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アトムがやっちまったよ!

アトムも1人の男なのでした。

アトムは地上に興味があった。自身が生み出したのは原子であり、無機物が有機物となり、そして自分たちと同じように暮らす姿が面白かった。

父である創世神と母であるオリジンは次々と多くのものを生み出していく。氷河期を乗り越えた生物達は我々に似た存在になっていく。

変化を直に見てみたいと思った。故に神のアバターシステムを初めに使った。テラにも報告して、妹は「是非、神々の恩恵を受けた星を見てくださいね」と話して笑顔で送り出した。

そして人の身として降りたアトムは妖精が多く集まる、妖精郷に降り立った。

そこは緑に覆われ、中央には太古から育っていたと思われる巨樹がある。おそらく土の精霊の恩恵を十分に受けたのであろう。

人々はマナをうまく使い蝶のような羽で飛んでいた。賑わいはなかなかの物で市場に行くと、みたことのない物が物々交換で交換されていた。なるほど、価値のあるものを出せば欲しい物が手に入るのかと判断し、日がな市場を見続けて価値の高いもの、逆に見向きもされないものを見出した。

どうもこの民達は金属、それも金や銀を好むらしい。チタンのような合金はまだ作れていないらしい。他にも宝石を見せると多くの商品を差し出していた。

その金、銀、宝石がどうなるのかと聞いてみたところ、商人は笑いながら加工して飾りにするのだと話した。最もそんな細かいことができるのはマナと聖霊の力をよりうまく使える技術者だけだし、買えるのは王族だけだという。

そして、その王族というのはなんなのかがわからなかった。民達の中にも序列があるのかと商人に聞いたが、何を当たり前の話をしているのかと呆れられた。

「あんたはなんも知らんのか、天の神々から直接恩恵を受けた妖精の原点であるアウローラ様に連なる妖精の一族だ。力も強いし、信頼も厚く、代々聖地に赴く聖女達を送り出すのも王族だ。」

聖地において各部族が責任者を出しているのは知っていたが、そういう位の高いものが行くとは知らなかった。

「ほれ、見てみろ。ちょうど王族のお越しだ。聖地からお帰りになられたフローラリア様をお迎えに行かれていたんだよ。見に行ってみな!」

そう言われて、その王族の行列をみにいった。妖精族達の野次馬の中で王族達はゆったりと騎鳥に乗って民達に手を振っている。

確かに王族達はそれぞれマナを多く含んだ貴金属と宝石でできた飾りをつけていた。

「ふむ、ああいうのを父上に差し上げてもいいかもしれないな。」

デザインを見て学ぼうとしていたところ、1人だけ飾りをつけずに花で金の髪を結い上げている女性がいた。小さな花から大きな花まで色とりどりのそれは彼女の清楚さに磨きをかけていたし、彼女自体がとても美しかった。

隣にいる妖精族の者に尋ねてみる。

「あの花を飾りにしている女性のお名前はわかるか?」

「兄さん、旅しているのかい?あの方はフローラリア様だ。生まれつき花に愛されているらしい。宝石をつけなくても綺麗だよなぁ。なんでもオリジン様に花冠をプレゼントしたのもフローラリア様って噂だよ。」

母上のあの花冠は実に見事な品だった。彼女が作ったと聞いて納得した。と同時に彼女と話をしてみたいと思うようになっていた。

しかし悲しいかな、行列は小さな王宮の中に入ってしまい、彼女には会えず衛兵に怒られてしまった。そしてアトムは一計を案じた。宝石を好む彼らだ。金銀プラチナに加えて宝石を多くみせれば反応するに違いない。その宝石商になりすまし、彼女に会わせてもらおうと考えたのだ。

その準備のため郊外に行き、分子を操る。彼の皮袋の中は金銀、ダイヤモンドだらけになった。

小さな精霊達がダイヤモンドに興味を持ち中に入っていく。なるほど、彼らが好むのもわかる。精霊術に使うために宝石をつけているのか。であれば少し細工をしよう。確実に彼女に会うために。

