感謝祭と春の訪れ
たまにはオリジンだって、恋をするのです。
春の訪れ、そして神の降臨。
生命たちのそれぞれの長達が相談をしたようで、神と精霊達に感謝をしたいという。
「お!お祭りかい?」
神竜はドラゴンの長として語り出す。
「ええ、我らの神々や共にすごした精霊様方にお礼を申し上げたいのです。代々、あの氷の時代に知識と生きるための糧をいただき、死してもなお励ましを頂きました。更なる発展をここにお約束し、豊かな世界を作りたく存じます。」
妖精の長はダンスを踊りながら
「その恵みを見ていただきたい!」
妖精は花の冠を作り、人は真珠のネックレスをオリジンと主神に捧げた。
「我らはいつまでもこの素晴らしい日を、苦難の日々を助けてくださった皆々様への感謝を末裔へと伝えてまいります。」
そこからはいつの間にか発達したというお酒が人から提供され、種族を超えたお祭りがはじった。
おそらく、ワインの原型なんだろう。赤いその飲み物を口にするとなかなか美味しい。度数が低いものの、甘みが残っているのだ。
「ここまで進化しているなんて。」
「マイハニー、君は過保護だったからね。たまには子供達には試練を与えないと成長もできないよ。大丈夫と言ったろう?」
「…むぅ、サボり魔に言われたくありませんが…今回私も寝てしまったし」
「お母様、130億年も働き詰めでしたし、あれくらい休んでも良かったのですよ。逆にほら、神々も自律的に増えて、負担は減っておられるかと。」
「そういえばそうね。とはいえ、知性が発達してきているからには更なる定義が溢れ出すわ。そこの所は大丈夫?」
「ええ、マクスウェルとマギカにおまかせください。これから人と妖精、ドラゴン達で交流し多くのものを生み出していくでしょう。それは我らの眷属で観察し、分析、定義し神のような高い権能が必要であれば用意致します。そうでなければ、四大精霊以外の精霊を配属します。」
なんだ。システムもできているのね。
コクコクとお酒を飲みつつ聞いていく。今まであったこと、以下に乗り越えてきたか。
オリジンである自分には記録として残っているが、彼らの気持ちを汲んであげたかった。主神も興味があったようで、祭りは延々と続き1週間という時間が過ぎた。
そして各部族の交流もなされ、この地は全ての生命の聖地に致します!と宣言された。
おお、聖地ができたか。と思う反面、この子らの親離れも考えていかねばならないと考えていた。親身にできるのはここまで、これ以上は彼らが依存してしまう。
祭りが終わったその後、神々は天界に戻った。
「下界の生命に寛大なお心掛け、誠にありがとうございました。」
テラは深深と頭をたれた。
「いいのよ。とても頑張ったのね。みんなの笑顔が素敵だったわ。」
「ええ、皆には苦労をかけました。そして、皆々様にもご心配をおかけしました。」
「そこで、オリジンとしてのアドバイスなんですけど」
「…ええ、神々はそろそろ下界から去る方が良いかと思います。彼らは春を迎え各々の力で生きていけますでしょう。私達はそれを見守りたいかと。」
「そっか。テラもそう思っていたのね。」
「あの聖地で、時折アドバイスをする。それくらいに留めておきます。」
「そうか、あのテラが大きくなったものだ。最初は核酸が崩れる度に泣いていたというのに。」
「…ちょっと!こんな時に可哀想じゃないの!」
「いえ、オリジン様。試練が私を強くしました。有難く感じております。」
「そう、それならいいわ。皆聞いたかしら?」
そう言うと神殿の玉座の間に並ぶ神々と精霊王はお互いに聖地での交流にとどめる件を承知した。
「あ、でも、たまには下界に降りたい。」
そう軽く宣うのは隣に座る主神。
「…核ゆ…」
手に力を込めて牽制する。
「あああ、やめてやめて!神として降りるんじゃなくて!僕も人間の形を借りておりるんだよ。人形みたいに!」
なるほど、あやつり人形として使うのか。いわゆるアバターのようなものか。
「いいですが、絶対に神とバレてはいけませんよ?下手に力を使うと、何しでかすか…。」
「ううう、信用ないなぁ。」
じっとりと、130億年の恨みを込めて、主神を見る。すっと目をそらす彼にもそれなりに自覚があるのだろう。
マクスウェルが恐る恐ると手をあげた。
「そ、それは私もやりたいです。お父様!」
マクスウェルは好奇心の塊。おそらく、これから生み出される多くのものを見てみたいのだろう。
それに続けと言わんばかりに私も、我もと賑やかになる。
「テラはそれでいい?」
「ええ、それと明かさなければ良いかと思われます。良き文化ができた際には、是非皆様にご堪能頂きたいですし。」
ニッコリと笑うテラがかわいい!
