。いくらでも食事を食べれるように。」

「テラらしいね、フローラリアはテラの養女になるから孫になるわけだ。優しい祖母に恵まれるね。」

「おばあちゃん…になるんですね。」

和やかになってきた。主神はふふっと笑う。

「そういえばお父様。お母様は?」

「ああ、地上で昇華の準備をしてるのと、アウローラに説明しに行ったよ。」

「え、降臨なされたのですか?」

「さすがにアバターを使って接触するよ。アトムの使者としてね。ただ、アウローラには流石にバレるからね。あの王族には神と明かすそうだ、母として申し訳ないと謝罪すると。」

「…アトム、お母様に最大級の飾り物をプレゼントするのよ。」

ステラは片割れの脇腹を肘でつつく。

「ああ…」

「他の神々も今後この様なことがない様に。いいね。地上で恋してもいいけど、神としての力を使わないこと!」

「「はい」」



一方オリジンは妖精王のもとにいた。フローラリアも同席している。

「貴方がフローラリアさんね、花冠ありがとう。」

「いえ、オリジン様に気に入っていただき、ありがたき幸せです。あの…お腹のこの子は…」

「これ、フローラリア。オリジン様からお話があるというのに、先に話すでない。」

年老いたアウローラがフローラリアを嗜める。

「いいのよ、母親なら心配だもの。わかるわ。私も出産してるし、気持ちはよーくわかる。」

「オリジン様…ありがとうございます…」

「あと、アトムのこと。愛してくれてありがとう。あと、ごめんなさいね。騒動に巻き込んでしまって、母として謝罪いたします。」

オリジンは以前社会人の頃にやっていた、綺麗な謝罪のポーズをする。

「そそそんな、オリジン様!こちらが全て悪いのです。アトム様の愛を…人のみでありながら受け入れてしまったのは私の罪です。…ですが、生まれてくるこの子にはなんの罪もありません。私は出産で死んでも構いません。ただ、この子をアトム様の元へ…」

フローラリアは泣きながらオリジンにひざまづく。

「ああ、フローラリア…私より先に逝くなど…」

アウローラもすっかり弱ってしまっている。

「そうよ、フローラリア。アウローラより先に逝くのはダメよ。子供のためにも生きなさい。そのために私が降臨したのだから。いい?よく、聞くのよ?」

そう言われたフローラリアは緊張の面持ちで、オリジンの言葉に耳を傾ける。

「フローラリアを神の一族に迎えます。うちのテラの養女としてね。そのために妖精の体を、無理やり神に書き換えるわ。でないと、出産の時に子供の力が強すぎて貴方が死んでしまうから。」

「わ、私が神になるのですか…?」

「ええ、本来なら徳を積んだ魂が昇華されるのだけどね。貴方の力が特殊だからできる技よ。貴方は植物を扱う権能がある。他の神に比べたら、微々たるものだったけれどアトムと触れ合ううちに強くなっていったのね。神になれるだけの力に成長してるわ。それを利用して、私の一部をコピーした素体に出産で離れた魂と力を突っ込む。妖精としては死んでしまうけど、そばで神の体を得るという感じね。」

「オリジン様の体をいただく…???」

「あ、大丈夫。今までめちゃくちゃやってるから。」

アウローラとフローラリアはよくわからなかったようだ。まぁ、マクスウェル達にやったことの応用なのだけれど、と付け加える。

「だから、安心なさいな。ただ、魂の循環から外れてしまうから…出産が最後。他の家族とは縁が切れてしまうわ。生まれ変わっても会うことができなくなる。」

「…覚悟はしておりました。ですが、フローラリアが子供と共に健やかに過ごしていることがわかれば我らも安心できます。それに、この子の両親はすでに他界しておりますゆえ…」

「そうだったのね…アウローラ。出産のその日までフローラリアと十分に話しておきなさい。後悔のない様に。あと、民達にはフローラリアは神の子を生んで死んだと言いなさい。今後、この様なことがあれば、対応できないから。」

「わかりました。詩人にうたわせましょう。戒めとして。」

「では、フローラリア。出産までは私が付き添うわ。」

「ありがとうございます…」


アウローラとフローラリアは日々お腹な子供のことだったり、フローラリアの両親の馴れ初めを聞いたり、妖精王の生き様を聞いていた。ひと時も無駄にはできない。

祖母と孫の時間が過ぎていく。砂時計の様なそれは残酷でもあり、命のあり方を見せつけられる様だった。


そして、迎えた出産の日。流石にアトムもアバターで降りてきた。

罪の証が痛むだろうに、陣痛で苦しむフローラリアの手を握る。

「がんばってくれ、フローラリア。」

「アトム様…!私、頑張って産んで見せますから…!」

気丈な子だと思う。

「頭が出てきたわ。フローラリア…大丈夫?」

アニマが声をかける。そろそろ子供の力がフローラリアの身体を焼く。オリジンは素体を用意して魂が離れる瞬間を待っている状態だ。

「だい…じょうぶで…す!ぐうぅー…」

「分かった、続けて力んで。」

アトムが涙を流す。フローラリアの顔が青ざめていく上に、マナの流れが狂っているのがわかるためだ。身を焼かれる痛みと陣痛で普通ならば気を失っていそうな状態だ。

「あと、少し!」

「あああああああああ!!!!」


「ふぇ、ふええええええん!!」

その産声を聞いた瞬間、彼女は息絶えた。オリジンはすかさずむんずと魂を掴み、素体へと移動させる。

素体は光と共に緑色の髪になったフローラリアへと変わっていく。魂が死んだ瞬間に気を失っていたのか、神となったフローラリアの意識はない。

「フローラリア!」

「少し休ませないと、流石に消耗し過ぎだわ。」

オリジンがアトムにフローラリアを渡す。ぐったりとした彼女を天界へ連れていく様に話す。

「フローラリア!ああ、天界で健やかに…」

アウローラが悲痛な声をだす。そして、死んでしまったフローラリアの妖精としての身体に突っ伏して泣いていた。

「アウローラ、ひ孫さんも抱いてあげて。この子も天界に向かうの。これっきりになるから…」

オリジンはアニマに命じて、生まれてきたばかりのその子をアウローラに抱かせる。

「おお、あの子に似て…かつアトム様の力を感じます…オリジン様…どうか、私目にこの子の名前をつけさせていただけませぬでしょうか。老婆からのたった一つの…贈り物を。」

「ええ、構わない。むしろつけてあげて。」

「では、救いの意味を込めててやりたいと思います。タスク、はいかがでしょう。」

言葉を日本語で共通にしてしまった為、思い切り日本名になってしまった。だが、アウローラはその名前に祈りを込めた。そして、その名前は間違いでもない。

「そうね、この子は医療の神になるのだから人を助けるタスクね。いい名前ね、アウローラ。」

「そうなのですね、ああ、タスクよ。これからも人々を助けていくのじゃよ…ばぁばは見守ることができぬが、いつかフローラリアから聞いてたもれ…」


アトムはフローラリアを抱きしめ、一部始終を見ていた。

「アウローラ、妖精王よ。このたびは本当にすまなかった。時々フローラリアとタスクから手紙を出させる。」

「アトム様、無茶はこれっきりになされよ。そして、フローラリアとタスクを頼みます。」


その日、妖精郷では訃報が流れた。神の子を産んだフローラリアが子供と共に死んだと。

フローラリアの亡骸は民達に多くの花で包まれ、花畑の中に埋められていった。

この物語は世界が終わるまで、語り継がれることになる。歌として誰しもが知る。妖精と神の恋。そして、破滅へと向かうフローラリアの悲恋を人々は歌い続けた。


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