初めて一目惚れをしたことに気づかないアトムはせっせと柄にもない細工を作っていく。


そして翌日、衛兵に宝石を握らせ宝石商として王宮に入ることができた。しばらくすると衛兵は報告に上がって、門へ戻ってきた。

「王があってみたいと仰せだ。今から行けるか?」

「ええ、是非とも。私の最高傑作をご覧になっていただきたい。」

そうやって、忍び込んだ。

王宮の中は大きな木の中を利用しており、もともと虫からの進化をした者達にとって過ごしやすい構造をしていた。マナに溢れており、土の精霊や水の精霊達が行き来している。

玉座の間という場所は布で仕切られているのみ。

「宝石商のものが参りました。我が王、アウローラ様。」

「良い、通せ。」

そうして、帳が開けられ妖精の女王がそこにはいた。確か太古の昔に助けた原初の妖精だ。生き残っているたった1人の始まりの妖精だ。

「人払いを!」

「ははっ!」

王の一言で玉座の間は2人きりになる。

「…アトム様でしたか…」

そうアウローラはいきなり話し出す。

「む、見破られてしまいましたか。」

「さすがに尊いお方の気はわかりますよ。宝石など持ってどうされたのですか。最高級のダイヤモンドで驚きました。このようなもの私も扱ったことがありませぬ。精霊達が非常に好んでいるのもうなづけます。土の精霊様達は宝石を好まれ、その中で休まれるのですよ。」

「ほう、そうだったのか。ノームからはそのようなことは聞いていなかったからな。」

「ノーム様は別格です。このダイヤモンドを是非買わせていただきたいのですが、高貴なお方にお出しできる品が…ありませぬ。我らでは力不足です…。」

「いや、あのフローラリアという娘と話をさせて欲しいのだ。」

「フローラリアでございますか。我が孫ですが…それだけでよろしいので?」

「ああ、この城にいる間、彼女と話をしてみたい。」

「宝石を好まぬ変わった子ではありますが…ええ、わかりました。城にアトム様の部屋を用意させましょう。フローラリアに向かうように話しておきます故。」

「ああ、かたじけない。」

そうして、王の許可をもらい一部屋を与えられたアトムは備え付けられた椅子の上で今か今かとと待っていた。

「お客人様、フローラリアでございます。」

「ああ、今戸を開けよう。」

そうしてドアを開けると、あの花々に包まれた彼女が目の前にいた。あまりに美しく、声も鈴のようだった。

部屋の中に通し、あつらえてあったソファーの上に彼女を座らせ向かいに座る。

改めてみると、心臓が強く動く。彼女に触れたいと思う。

「ああ、お会いできて光栄です。フローラリア様。」

「そんな…天上の方、尊いアトム様。頭をお上げくださいませ。それに、あ、あの」

「いや、あまりにそなたが美しくて…」

ーうまく話せないー

今何が起こった。心の声と口から出た言葉がまるっきり逆になった。ああ、父上の母上へのあのアプローチを真似ればよかったか?

「そ…そんな…私なんて…」

コホンと咳払いをして彼女に話しかける。

「君の美しさは宝石に勝る。その花々のように、清楚で美しい。母上の花冠を作ったと聞きました。」

「そうです。私は宝石を好みませんが、逆に花や植物に愛されているようで…こうやって。」

そう話す彼女は土の入った包みを出すと、見る見るうちにゼラニウムがそだち花をつけた。

「植物達が出てきてくれるのです。私の身に纏っている花々は木の枝から拝借しているのですが、私のマナを渡すことで生きながらえることができます。花々も私の守護をしてくれますので…助かっているのですよ。このゼラニウムはお土産にどうぞ。」