そして、来たれ!文明!早くこの神殿の調度品のレベルもあげていきたい。
コーヒーとかお茶とか、ケーキとか!考えるだけでたまらなくなってきた。さっきの真珠のネックレスを見る限り、そう遠くはなさそうだ。
「オリジンもやっと欲を出してきたね!」
主神が笑いながらこちらを見ていた。そうだ、全知全能だからわかったのか。
「構いませんでしょう。あの星はもうないでしょうし、楽しみがあったって…」
郷愁の思いがふとよぎる。もう130億年なんて、経っていたらあの星もないのだろう。あの文明を作り直す気はないけれど、できうることなら似たものは味わいたい。
「そうだよ!ほら、たまには神竜遊んできなよ!ね!」
ふと、隣に控えていたマイドラゴン、神竜くんと目が合う。にぱーっと笑顔を見せる彼は竜達と触れ合いたいのだろう。
「私は主神とオリジン様がイチャイチャしてデートするのもいいかと!」
忘れていた。こいつは愛を語らうドラゴンだった。
「ああ!いいねぇ!」
喜ぶ彼の顔を見ると、ふと“一目ボレだったんだ“という言葉を思い出した。人間だった頃はきっとそういう言葉に反応せず、相手を選んでいたに違いない。
ただ、こうも長く付き合っていると情が湧いてきているのだろうか。デートという言葉でポンと顔が赤くなった。
「あ、オリジン様から愛の感情を感じます!」
おいこら。勝手に言うでない。ドラゴンは嬉しそうに私たちを見てくる。
「お、やった!オリジンの愛とか嬉しいから、すぐ準備してくるよ!」
そう言うと彼は自分の工房を作ってくると言って、去っていった。同様に他の神々も自身の化身が欲しいのか、後についていく。
神龍とオリジン、そしてマクスウェルが残された。
「ふふふ、お母様にも春が来ているんですね。」
「もう、からかわないで!」
「私たちはお母様から作られましたが、決してお母様のコピーではありません。その…最初のキスで移されたというお父様の権能が神作りに関わっていたのでしょう。ゆえに、私たちは両親の愛の結晶と言えるわけです。もっと兄弟を期待してもいいでしょうか?」
「あああ、まさかこんな催促されるなんて…。」
「あ、後ですね。先程、アニマから報告を受けました。」
「何?アニマからと言うと生物達のことかしら?」
進化の真っ最中の生命に関してはアニマに任せきりである。
「ええ、地上の各種族が一堂に集いましたよね、先日。」
「そうね、人、ドラゴン、妖精。それに獣たち、植物の代表も…確かドライアドさんだったかしら?木に生えた思念だけ来たから驚いたけど。」
「ええ、あそこにいたのはごく一部ですが、交流が生まれた上にそこに愛を語る神龍がいました。」
「まさか、混血?」
「ええ、その通りです。もしかすると精霊も関わっているかも?種はかなり多くなりそうです。アニマと話していたのですが、彼らに混血させるのであれば差別を行わないようにだとか、道徳を教えるべきかと思いまして。」
「それもそうね…いつか信託として下しましょう。これは主神からの信託がいいわね、シンプルなものにして、あとは彼らの中でのルール作りをさせましょう。」
「で、あれば法の神が必要ですね。その神に誓って、法を守らせる。」
「そうねー…マクスウェルの分野とは言い難いわね。アニマでもないし…」
「ゆえに、兄弟を!」
くっ!話が再収束してしまった。こうまでしてせがまれると、なんとも言い返せない。私のいつものコピーでいいじゃないとは言えない。
「わかった!わかった!あ、地上のその種族の様子を見なきゃだわ!」
「あ、約束ですよーー、お母様!皆んなに頼まれているんです。」
慌てて逃げ出して、世界を眺めるためのテラスにでる。
神の目というものは実に便利である。宇宙の上にそびえるこの神殿だが、アースの細かいところまで見えるのだ。
とりあえずヒト属を見てみるか。
そうしてみると村があり、実際にドラゴンとの混血児のような子供がいた。
「はや!」
空を飛んで他の子供達に自慢しているようだ、だがそれに負けじと精霊との混血児の子供が蝶のような羽を羽ばたかせている。
「あわわわわ、これって。どこぞのファンタジーみたいな世界になりそうなんだけど。」
どの集落を見ても混血児が多い。おい、神龍仕事しすぎだ。これは、これで面白いのだけど、いくらなんでも早すぎる。頭を悩ませ続けるこの世界に手を焼いているのが現状だが、これも彼らの自由な生き方なんだと思う。ある親子を見ていたら、そんな心配はいらないように思えた。妖精の母とドラゴンの父だと思う。子供を見て楽しそうに笑っていた。
「まぁ、下手に集団意識が芽生えてから混血児が生まれるよりはいいか…。」
テラスから自身の部屋に戻ろうと扉に手をかけると主神が走ってくる。
「あら?人形作りはどうされたのですか?」
「ああ、アニマが一番うまくてね。彼女に任せてあるんだ。でさ、この前もらった花の冠!」
そう言って差し出されたのは花の冠がみずみずしく、その美しさを保っていた。
「ええ?結構時間が経ってしまって…もう枯れたかと思っていましたが。」
「ふふん、あの時の君がとても綺麗だったんだ。女神だからっていうのもあるんだけど、やっぱり僕には君しかいないし、この花冠は君にしか似合わないって。だから、この宇宙が終わるまでこのお花が輝けるようにしておいた。まあ、マナを吸って生きていると思っていいよ。」
そうやって彼は私の頭に花冠を乗せた。
「ああ、やっぱり綺麗だ。水鏡を持ってこようか。ああ、でも僕が見ているからいいかな?ねぇ、オリジン。僕は君のことが大好きだ。」
彼との子供を抱く自分の姿を思い浮かべて、それもいいのかもしれないと思えた。
「全く、核融合してくる女ですよ?」
「刺激的だよ!全くもって!でも、それがどうしたのさ。僕はへっちゃらだし、何より君の気が引けて嬉しい。」
「子供じゃあるまいし、そんな気の引き方しないでくださいますか?」
彼の両腕を思いっきり引っ張って、唇を奪ってみた。
「たまにはこういう大人の駆け引きがしたいのです。私は。」
「…うん!」
にっこり笑う彼と共に部屋に入っていった。