文明ができるよ!
シビライゼーションファンの皆様はご機嫌よう。残念ながら、このシリーズには開拓というシステムがないのだ。
いつもの寝所での愛の営みを終えて、一息ついていた。
なんで惚れちゃったかなぁ、大変な目にあったというのに。情が湧いて、結局彼の愛を受け入れた。その後は日々の寝所は夫のベッドになっているし、日々彼の想いを受け止めている自分がいる。今日もそうだった。
最初に眠そうなイケメンだと思った彼の顔は、いつしか優しい夫の顔になっていた。
「ふふ、こんなにイケメンで優しいんだから、私は恵まれているのね。」
なんとなく、彼の頬を突いてみる。
「うん?どうしたの?オリジン。」
「あなたが優しそうな顔をしていたから。」
「ふふ、優しいのは君もだよ。ねぇ、オリジン。僕の名前を呼んでくれるかい。」
考えたら彼の名前を呼ばず、あなたと呼び続けていた。
「神様は名前を呼んではならないものだと思っていました、すいません。でも私、あなたの名前を聞いていないわ。」
「それはまだ決まってないからだ。君に決めて欲しい。」
「え、そんな。私なんかでいいんですか?元人間ですよ?」
「いや、君が来てから僕のあり方は変わった。だから、君に僕の名前を初めに呼んで欲しい。君だけの特権ね。」
「私だけ呼んでいい名前…ですか。私が始まりのオリジンですので、同じ始まりを告げるラテン語のインティウム。愛称はインティでいいですか?」
「ああ、君の夫にふさわしい。ねぇ早速呼んでみてよ。」
いつになく真剣な眼差しで見つめられて、顔に血が上ってくる。さっきはもっと激しいことをしていたのにもかかわらずだ。
「い、イニティ?」
「オリジン、僕は君の名前をオリィと呼んでもいいかい?」
「ええ、イニティ。」
笑いかけると、満面の笑みで返してくる。
「ああ、オリィ。なんで君はこんなに可愛いんだろうねぇ。」
抱きつかれて、、また長いキスをした。結局、今夜は眠れなさそうだ。
そうして、またしても受胎した。
またしても妊婦の姿になった自分はレクスとアニマの報告を受けている。1回目の妊娠で女神の体は慣れてしまったのか、つわりは無い。その上、成長スピードが桁外れである。臨月の状態である。
法が作られてからというものの、民達のあり方は大きく変化しているようだ。思想によりけりだと思うのだが、グループを作りルールを作り出しているのだという。それに伴う受胎か。
ただ、レクスのところに法案が届かないことが不安だった。
「民達もまだ悩んでいるんでしょうか。」
「そうなのかしら?私が妊娠したってことは新たな神が生まれるってことだし、何かしら変化が生まれる前兆なのかもしれないわよ?」
「なるほど。」
「まずは地上の情報を集めてみましょう。シルフ!出てきてくれる?」
呼びかけると羽をはためかせ風とともに現れる。体は小さいが大気のエアとともに情報通でもある。
「はい!」
「地上の民達の様子を教えてくれる、何で悩んでるのか。」
「はい、ちょっとみてきますね!」
そういうとそよ風が通り抜けていく。妊娠中の私を気遣っているのだろう。
そうして彼女は情報を伝えてくれた。
「まず、神託の内容と神々との法については口伝になってますね。」
「え?」
レクスはなんで?と言った顔である。
「あー、心当たりがあるわ。神に今あって、民達にないものなーんだ。」
アニマははっと気づく。
「文字ですね!」
「当たり、聞いた内容を覚えて歌や詩にして伝えている。そうじゃない?シルフ?」
「はい、そうです。風の精霊は歌が好きなので、よく聞いていますね。よく伝わっています。ただ、それぞれテンションが違うところもあって、古いドラゴン達がなんとか統一できないか考えているみたいです。サラマンダーがそう言っていました。」
「あああ、当たり前だと思っていましたぁぁ…法案が来ないのはそのせいですかああ」
レクスはガックリと肩を落としている。
「今受胎しているってことは彼らの変化に合わせて、神が生まれようとしているってことなのね。彼らが文字を解明するのが先か、文字を作るのが先か。」
レクスの頭を撫でるアニマを見て、笑っていると足元にコーギー…ではなくフェンリルがきた。
「姐さん、神竜のやつがお願いがあると。」