「愛されているのだな…」

「ええ、とても頼りになります。」

いかん、このままでは花に彼女をとられてしまう。

「ああ、そうだ。私からもプレゼントをしたいものがあったんだ。」

「ええ?」

困惑した彼女に金の箱を渡す。

「中を見てくれぬか?」

「お、重いですね…」

「ああ、すまない。私が開けよう。」

テーブルの上に金の箱をおき、開けるとプラチナの枝にピンクダイヤモンドでできた桜の花があった。

「わぁ!なんて美しいのでしょう。」

「きっと、そなたに似合うと思って…」

「私にですか!?」

「ああ、この花よりも君の方が美しいのだが、私に贈れるものと言ったらこれくらいしかない。」

「私なんかに、いいのでしょうか。」

「ああ、君に喜んでもらえるのならもっと作ろう。」

「では…ダリアの花…このような花です」

そうして差し出されたのは、大きな大輪の花であった。

「ああ、白いから普通のダイヤで良さそうだな。」

そうして彼女の目の前でダイヤのダリヤを作ってみせる。

「まぁ、こうしてみると私たち花を作れるもの同士のようですわね。」

「ふふ、そうやも知れんな。」

話は尽きず、もっと彼女に近づくため大量の宝石の花を作り、隣に座って彼女の花冠に彩りを加える。彼女自身もアトムに月桂樹の冠を作っては飾って見せる。

「やはり、君にはこのような宝石が似合いそうだ。」

「アトム様もお似合いですわ。」

にこやかに笑みを向ける彼女にアトムはもう我慢できなかった。思わず抱きしめた。

腕の中に収まってしまう彼女。

「え…」

「正直に話そう。そなたを好いてしまった。いつまでもこうして笑顔を独占したいのだ。」

「まぁ…私も…変わり者の妖精にこのように親身にしてくださる貴方が嬉しかったのです。」

目があったときに、思わずキスをした。


夜、寝所で彼らは話をしていた。彼女は妖精の王族の中で唯一の混血で、人族の血とドラゴンの血が混ざっているのだという。そのため独特のマナの使い方をし、一族の中で浮いていたこと。

宝石には心惹かれず、その代わり花でその身を飾る彼女は孤独を感じていた。

「それが、このような身に余る愛をいただき…幸せです。」

腕のなかで微笑む彼女が愛らしくて再びキスをする。どうにか彼女を妻にしたい。


翌朝、アウローラにフローラリアと婚約したいと話をした。

「私の孫娘をですか?それは…」

身分違いすぎる。アウローラは神の愛が本物だとしても、フローラリアが永遠の命を持つわけではないことを知っている。かくいう自身も寿命が近づいているのだ。

「我々は限りある命です。アトム様の伴侶として、あれが務まるか…不安です。」

「その命ある限り彼女を愛したいのだ。」

熱意が宝石になって出てきても困る。

「では、地上においでになった際には当方の客人としてお迎えいたしましょう。フローラリアといつでも会えるように。」

「助かる!」


そうしてアトムのお忍びは毎日続いた。毎晩彼女に会いにきたのだ。

アウローラは嫌な予感がした。神と妖精の子ができてしまうのではないか、心配で眠れなかったが、予感は的中した。

「アトム様!テラ様になんとお詫び申し上げれば良いのでしょうか…神々は我らに無闇にあってはならないと伺っております。それが子まで成したとなると…お怒りになられます。」

「ムゥ、いいではないか。フローラリアとの愛おしい子供だ。責任は持つ。」

どうするんだよ!と突っ込みたいアウローラだったが、決心した。

アトム神と双子の姉と言われるステラ様に進言しよう。要するにちくってしまおうというわけだ。

フローラリアの出産が近づいたある月、アウローラは聖地に向かった。

聖女達は突然のことで驚いているし、精霊王達も出てきた。

「どうなされた、妖精王。」

「私にはどうしようもできぬ事態が起きた故に、ステラ様にご報告申し上げたいのです。アトム様のことで…」

困惑する妖精王達であったが、年老いた彼女が1人でここまできたのだ。素直にステラに報告した。流石にステラも驚き、聖地に降り立つ。

「どうしたの?お母さまやテラではなく、私に相談事って。」

「それが…アトム様と我が孫娘が…結ばれ、孫娘は身篭っております。」

「…え。もう一回。」

「アトム様と孫娘が子供を作りました。しかも大量のダイヤでつって」

どストレートな言葉でステラはめまいがした。神々は地上の民達に過剰な力を見せてはいけないという暗黙のルールがある。神と諭されない程度に地上を楽しんでくれとテラに言われていたはずである。