よく躾けられたもので、イニティの命令通り天上では小型犬サイズに地上ではいつもの大きさになるように言われている彼は、今は足元でおすわりをして報告してくる。
「あら、神竜なら私の神獣だから来てくれてもいいのに。」
「それが、地上のドラゴンを連れてきているもんで、お通ししてもいいか聞いてくれないかと。」
「地上のドラゴン…?」
ふと、彼の親友であるドラゴンの長老を思い出す。確かに彼らは仲が良かったが、ここまで連れてくるとは。
「あの子も賢いもの。理由があるのでしょう。お通ししてくれる?主神の間にお通ししてくれる?」
「てやんd…はい!」
なぜ、フェンリルの言葉使いがああなってしまったのかわからないが、頑張って主神の神獣として努力している子犬をみると笑ってしまう。
「ああ、アニマ、レクス。少し待っててくれる?」
「はい、母上、お手を。」
身重の身を案じてレクスが手をとってくれる。
「ありがとね。」
主神の間には既にドラゴン達が待機していた。夫の玉座のそばにあるオリジンのための花と木でできた椅子へ腰掛ける。
「オリジン様におきましては、ご懐妊おめでとうございます。この度は、我らの願いを聞いてくださいましてありがとうございます。そして主よ、いつもながら神々しいお姿。」
「やぁ!ドラゴンの長、久しぶりだねぇ。この前の法の取り決め以来かな?」
「ええ、お久しゅうございます。」
「それで、どうしたの?天上に来るなんて。ルールに一番厳しいあなたが、ここまで来るって何かあったの?」
「ええ、ご報告とお願いがあり参りました…この老いぼれ、どうやら命が後百年ほどのようです。体内のマナを集めるのもやっと、というところなのです。」
「そうか…君はあの氷河期の前から頑張ってきたけど、寿命が来たのか。」
「命あるものには全てにその限界があることは、あの氷河期で十分に理解しておりました。精霊様方のおかげで、なんとか生きながらえましたが…。それも限界のようです。」
「寂しいわね…あの恐竜全盛期を知る長老はいつまでも元気だと思っていたけど、魔術で頑張ってきたのね。」
「ええ、同胞達に春が訪れたことを報告できますでしょう。ですが、心配なのが神々様と精霊様方に助けられたあの頃を記憶しているものが減り、信仰に支障が出るのでは無いか。末裔らが感謝を忘れてしまわぬかと。」
「ああ、心配なのか。」
「故に、私は子供達や他の民達の子らに歴史を教え、伝えていこうと思うのです。今口伝で努力しておりますが、別に形あるものが欲しいのです。何か良き知恵がないものかと思い、神龍に聞いてみたところ…文字なるものがあるとのこと。」
「ああ、あなたは…」
文明の始祖になるのね。そう話そうとすると、お腹の子供が反応している。
「そうか、君はこの星に文明をもたらすものとなるのか。今、妻が育んでいるのは文明の神となるものみたいだ。タッグを組んで、しっかり末裔達に教えを伝えていくんだよ。」
「主よ、文明とはなんでしょうか。」
「君の知恵を伝え発展していく、知の集合体にして、文化、信仰、教育。あらゆる人の智を育てていくものだ。世界の発展だ。」
「おお、そのような大役をこの老いぼれにできますでしょうか。」
「後百年、できるだけやりなさい。そして、後につながるもの達が発展できるように、学ぶことを創る事を教えていきなさい。君にはその歴史の体現者だ。君と妖精王くらいにしかできないさ。」
その妖精王も確か伏せっていると聞いた。
「私にしかできぬという言葉、この余命を全てを使って全うして参ります。」
「ああ、真龍から文字を学ぶといい。そして、下界の民達に伝えれば君の事業の助けになるだろう。」
「はい。ああ、誠に私は幸せでございます…。」
そうやってドラゴンの長は神龍に連れられて、下界に戻って行った。
彼がいたところに鱗が落ちているところをみると、老いが確実に蝕んでいるのがわかる。可哀想とは思わない。ただ、オリジンは彼の満足のいくように生きて欲しいと願った。
「イニティ、レクス達を待たせているから…一緒にきてくれる?」
「ああ、オリィ。ゆっくり動くんだよ?」
「ありがとう。」
彼が命を落とし、生まれてくる神がいる。不思議なものだと思う。
「お母様、大丈夫ですか?」
「ええ、地上から文明の始祖になるドラゴンが来て文字を教えてくれと言ってきたの。お腹の子も反応していたようだから、きっとすぐに文字が伝わっていくわ。」