「あいつ、夜な夜な引きこもってアバター使ってると思ったら…!子作りしてたの…!」

「そうでございます、集まるマナを見る限り強い御子でございます…」

ヘナヘナとアウローラの翅が力を失っていく。

「あああ、とりあえずちょっとアイツ捕まえてくるわ。吐かせる。」

「どうか、孫娘とその子供に…害がなければ良いのです。神の子供を出産したなぞ聞いたことがありません。孫娘が出産に耐えられず、子供まで命を落としては神の子を殺したも同然。どうかその時はお許しいただきたいのです。」

「そんなの、神々が全力でサポートするわよ!だから安心なさい!貴方の寿命を削ることなんてないんだから。シルフ、彼女を送っていってあげて。あとはなんとかするわ。」

「は…はい…。」


そうしてその晩がきた。アバターを起動させようと部屋に入ろうとする双子の片割れをガッチリホールドした。

「おいこら。アトム。何か報告していないことがあるわよね。」

「え。なんのことだか…」

目をそらすのはお父様の遺伝だわと思いつつも、コブラツイストをかまして締め上げる。

「アタタタタっ!ステラ!これには事情が!」

「ええ、全部吐いてもらうわよ!アウローラから報告は上がっているんだからね!!!!!」

そうして、全てを供述したアトム。ステラはカンカンである。怒りで恒星が一つ消えてブラックホールになった。

「お母さまとテラに言われたわよね、神と悟られないなら下界に行ってもいいと。民達が神々にこれ以上甘えないようにするためのルールだって知っているわよねぇ!?」

「はい、その通りです。」

「それが何、ダイヤモンド、金、銀、プラチナ、宝石を大量に出して、女の子を誘惑して妊娠させタァ!!??」

「その通りです…」

「あんた、どう責任取るつもりなの!?」

「フローラリアが命尽きるまでそばにいてやるつもりだ。子供も責任持って育てる…」

「あんた、その前に神なんだってば。子供がどんな力を持つかもわかんないでしょうが!普通の民になるわけないでしょう!その子を地上で育てるつもり?周りとは比較にならない権能もちになるかも知れないわよ!」

「…どうしよう…」

「テラとお父様、お母さまに報告しなさい。」

「…怒るだろうか…。」

「そりゃあ、テラはぶちぎれるわね。」

「私も、父上や母上のように子をなしたかったんだ…。」

「その話も、報告なさい。」

「はい…。」


そして、オリジンの出産までずるずると話を切り出さない双子の片割れにステラは怒りを感じていた。

それもそうだろう、オリジンの出産に天界はお祭り騒ぎだ。それも文明を司る世界の発展だ。

大騒ぎだ。そんな折、末の妹の恋愛事情について話が出た。まだ幼いポエナのことだから、全くその気はないのだろうが、別の男が過敏に反応している。

アイツ、いつ切り出すんだろうと。いいかげん彼女の子供も臨月を迎えてしまう。

ため息をついた。こういう時男はだらしないと、実感した。


オリジンの体が安定した頃を見計らって、神々への報告があると皆を集めてもらうように頼み込んだ。

「ステラ、どうしたの?恒星は安定しているようだけど。」

「いえ、全く別次元の話です。」

予め話しておこう、お母さまは寛大なお方だし。悪いようにはしないだろう、多分。

そうしてステラはアトムを呼び出し、オリジンに洗いざらい報告させた。頭を抱えるオリジン。

「…やっちゃったかぁ…。普通の人として子をなすぶんには問題なかったんだけど…」

「こいつ、思いっきり力使ってます。生まれてくる赤ちゃんもかなり力を持つでしょう。」

「まぁ、子供達の情操教育を怠った私のミスね。できちゃったのはしょうがない、花冠を作ってくれたフローラリアのためにも、力を貸しましょう。」

「母上…!ありがとうございます!」

「アトム、全てを許したわけではないわよ。皆んなに白状なさい。ルールを破ったこと。」

「はい…」

「さて、緊急会議よ。主神様をお連れするから、貴方達は玉座の間に向かってなさい。」


インティになんて言おうかと思いつつ、重い腰をあげた。

アニマには苦労をかけるわね…。そう思いつつ、夫の書斎へ向かった。

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