「それは!素晴らしいです!」
文明の発展と共にレクスの仕事が増えることになるのだが、そこは黙っておこう。
「文明が発展するのなら、きっとそのお腹の子の眷属だらけになるんでしょうね。楽しみです。」
アニマも嬉しそうだ。
「オリジンの歌とか作って欲しいなぁ。叙事詩にしてさ、いつ迄もいろん場所で詩人が歌うんだ…いと美しき女は神に見初められ、世界は作られた…なんてね!」
「お父様にしては素晴らしいアイデア!」
「にしては、は余計だろう。アニマ。」
「いえいえ、いつも余計なことばかり話してお母様を怒らせていらっしゃいますでしょう?」
娘の反抗期とはこういうものなんだろうか。神に反抗期ってあるんでしょうか。
「まあまあ、まずは主神様の歌からです。最初の段階で、ガス欠になって130億年寝たってところからかしら?」
「そうなのですか。マクスウェルお姉さまから聞いてはいましたが…。」
「あ…うん。」
軽蔑の目で見られる父親の姿を見ていてクスリと笑ってしまう。ただ、その前の話を知らない。そういえば名前だってこの前聞いたばかりだ。あれ、なんで彼は自分のことを言わないんだろう…。今度2人っきりになったら聞いてみようか。
すると、経験のある痛みがお腹を走る。
「あいた!」
「お母様!陣痛ですか!」
「そう見たいね。」
主神に抱えられ、以前と同じベッドで出産。痛みはあっという間に終わり、恐ろしいまでのスピード出産となった。
今回は一人っ子のようだ。以前と同じく産湯につけた主神は自身の子供を見て
「うん、オリジンの予想に違わず文明を司る子だ。」
ぴええとなく我が子を疲れた私のそばに連れて来てくれる。
「この子が…そうか。あのドラゴンの意思を継いで文明を発展させてくれるのね…。」
名前を考えねばと思っていた。ただ文明をラテン語にするのは気が引けた。cibilaizationは長すぎるし、文明の一括りにするのは民達の可能性を縛ってしまう気がした。
だから発展を祈願してアウクトゥスと名付けた。
「アウクトゥスか、いつもながら良い名前だなぁ。アウクトゥス、君はあのドラゴンと力を合わせて世界を豊かにしていくんだよ。」
主神の祝福を受けたその子は、泣き止みキャハハと笑い出した。
そしてレクスとペッカトゥム、ポエナは初めて出産をみた。
唸る母、産声を上げる自分たちの弟。喜ぶ両親と兄弟達の姿を見て感動していた。
「私たちもああやって生まれてきたのよね。」
「そうだよ〜、だからポエナは生き物の罪に気を失うほどの激痛とか与えちゃダメだよ。みんなああやって生まれてくるんだから。」
「う、でもでも。悪い子を止めておくにはああするしかないんだもの!」
「はぁ、罪を自覚させる程度でいいのに…。」
「あー!お兄ちゃん達はうるさーい!お母さん!抱っこしてもいい!?」
そうやって逃げていった妹は、生まれたばかりの弟をどう抱えるか、力を込めないようにマクスウェル達に注意されていた。
「や、柔らかすぎるうううううううう!!!!」
「レクス兄さん、僕は不安です。」
「ペッカトゥムは心配性だな。あいつもあいつなりにお前の仕事を無駄にしたくなくて頑張ってるんだ。きっとこれからは命の大切さもわかって女神らしくなっていくだろうさ。」
「ポエナもいつかお母様のように、良き伴侶を得て出産とかするんでしょうか?」
そのペッカトゥムの何気ない言葉を主神であるインティウムの耳に届いていた。
「え…ポエナに彼氏できたの…」
「え?え?私に彼氏?そんなのいません!」
涙目になる主神の姿を見て、オリジンは笑う。いつか、この子達も恋することあるかもと思った。
「さすがにポエナはまだでしょう。他の子達は女神として十分に成長しているから、いつ彼氏を連れてきてもおかしくはないわねー。」
「オリジン!僕はお嫁には出さない主義なんだ!」
「ふふ、それは愛を司る神龍がどういうかですねぇ〜」
実に賑やかな我が家。いつか子供達の恋話を聞くときのために父親への教育が必要だと思うオリジンであった。
そして、焦る男が1人。主神ではない、奴がやらかしていることを秘密にしていることを双子の女神は気づいている。
こいつ、いつになったら説明する気なんだろう、と。きっとバレたらテラにぶん殴られるに違いないのにと。